【福岡の“そと”の魅力】

可能性秘める「能古島」。博多湾に浮かぶ〝花と緑〟の島

暮らしやすさで定評がある福岡市に面した博多湾には、〝市民が休日を楽しむ〟オアシス的なスポット、自然豊かな「能古島」(福岡県福岡市西区)があります。古来、文化や歴史に恵まれ、巨匠や文豪らも愛した〝花と緑〟のこの島は、いろいろな可能性を秘めた〝魅惑の島〟でもあるのです。

フォーク界の巨匠・井上陽水も歌った、博多湾に浮かぶ「能古島」

 
博多湾に浮かぶ能古島は、一年中、花咲く緑豊かな島。福岡市民にとっては、〝オアシス〟といえる存在である。
 
福岡市都心部の天神地区、博多駅地区からは、能古島へ渡る姪浜渡船場を結ぶ路線バスがあり、それぞれ所要時間は30~40分。そして、福岡市営渡船に乗り込んで10分間の船旅を楽しむと、海に囲まれた緑の島に到着する。
 
福岡県出身のシンガーソングライターである井上陽水は、名曲『能古島の片想い』を自身のセカンドアルバム『陽水II センチメンタル』に収録する。1970年代、日本のフォーク界をリードした陽水は、能古島の砂浜から見上げた天空や対岸の眺めを切ない心情で歌い上げた。
 
また、『火宅の人』で知られる作家・檀一雄が、晩年を能古島で過ごしたことは有名な話。一雄の娘で女優・文筆家の檀ふみさんは、著書『父の縁側、私の書斎』で父の島内生活を描いている。檀一雄の文学碑が島内に建立されており、毎年5月の第3日曜日には故人を偲んで「花逢忌」が営まれている。
 
福岡市民にとって身近な〝オアシス〟といえる能古島は、文豪や大物アーティストらも愛した島でもあるのだ。

 

歴史と文化に育まれた〝花と緑〟の島は、国防上の最前線を担った

 
能古島は、南北3.5km、東西2km、周囲12km。

その面積は395haで、福岡空港(同353ha)より1回り大きい広さ。ヒョウタンの形をした島には、352世帯、670人が暮らす(2021年6月末現在)。

島内には、福岡市で初の小中一貫校があるが、高校はない。
 
写真提供:福岡市

島内からは磨製石器や弥生土器が発見されており、古くから人々が暮らす島であり、国防上の最前線でもあった。奈良時代に島北端の岬を守った防人を詠んだ和歌が、『万葉集』に収められている。また、島南部の北浦城跡は726年(神亀3年)に筑前守として下向し、大宰帥だった大伴旅人と共に筑紫歌壇を形成した山上憶良が築いたとする説もある。
 
1281年(弘安4年)の弘安の役では、この島にも上陸したという記録が残る。江戸時代には廻船業で栄え、1861年(文久元年)には、福岡藩が異国船対策として台場を設置している。
 
明治維新以降は、農業と漁業を主要産業として、甘夏みかんやニューサマーオレンジなど柑橘系農産品で有名。全国でも珍しい“ピーナツもやし”は、この島が発祥とされる。

能古島観光のメッカであり、島北端に広がる花畑で知られる「のこのしまアイランドパーク」には、能古島渡船場から路線バスで起伏の激しい細い山道を通り抜けて10分余りで到着する。
 
 

〝福岡の休日〟を満喫できる、民営の自然公園「のこのしまアイランドパーク」

 
桜、菜の花、ツツジ、マリーゴールド、アジサイ、ヒマワリ、コスモス、ダリア、紅葉、水仙、ツバキ……。年間を通して多彩な花を楽しめる民営の自然公園である「のこのしまアイランドパーク」には、家族連れやカップル、友人同士など多彩な人々が足を運ぶ。中でもこの公園の代名詞であるコスモスは毎秋、早咲き50万本、遅咲き30万本の花が咲き、秋の行楽シーズンには大勢の福岡市民が能古島へと渡る。
 

アイランドパーク園内には、レストランやバーベキューハウス、カフェ、ミニ動物園、昔懐かしい町並み、美術館がある。また、宿泊施設もあり、気軽にバカンス気分を味わうことができる。
 

運営する久保田観光(株)社長の久保田晋平さんは、自園の誕生経緯や魅力について次のように語る。
 
久保田さん

もともとサツマイモ農家を営んでいた創業者の父・耕作は、東京や大阪の大都会近郊の生産者に勝てないと自覚する一方で、コンクリートの建物で働き続けて疲れた都会の人々は、心を癒すために自然を求めると考えました。
そして、サツマイモ畑にツツジや芝などを植えながら、能古島の景観を生かした自然公園づくりを着想したことが、アイランドパーク誕生のきっかけになりました。

みなさんが日々いろいろなストレスを感じられる中、自然回帰をできる場になっている点が、アイランドパークの魅力ではないでしょうか。
花を眺めながら、のんびりとした時間を過ごすことで疲れた心身をリフレッシュしていくことは、人間の本能や本質にかなっていると考えます。



 

――15ヘクタールにも及ぶ広大なアイランドパークは、ストレス過多の現代人にとって癒しを得られる身近なスポットとしても支持されているのだ――
 
 

アイランドパークでの〝おもてなし〟は、東京ディズニーランド直伝!?

 
「東京ディズニーランド」vs.「のこのしまアイランドパーク」――。日本で最多となる年間3,000万人の来場者実績を誇る東京ディズニーランドに対して、来場者数ではその1%未満であるアイランドパークとの間には、意外なつながりがある。
 
久保田さんは高校卒業後、アメリカに2年間語学留学した際に、本場のディズニーランドを訪ねて感動を受け、帰国後、オープン間近だった東京ディズニーランドの運営会社である株式会社オリエンタルランドに正社員として就職した。そして3年半ほど勤務した後、家業であるアイランドパークへ戻ったのだという。
 
久保田さん

東京ディズニーランドでは、接客業の基本となる考え方を学び、アメリカ的なエンターテインメントによる〝おもてなし〟を体感しました。

東京ディズニーランドではファンづくりに心がけて、リピートしてもらえるように常に考えて行動していました。アイランドパークでもお客さまに満足していただくことでのファンづくりを通じて、リピート客に愛されるように取り組んでいます。

一日のんびりしてもらうスタイルを崩すことなく、それぞれの施設のグレードなどを上げていきながら、新たな楽しみも提案していく考えです。
これからも自然や景観を大切にしていきながら、お客さまにいつまでも愛される自然公園「のこのしまアイランドパーク」であり続けたいと思っています。




 
――アメリカ留学でディズニーランドと出会って、帰国後に体験した東京ディズニーランドでの学びは、アイランドパークでも受け継がれている――
 
 

福岡市による政令市初の規制緩和が、能古島の魅力を高めていく!?

 
福岡市都心部からほど近い能古島に豊かな自然が残る背景として、福岡市が島全体を「市街化調整区域」に指定して、開発を規制してきた点は大きい。しかし、自然を保全できた半面、人口減や高齢化、農業・漁業の担い手不足などの地域課題も生じた。
 
福岡市は課題解消に向けて2016年6月、政令指定都市として初となる市街化調整区域の基準見直しを発表した。福岡市が妥当と判断した開発事業について町内会や自治会の同意を得れば、市街化調整区域内でも観光客向けのレストランや体験型施設、宿泊施設などの建設が可能となった。
 
今後、能古島でも民間の斬新なアイデアを生かした魅力的な施設が登場し、豊かな自然と調和した持続的な発展を実現できれば、その魅力がより高まるだけでなく、果敢に規制緩和に挑む福岡市のシティブランドイメージも一層浸透していく。筆者はそう考える。

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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