『天神ビッグバン』絵巻:其の一 ~福岡市都心再開発の現在・過去・未来~

福岡市の都心部である天神地区では、再開発プロジェクトである『天神ビッグバン』の進展によって高層オフィスビルが相次いで登場します。まちの風景を一変させた天神ビッグバンに至るまでの道のり追い掛けながら、天神ビッグバンによって変貌していく福岡市・天神の現状をレポートします。


『天神ビッグバン』前史01~容積率問題と高さ制限問題~

天神ビッグバンで一気にビルの建て替えが進む福岡市・天神地区。
これまで長年にわたって建て替えが円滑に進まなかった大きな要因は、容積率問題と航空法による高さ制限だった。

1973年の都市計画法改正で福岡市都心部の容積率は400~800%になった一方、改正以前に建ったビルの中には指定容積率を超える物件も多数あった。
これらのビルを建て替えた場合、既存の階数よりも少ない階数になってしまうことになる。

また、福岡市の場合、市街地に空港があって便利な半面、航空法による高さ制限で都心部における高層ビルの建設は大きく制限されていた。

『天神ビッグバン』前史02~特再備地域とMDCと戦略特区~

福岡市都心部である福岡天神・渡辺通地域は2002年10月、都市再生の拠点として緊急かつ重点的に整備する『特定都市再生緊急整備地域』に指定された。
そして、同地区は2012年1月、博多駅周辺地区、ウォーターフロント地区を加えた福岡都心地域(231ヘクタール)へ範囲を拡大する地域統合を行った。

2008年6月、福岡市・天神を東西に走る明治通りを中心とした『天神明治通り地区』(MDC)の地権者11者は、老朽建物の機能更新と街づくりを推進していく官民連携組織として『天神明治通り街づくり協議会』を立ち上げた。
当時、同地区(17ヘクタール)に約100棟のビルがあり、うち約半数が築40年を超えていた。

一方、福岡市は2008年8月、まちづくりへの取組評価に基づいて容積率を緩和していく『福岡市都心部機能更新誘導方策』を策定してビルの建替促進に乗り出した。
2014年3月、日本の経済活性化を図るために地域限定で規制緩和や制度改革を行う国家戦略特区が始まり、福岡市は『グローバル創業・雇用創出特区』に選ばれた。
 

『天神ビッグバン』始動 01~天神交差点から半径500m圏~

福岡市は2015年2月、アジアの拠点都市としての役割・機能を高めて新たな空間や雇用を創出するプロジェクトとして『天神ビッグバン』を発表した。

福岡市都心部にある天神交差点を中心に半径500メートル圏内において航空法高さ制限の特例承認や福岡市独自の容積率緩和制度などを組み合わせていくことで民間活力を引き出しながら、耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを促進していく。
 

『天神ビッグバン』始動 02~容積率緩和と特例で高さ緩和~

天神ビッグバンでは従来ネックだった容積率問題について、魅力あるデザイン性に優れたビルに対して既存の容積率特例制度に加え、さらに最大50%緩和する。

一方、航空法による建物の高さ制限に対しても国家戦略特区による規制緩和として、エリア単位での特例承認を国に働き掛けた。
その結果、第1弾として従来、高さ約67メートルだった明治通り地区が約76メートルに緩和された。続く第2弾として2014年11月に2017年7月に従来高さ約76メートルに制限されていた旧大名小跡地が約115メートルになった
さらに第3弾として同年9月、明治通り地区西側が約76メートルから約115メートルに再緩和されて、東側も約76メートルから最大約100メートルになった。
 

『天神ビッグバン』始動03~試算で床1.7倍、雇用2.4倍~

天神ビッグバンでは、都市機能の大幅な向上や増床と共に雇用創出や創業支援、本社機能誘致などを推進している。
当初の試算によると、向こう10年間で30棟の民間ビルが建て替わった場合、延床面積は約1.7倍(44万4,000平方メートル⇒75万7,000平方メートル)、雇用者数は約2.4倍(3万9,900人⇒9万7,100人)となる。
そして、建替完了後から新たに毎年約8,500億円の経済波及効果を見込んでいた。
 

コロナ禍の『天神ビッグバン』で感染症対応シティへ

コロナ禍転じて世界に先がけた感染症対応シティとなす━━━━。
世界的流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス感染症の陽性者は、2022年8月までに全世界で累計6億人を超え、地球的規模で大きな爪痕を残している。

福岡市は2020年8月、「世界に先がけた感染症対応シティへ」「生まれ変わる 都心 ピンチをチャンスへ」を謳い、感染症時代に対応した安全安心なまちづくりを打ち出した。
感染症対応としてビルの換気や非接触、身体的距離の確保、通信環境の充実などの取り組みに対しては、新たに容積率を最大50%緩和する。

また、当初2024年12月末までに完成するビルが対象だった、都心部での機能更新誘導方策として容積率を緩和する『天神ビッグバンボーナス』は、2026年12月末の完成分までに期限を延長している。

 

天神ビッグバンで変貌し始めた街並みの風景

都心再開発プロジェクトである天神ビッグバンの進展と共に天神の風景も一変し始めた。
天神ビッグバンの始動後、その先陣を切ったのは、『水上公園』のリニュアルデビューだった。
その後、『天神ビジネスセンター』が誕生し、旧大名小学校跡地活用事業である『福岡大名ガーデンシティ』も近々、登場予定となっている。
 
 【 2016年09月 】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

①〝東のゲート〟『水上公園』の再整備事業が完成

天神ビッグバンにとって〝東のゲート〟となる『水上公園』は天神の東端、西日本最大の繁華街・中洲に面し、那珂川と薬院新川が合流する地点の剣先に位置する。 
天神ビッグバンの開始後、2015年11月に水上公園の再整備に着工して、翌2016年7月にリニューアルオープンし、レストラン施設『SHIP´S GARDEN』が開業した。
福岡市が所有する水上公園の再整備事業では、公募型プロポーザル方式を採用した。そして、西日本鉄道株式会社を代表とする『水上公園整備・管理運営コンソーシアム』が水上公園を借り受けて再整備をして、同施設を管理・運営している。
 
天神ビッグバンの〝東のゲート〟となる『水上公園』(画像提供:西日本鉄道)
 
【 2021年 09月 】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

②規制緩和第1号『天神ビジネスセンター』が完成

 
 天神ビッグバンでの規制緩和第1号である『天神ビジネスセンター』
 
天神ビッグバンでの規制緩和第1号である『天神ビジネスセンター』は2021年9月、航空法による高さ制限の緩和と福岡市独自の容積率緩和制度の活用、さらに魅力的でデザイン性に優れたビルに認定されて登場した。

福岡市・天神のほぼ中心部に位置する天神ビジネスセンターの西側である明治通りと因幡町通りの交差部は、上層部から低層部に向けてピクセル上に削ることで公共空間を創出している。
そして、地上部に広場を整備し、地下にも吹き抜けを持つオープンスペースを設けている。

天神ビジネスセンターでは、従来に無かった大規模免震構造を採用しており、法定の1.5倍の耐震性能を備える。
また、災害時に72時間対応可能なガスタービン発電機を設置する。さらにPM2.5に対応した高性能フィルター付き外気取込口や除菌ユニット付きの個別空調システムを設置している。

BCP(事業継続計画)に 対応した高機能オフィスビルである天神ビジネスセンターは、『CASBEE福岡』(福岡市建築物環境配慮制度)でAランクを得ている。
また、環境・社会に配慮した不動産を日本政策投資銀行と日本不動産研究所が認証する『DBJ Green Building 認証』でも4つ星を取得した。

地上19階建てである天神ビジネスセンターの地下2階に12店舗からなる飲食ゾーン『天神イナチカ』がある。
1階の商業ゾーンには、世界的なアウトドアアパレルブランド『patagonia(パタゴニア)』、ピッツァワールドカップ2012チャンピオンが腕をふるう イタリア料理『DA BOCCIANO』等が出店する。

1~3階には、西日本シティ銀行が天神支店、天神北支店およびNCBアルファ天神出張所を移転・集約させた。土日祝日も営業して資産運用相談を担当するNCBアルファ天神出張所と、西日本シティTT証券は富裕層向けの営業拠点に位置付ける。

12~14階には、ジャパネットホールディングスが人事・経理など主要な12部門を東京都から移転させて入居している。15階には、ボストン・コンサルティング・グループが、九州初の拠点となる福岡オフィスを構える。17~19階には、日本電気が九州内のNECグループ7社の主要拠点を移転・統合させている。

天神ビジネスセンターについて、福岡市の高島宗一郎市長は、以前のインタビューにおいて、次のように語っている。

天神ビッグバンの規制緩和第1号である『天神ビジネスセンター』には、これまで福岡になかったような企業が新たに入居しています。このように天神ビッグバンは単なるハード整備ではなく、高付加価値な企業を集積させて、自己実現できる場を作っていくという、実はソフト面のアップデートなのです。

 
【 2023年3月 】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

③〝西のゲート〟旧大名小に『福岡大名ガーデンシティ』

 
天神ビッグバンの〝西のゲート〟となる『福岡大名ガーデンシティ』(画像提供:積水ハウス)
 
天神ビッグバンにとって〝西のゲート〟となる旧大名小学校跡地には2023年3月、『福岡大名ガーデンシティ』が誕生する。

福岡大名ガーデンシティを生み出す契機になった『旧大名小学校跡地活用事業』では、福岡市が所有する旧大名小学校跡地での公募型プロポーザルを実施した。
その結果、2018年3月に優先交渉権者として積水ハウスを代表者とするグループを選んだ。2019年7月、同社を代表企業に『大名プロジェクト特定目的会社』を西日本鉄道、西部瓦斯、西日本新聞社、福岡商事の5社で設立して同年12月に着工した。

福岡大名ガーデンシティでは、北側に25階建てオフィス・ホテル棟(高さ約111メートル)、西側に公共施設などが入る11階建てコミュニティ棟を整備する。
また、約3,000平方メートルの広場も設けており、お祭りや文化行事などの賑わいや交流の拠点であると共に災害時に避難場所となる。
象徴的なソリッドデザインの外観を備えたガラス張りの25階建て高層タワーのオフィス・ホテル棟のうち、3階と5~16階はオフィスとなり、ワンフロア2,500平方メートルで総貸付面積約3万平方メートルという規模だ。
高度なセキュリティ機能をはじめ、BCP性能や耐震性を備えたハイグレードオフィスとなっている。

高層タワーの17~24階に九州初出店となる高級ブランドホテル『ザ・リッツ・カールトン福岡』が入り、50平方メートル以上の客室162室を設置する。
最上階のルーフトップバーをはじめ6つのレストランバー、ビジネス向けの会議室やボールルーム、室内プールやジムなどを備えて、2023年春に開業する予定だ。

一方、コミュニティ棟は、公民館や保育施設、グロ-バル企業で働く人向けの国際水準のレジデンス(住宅)が入居する。
コミュニティ棟内の創業支援・人材育成施設は、旧大名小学校南校舎にあるスタートアップ支援施設『Fukuoka Growth Next』とも連携していく。

いま大いに注目を集める福岡大名ガーデンシティは、いよいよ2023年3月にホテルを含む全体がお目見えする。
(続編:『天神ビッグバン』絵巻:其の二に続く) 

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参照サイト

福岡市『特定都市再生緊急整備地域』
世界に先がけた感染症対応シティへ!~生まれ変わる都心 ピンチをチャンスへ~
福岡市 水上公園 カフェ&レストラン
【公式】『天神ビジネスセンター』福岡地所株式会社
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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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