コテンリレー #017

「コテンはライト兄弟だ。」世界史データベースに見る、二段階の挑戦のレイヤー

歴史を面白く伝えるPodcast「COTEN RADIO(以下、コテンラジオ)」を配信している株式会社COTEN(以下、コテン)を追う「コテンリレー」。今回は、コテンが作ろうとしている「世界史データベース」の全貌について、歴史調査チームの観点で迫ってみました。

コテンラジオが生まれた背景やコテンメンバーの人となり、コテンが提唱するポスト資本主義やコテンラジオの裏側など、これまで様々なコテンの活動を追いかけてきたフクリパ編集部。
 
第16回で、きっと皆さんが気になっているであろう「世界史データベースってどんな形になるんだろう?」に真正面から迫りました。開発に携わる草野さんと平野さんに、主にエンジニアリング面からのお話を伺いました。
 

コテンリレー #016 コテンが目指す「世界史データベース」の全貌に迫る! 

今回は、以前コテンラジオの台本チーム・ディオゲネスのメンバーとして登場してくれた、室越龍之介さんと橋本雅也さんが再登場!世界史データベースを使うとどんなことができるようになるのかを、具体例や実例を交えながら解説してもらいました。


コテンリレー #07 コテンラジオの裏側潜入レポート第一弾! コテンラジオ台本(歴史)チームの膨大な作業工程に見る、「学び」の深淵

コテンラジオをお聴きの方はもちろんのこと、コテンのことをまだよく知らない方にも、コテンが何を目指しているのかがきっと今まで以上にご理解いただけると思います。

【世界史データベースとは】 コテン誕生に寄与した二人の話

コテンの世界史データベースは、現在3チームで構成されています。第16回で登場してくれた草野さんや平野さんが参加しているシステム開発を行うエンジニアチーム、開発されたシステムに歴史情報を入力していくデータ入力チーム、そして室越さんや橋本さんが担当している歴史をデータベース化するにあたり、格納ルールを構造化しているルール策定チーム
 
ルール策定チームは、コテンラジオの台本制作チームとほとんど同じメンバーです。このチームは、コテンラジオやデータベースのための歴史調査だけではなく子育てや社会善などの調査も行っているそうです。
 
橋本

シンクタンクと呼べるほどではありませんが、調査して取りまとめすることをメインにやっていますね。


橋本雅也さん 

さて、このシンクタンク的活動の具体的な内容についてものちほど伺いたいのですが、まずは室越さんや橋本さんのように、もともと歴史好きな人たちが、コテンの代表・深井さんの「世界史データベース」というものについてどのような印象を持っていたのかについて聞いてみました。
 
橋本

僕は純粋に、「あったらおもしろいだろうな」と思っていました。僕達のように歴史が好きで自分でも調べる人間であったとしても、図書館やインターネットだけで調べるには限界があります。福岡で例えるなら、旧ジュンク堂の最上階の一番奥の棚にひっそりと眠っているような書籍を探しまわって読むのはなかなか難しい。だからこそ、容易に歴史情報にアクセスできるデータベースがあると、とても便利だなと思っていました。


 

室越

僕は海外で働いていた時期があったので橋本君よりもあとからの加入になりますが、とはいえもう5年以上前からこの話はあって、主に深井君・橋本君、ヤンヤンとそのときに参加していた他のメンバーが、そもそも歴史をデータベース化するためのルール設計を一番最初の部分から地道に検証していたのを覚えています。

 
そう、コテンは世界史データベースを実現するために集まった会社であり、その広報活動としてあとから始まったのが、コテンラジオなのです。
 
今でこそ、世界史を年表軸で追えるもの地図軸で追えるもの、そしてそれらを用いてメタ認知に寄与する経営層向けのプログラムの3つを念頭に開発が進んでいるコテンの世界史データベース事業ですが、ここまで積み上げてきた試行錯誤は想像を絶します。
 

【タグの条件】 信長・秀吉・家康だけではメタ認知には足りない

室越

よく「Wikipediaみたいなものですか?」と聞かれるんですが、おそらく意味合いとしてはかなり違うものになるのでは、と考えています。僕たちは、「タグ」という概念を用いて歴史上の人物や事象を整理しようとしています。タグは何らかの特徴や属性を表現していて、同じ特徴や属性を持った人物や出来事が検索できるように設計されています。

 

過去に検討したタグ表の一部…まだまだずらーっと並んでいました

橋本

僕達は、メタ認知のきっかけを提供することをミッションとしており、世界史データベースがそのきっかけの一つになってほしいと思っています。そのためには、カテゴリーやパターンを網羅的に提示することが大切だと考えています。データベースに適用できるかは、これから考えなければならないのですが、例えばコテンでは、リーダーシップを十数種類のパターンに分類しています。これにより古今東西あらゆるリーダーをどこかのカテゴリーに分類できるのではないか、と考えている最中です。よくある「あなたは信長パターンか、秀吉パターンか、家康パターンか」という分類では、リーダーの属性をすべて網羅できているとは言えないのではないかと考えています。


 

室越

例えばイスラム教を創始したとされるムハンマドは信長とも秀吉とも家康とも確実に違うタイプのリーダーです。でも、国も時代も違うので、一概には比較できない。もし的確なパターン分類を作り出すことができれば、土地や時代に縛られない、統一的なリーダーのタイプを提示することができます。すると歴史上のリーダーたちを検索し、同じタイプのリーダーたちが環境の違いによってどのように別々の挙動となっていったのか、といったことを調べられるようになります。この点が、コテンの歴史データベースとWikipediaとの大きな違いだと考えています。

 
確かに「データベース」と聞くと、高校の歴史の授業で使った「用語集」のWEB版のようなものを想像しがちです。しかしそれでは、ある特定の単語や人物のことを認識していないと知り得ない情報が多いですし、そもそもメタ認知に必要な情報にはたどり着けそうにないように思います。


室越龍之介さん
 

室越

例えば、「死因」についてタグを整理するとして、水死とか轢死とかその原因をすべてタグにしていてはカテゴリーが細かすぎてデータべ—スとして有意義な検索結果を出すことができません。そこで、仮にこれを「事故死」「自然死」「病死」「自殺」と4つに分類してみます。すると、どんな死因も必ずどれかに属するように思えてきませんか?

しかし、「切腹」はどうでしょう。自分で腹を切るという行為自体は自殺のようにも思えます。ですが、誰かに命じられ切腹することもありますよね。このときは、どちらかというと自殺というより、刑死に近いニュアンスになります。そうすると、切腹を「自殺」と分類できるかがだいぶ怪しくなってきますよね。なので、「人間の死」をこの4つのパターンに分類するのは諦めました。その背景や行為などにより検索できる結果が変わってくるものをきちんと拾えないと、歴史から学べるはずの「構造」を正確に捉えたことにはならないからです。
 
別のケースを出すと、「出世」というのも難しい概念です。例えば、かなり歳を取ってから成功したケースとして、ケンタッキー・フライド・チキンを創業したカーネル・サンダースと古代中国の政治家百里奚(ひゃくりけい)を同時にヒットさせたいとします。ですが、「出世」と一口に言っても、カーネル・サンダースが生きた資本主義社会と百里奚が生きた封建・官僚社会では、意味合いが変わってしまいます。
 
また、「出世」の仕方としてもいくつかも種類が想定できます。豊臣秀吉のように士農工商などの社会身分をどんどん登っていたというパターンもありますし、平安時代の貴族が従五位から始まって四位、三位と登っていくというようなパターンもあります。また、職業上のポジションで、右大臣の次に左大臣になったり、車騎将軍から丞相になったりと出世していくこともあります。このような質感や粒感の違う社会上昇をなんらかの尺度で整理することで有意な検索結果に繋げたい。そのために、現状では、官職・位階、社会身分の概念を整理したり、社会身分を世界中で大胆に4区分に分ける方向で議論を重ねたりしています。


 
橋本

このように、どのような時代、国であっても、情報をきちんと整理できるようにするための「タグ」が必要なので、何百とタグを考え出しては削って、を繰り返してきました。現在ルール策定チームで定義しているタグの数は235ですが、これもまた今後増えていくと思います。

【ポスト資本主義】 コテンはライト兄弟である

ここであらためて、世界史データベースの構造や、「タグ」を整理し続けているお二人に、世界史データベースのその先にある未来について聞いてみたいと思います。
 

室越

僕達のように歴史が好きでもっと知りたい人が使い勝手が良いものになることはもちろんですが、もうひとつ、歴史以外のスキルをお持ちの方で、歴史のインサイトが掛け合わされることでレバレッジが効く方に使ってもらうことをまずは念頭に置いています

 
例えば、物理学の研究をされている方が歴史的なインサイトを得ることで新しい発見や知見を生み出せるとしましょう。しかし彼らは自分の研究で忙しいので、歴史の勉強まではできない。そんなときに、この世界史データベースがあることで、新しいアプローチが可能になるのではないかと期待しています。


 
身近なところでいうと、例えばドラマや映画の脚本にも使えるのでしょうか。
 

室越

そうですね。例えばですが、リア王をモチーフにした作品は、世に多く出ています。もしかしたら、リア王のようなテーマなんだけど、もっと違うストーリーラインがよい、みたいなことを考えた時に、データベースでそういう人物を見つけられるようになるかもしれません。

 
歴史以外の専門分野をお持ちの方が歴史によるメタ認知という武器を持つことで、想像もしなかったような新しい何かが生まれると考えると、非常にワクワクしますね。
 
橋本

もちろん特定のスキルをお持ちの方だけに向けてデータベースを作っているわけではありません。もし僕達が国立の研究機関などの人間であれば、最初から時間や資金を投じて、老若男女に使えるデータベースを研究すると思います。
 
しかし、僕らは株式会社としてこの事業をやろうとしています。そのため一定の期間で形にし、次の段階を目指す、というやり方にしなければ、会社を存続させるのが難しくなってしまいます。とはいえ特定の資本が入ってしまうと、その資本元の利益に準拠した開発となってしまう可能性があり、歴史データベースに望ましからぬ恣意性が入り込んでしまうかもしれません。だからこそ、「ポスト資本主義」という形をとっている、というのがこれまでの経緯です。
 
専門分野に歴史の知見がかけ合わさることで、新たな発見につながる可能性の高い人たちにまずは使ってもらい、裾野を広げていきながらみなさんにも利用してもらえるようにできたら良いな、と考えています。


 

室越

まぁ物理的にも、万人がなんにでも使えるものにすることを目指してしまうと何年かかるんだという話にもなります。ですので、段階的に必要なタグから進めていこう、という話です。

 
 
最後に、コテンとは、世界史データベースとはどのようなものなのかを伺ってみました。
 

室越

みなさんと世界史データベースの話をさせていただくと、たぶん、ジェット機がやってくると思われるのではないかと思うことがあります。ただ、僕らとしては、ライト兄弟が「飛行機を作りたい」と鳥人間コンテストに挑戦しているような段階なんです。世界史データベースの意義や利用法について多くの方は半信半疑だと思います。「空を飛びたい」という願いを誰もが絵空事だと思っていたライト兄弟の時代のようなものです。にもかかわらず、「それっていいね!」と一緒になって飛ぶためのチャレンジをしようと集まっているのがコテンだと思います。

 
僕は、深井君を経営者としておもしろいなと思っています。「あったら色んな人が便利になるし新しい技術や文化が生まれる」ことがわかっていても、現在の資本主義の構造では利益がすぐには生み出せないものが世の中にはあると思います。利益にならないので、普通誰も手を出しません。でも、深井くんは誰もが手を出せないことに挑戦しようとしています。だから、ユニークだしおもしろい。コテンにとっては、この「あったらみんなに良いもの」が世界史データベースであり、これを実現するという形でよりよい未来を目指しています。COTEN CREWになってくれている方々の中には、世界史そのものではなく、この資本主義構造への挑戦をしようという部分に賛同・共感してくださっている方もいると思います。
 
ライト兄弟が空を飛ぶという夢に挑戦した結果、飛行機という概念が一般化しました。ここに投資が集まって、航空会社や飛行機を製造する企業が生まれ、現在のように誰でも自由に空路で移動ができるようになるまでに、かなりの時間がかかりました。僕らの世界史データベースもまた、すぐには完成しないでしょう。でも、まず飛ばなければそこに投資が集まったり、マーケットが立ち上がったりしません。だからこそ、まずは利益度外視で「おもしろいね」と共感してくれる方々と一緒にこの開発を進めていこうと考えています。


 
歴史を用いたメタ認知による社会の変革という「ライト兄弟的挑戦」、そして資本主義構造では実現できないけれども大事なことに着手するという「ライト兄弟的挑戦」。世界史データベースにはこうした2つのレイヤーの挑戦があるのだとわかりました。
 
そしてここで、ライト兄弟という例えが言い得て妙とマッチしたのもまた、歴史の力。
 
世界史データベースの実現による社会変革は資本主義構造では難しいため、ポスト資本主義に踏み切ったコテン。その過程として、いまこのコテンの取り組みやコテンラジオというコンテンツをプロセスエコノミー的に享受できているという、我々は壮大な社会実証実験の生き証人なのです。
 
まだまだ開発には時間も労力もかかりますが、これからも、その姿をともに見守り、追いかけていきたいと思います。

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