最前線を経て、次世代をサポートする「大名の広報部長」・ビンゴボンゴグループ代表・宮野秀二郎さんが見る大名の今。そして、これから。

福岡は、東京を経由せず、直接アジアや世界を目指せる街。

福岡を語るうえで欠かすことのできない「大名」は、九州最大の繁華街・天神の西隣に位置し、福岡のトレンド発信地として多くの若者が訪れている街。といっても、かつては住宅が中心で、個性的なセレクトショップや古着店、飲食店や美容室などが集まり始めたのは30年ほど前のことです。その殆どの年月を「大名」で過ごしているビンゴボンゴグループの代表・宮野秀二郎さんに、「大名」という街への想い、これからのことを聞きました。

福岡を語るうえで欠かすことのできない街「大名」。九州最大の繁華街・天神の西隣に位置し、福岡のトレンド発信地として多くの若者が訪れている。といっても、かつては住宅が中心で、個性的なセレクトショップや古着店、飲食店や美容室などが集まり始めたのは30年ほど前のことだ。その殆どの年月を「大名」で過ごしている人物がいる。「大名」を拠点にアパレル事業や音楽事業を展開するビンゴボンゴグループの代表・宮野秀二郎さんだ。自身にとって初めてオープンさせた古着店「BINGOBONGO」は、今春20周年を迎えた。誰よりも「大名」を愛し、「大名」を盛り上げてきた宮野さんに、「大名」という街への想い、これからのことを聞いた。

大名を拠点に古着・音楽・食などの文化を発信!


10代前半から大名に通い、20代半ばで大名に自身の店「BINGOBONGO」を冓えた宮野さん。

宮野さんが大名に遊びに来はじめたのは14歳の頃。ファッションに興味を持ち、大名や今泉のセレクトショップを訪れていたという。高校、大学と進学したものの、その頃から将来はファッションの世界で働くことを決めていた。
 
宮野

14歳のときに父が50歳で他界したんです。そのときに、人はいつ死ぬかわからないのだから、好きなことを仕事にしようと決めました。大学を卒業したらすぐに自分の店を開くつもりだったけど、母から『あなた、洋服屋がどうやって成り立っているのかわかってるの?』と言われて。慌ててアルバイト雑誌を購入し、オリジナルのデニムやビンテージを扱っている大名のショップに面接に行きました

 
その面接で社長に気に入られ、運良く社員として採用された宮野さん。入社1年目からアメリカへの買い付けに同行するなど、さまざまな経験を重ね、2001年3月、大名に「BINGOBONGO」を開業する。


2021年春、20周年を迎えた「BINGOBONGO」

宮野

当時の大名は、大人の街と言われていました。平日はそこまで人も多くなくて、週末は大人たちがセレクトショップに買い物に来る感じで。あの頃はビームスもアローズも大名にありましたからね。今では殆どが商業施設に移ってしまいましたけど。

2001年に僕たちが『BINGOBONGO』を始めて、古着ブームもあって。WEGOやSPINNSが出店してきたこともあって一気に低年齢化が進み、若者の街と言われるようになりました。あの頃は自分たちが街をつくっている感覚でしたね

 
2006年には飲食事業をスタート。順調に店舗を増やしていったものの、2016年に全てを閉店させた。
 
宮野

2006年に『ダイニングカフェ7』をオープンしたときは、本当に大変でした。飲食の経験がないままに始めてしまったので苦労しましたね。ビンゴボンゴグループの経営理念は『火のように水のように』なのですが、その頃、『火のように』という言葉が生まれました。スタッフ全員で、人の心を温めることのできる場所であろう、太陽のように人々を照らせる人になろうと必死にやってきて、1年ほどでようやく軌道にのったんです。
 
以来、飲食事業は順調でずっと利益を出していて、社内でも重要な事業へと成長していきました。ただ、ある店舗の料理長がよくない辞め方をしてしまって。そのことで悩むことが増えてストレスを抱えるようになってしまったんです。僕たちは音楽イベントなどもたくさんやってきましたが、そのような悩みがある頃はそういったイベントもできなくなってしまって。そのような状況になるくらいなら、飲食事業を辞めようと決めたのです

 
その後、ケータリング事業を立ち上げ、現在はイベントなどに出店し、ホットドックやケバブサンドを販売している。

念願だった音楽レーベルを立ち上げ、福岡からアジアへ発信する


福岡発の音楽レーベル「GIMMICK MAGIC」のロゴ。現在はAttractionsと村里杏が所属している

2018年4月、宮野さんは福岡を拠点としてアジアへ発信する音楽レーベル「GIMMICK MAGIC」を立ち上げた。
 
洋服と同じように音楽も大好きだった宮野さんは、創業当時からDJイベントやLIVEイベントを精力的に開催してきた人物。2000年代から2010年代にかけて「BINGO BONGO SOUNDS」に足を運んだ記憶がある方も多いのではないだろうか。
 
宮野

ずっと音楽イベントをやってきていたし、レーベルはずっとやりたいと思っていました。数年前に福岡を拠点に活動し注目を集めていたAttractionsに出会い意気投合。福岡から世界を変えていこうと口説き落とし、ようやくレーベルを立ち上げることができました

 
次々に新しいことを発信し続ける宮野さんの原動力は何なのか。実は今から約6年前、ある媒体で宮野さんをインタビューしたことがあった。その頃の彼は、「大名を日本でいちばんイケてる街にしたい」と熱く語り、自身を大名の広報部長と称していた。


コロナ禍の現在も、年に数回アメリカへ買付に行っているという宮野さん。このインタビューの1週間後もアメリカへ旅立っていった

宮野

東京へのアンチテーゼと言われがちなんですけど、ある時期からその対象は東京じゃないなと思い始めました。福岡が好きだし、自分たちの周りにある素晴らしいもの、イケてるものが広がっていったら素晴らしいのになという想いから『大名を日本でいちばんイケてる街にしたい』と言い続けていたんです。
 
ただ、ある時期から“町おこし”的な動きが加熱し始めたんですよね。福岡が注目を集め始めて、いろんな人が入ってきて。そこにはお金もついてくる。お金儲けを考えず純粋にやってきた僕たちのような人間からすると、同じようには見られたくなくて、福岡をこうしたい、大名をこうしたいと言わなくなっていきました
 
もちろん、今でも大名は大好きですし、大名をいちばんにしたいという想いはあります。ただ、いろんな人から話を聞きたいと言われても積極的になれなくなっていました。イベントも然りで、同じようなイベントが増えてきて、だったら自分がしなくてもいいかなって。それよりも、人がしないことをやって、世の中をよくしていきたいという気持ちが強くなっていったのです

 
30年ほど前、住宅が中心だった大名に個性的なショップが増えてきたのは、天神からのアクセスの良さや家賃の安さなど、開業しやすい環境があったことも大きかった。そこに大手が介入し家賃が上がったりしたものの、天神や博多駅の商業施設に移っていくなど、大名の街は盛衰を繰り返してきた。
 
宮野

大名を20年以上見てきて、盛り上がったときも、衰退したときも経験してきました。そのような大きな流れは自分一人の力ではどうしようもありません。そのため、一時期は行政や西鉄などの企業と組んでさまざまな取り組みをしてきました。僕の動きを見て『こんな動き方もあるんだ』と思った経営者の方もいたと思います。そのきっかけを作れたことはよかったと思いますね

こうすればもっと良くなるのに!を一つひとつカタチにしてきた


2021年4月にオープンした「CAPERS」。ビンテージ(古着)とアンティーク(雑貨)の両方を扱う

僕、夏目漱石の『草枕』が好きなんです

 
ふと、宮野さんが言った。
 
智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
 
宮野

自分がやってきたことは、この冒頭文に書かれていることなんですよね。決まりきったルールやカタチが好きじゃなくて、こうすればもっとよくなるのにという想いで、ときには大名という街とともに、ときには福岡という都市とともにやってきました。音楽レーベルを立ち上げたのも、音楽業界のルールを変えていきたいという気持ちがあってのことです。
 
僕はこの大名という街に育ててもらいましたし、この街がなければ今の自分はありません。だからこそ、ここ最近は大名の街や、大名に集まる若い子たちに何かを残していきたいと考えるようになってきましたね

 
大名で20年。何百人というスタッフと出会い、自分の会社のみならず、たくさんの若者と出会ってきた宮野さん。ここ数年はZ世代の可能性とポテンシャルに出会えたことがすごく嬉しいのだそう。


キッズ向けのアイテムも充実する「BINGOBONGO」。古着を楽しむ世代は着実に広がっている

宮野

ここ最近の大名は、若者の街に戻ったという印象ですね。その一つの要因はミレニアル世代の勢いがあるからだと感じています。ミレニアル世代と僕たち世代の共通点は“個”を大事にしたい人が多いこと。古着ブームも再燃していますし、そういう子たちが天神や博多駅じゃなく、大名に魅力を感じ、大名に来て盛り上げてくれています。そのポテンシャルは絶対に活かさないといけないと思っていて。自分が第一線に立つのではなく、その子たちを前線に押し上げながらフォローしていく時期にきていると感じますね

 
一方、新型コロナウイルスの感染拡大の最中、この1年ほどでファッションや音楽の世界はとんでもない世代交代が行なわれていると感じているという。
 
宮野

音楽は顕著に現れていますよね。Attractionsが出てきた頃って、よくSuchmosKING GNUと比較されていたんですよ。洋服と音楽がクロスカルチャーしているものが盛り上がっていたのですが、新型コロナウイルスだけのせいではないけど、その動きが一瞬萎えたんですよね。そのタイミングでyonawoなど20代前半の子たちが急に出てきて一気に駆け上っていきました。アパレルでも今強いのは20歳前後の子たちなんです。話していて感じるのは危機感を持っていること。地に足をつけて自分たちでやっていかないと、これからの世の中は厳しいぞと感じている子たちが多いのではないでしょうか

これからはミレニアル世代が大名を面白くしていく

宮野さんは、2021年4月、大名に新店舗「CAPERS」をオープンさせたが、20歳の男性を店長に抜擢し、スタッフもその世代で固めたのだ。
 
宮野

長時間労働がいいことではないのですが、20歳の店長が『朝早くから出社したいとみんなが思う店を僕が作ります』と言うんですよね。頼もしいし、一人ひとりの個性も大切にしているし。あぁ、この世代の子たちが、これからの街をつくっていくんだろうなって感じています

 
「CAPERS」のコンセプトは“ビンティーク”。ビンテージとアンティークをかけ合わせた造語だ。


「CAPERS」で取り扱うColemanのランタンは入荷するとすぐに売り切れる人気商品

宮野

アメリカでも日本でも、ビンテージ(古着)は洋服がメイン、アンティークは雑貨がメインで、それらをバランスよく見せているお店って実は少ないんですよ。これらを混ぜ合わせることによって、いろんな人が楽しめるお店を作りたかったんです。洋服を入口として雑貨に興味を持ってもらったり、その逆だったり。20年前に「BINGOBONGO」をオープンさせた頃も今も、ほかの古着屋さんがやっていないことをやりたいという想いは強いですね

 
かつて、古着といえば一部の洋服好きが好んで着ていたものだったが、現在はメルカリなどが台頭し、20年前に古着ブームを経験した世代の子どもたちが興味を持つようになったこともあり、古着への抵抗感はかなり薄らいでいるという。ブームが再燃している今だからこそ、古着を通して若者が成長できると、宮野さんはいう。
 
宮野

僕が入社1年目でアメリカに連れてってもらって、現地のファッションやカルチャーを体感できたことは、本当にいい経験で、それがあったからこそ成長できたんですよね。でも、今の子たちって、成長する機会が得られることが、少なくなっていると思うんです。

プロスポーツの世界を見ても、活躍できている若者はごくわずか。スポーツもファッションも美容も料理も、どんな世界もその業界が盛り上がっていないと、若くしていいチャンスを得ることはできません。古着ブームの今、古着を通して若い子たちが成長できる機会も多いはず。その波に乗って欲しいし、そのことが大名をさらにいい街にしていく1つの原動力になっていくのではないでしょうか

大名らしさを残しつつ、次世代へ継承していく


2004年にオープンした「Ace in the Hole」はレディース専門の古着店。ユニークな内装も話題で、全国にファンを持つ

長年、大名を拠点に活動してきた宮野さん。これからの大名、さらには福岡についても思いを馳せる。
 
宮野

地産地消じゃないけれど、地元に還元するという地域性が息づくといいなというのは、ずっと思ってきました。それは歴史を紡ぐことにもなるはずです。ただ、そこに固執するのではなく、福岡ならではの“ウェルカム精神”は、これからの大名や福岡には必要不可欠な要素だとも思います。
 
新型コロナウイルスが収束すれば、再びインバウンドの動きは盛んになるでしょう。インバウンドの観光客が増えたことで、さまざまな問題も起きましたし、“インバウンドお断り”のようなお店も出てきてしまいました。街の文化を守りつつも、オープンマインドでミックスしていく“ウェルカム精神”を守り続けてほしいと願いますし、どこにでもあるような街にはなって欲しくないですね。
 
天神ビッグバンによって、天神には新しい商業施設がたくさん建設されていきます。それらの施設も、どこにでもあるような施設で目先の利益を追うのではなく、この街にしかない地域性を感じさせてくれるものになってほしいと思っています。大名の子たちが天神の商業施設に入るのもいいかもしれません。そのことがきっかけで、天神から大名に行ってみようかなという流れができたらいいですね

 
大名が街として注目され現在に至るまで30年以上に渡り大名で遊び、仕事をし、大名の広報部長として盛り上げてきた宮野さん。この街に育ててもらったからこそ、守り受け継いでいかなければいけないという想いを強く持ち続ける。都市部の再開発が進むなか、何を守り受け継いでいくべきか、各々が考え行動していかなければならない時期がきている。

<データ>
BINGOBONGO GROUP
http://bingobongogroup.com

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編集・ライター
寺脇 あゆ子
松山生まれ、福岡育ち。福岡・大阪の出版社を経て独立。福岡を拠点に全国誌、地元情報誌、webメディアなどで取材・執筆を行なう。美味しいものがある、面白い料理人がいると聞けば、日本全国どこへでもフットワークの軽さが自慢。無類のラグビー好きでW杯は2007年のフランス大会以降、4大会を現地で観戦している。

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