【博多コネクティッドを知る③】

博多コネクティッドで「国際ビジネス観光拠点HAKATA 」を実現するための方針とは

博多駅は山陽新幹線や九州新幹線をはじめとする鉄道、地下鉄、バス等の交通結節点であり、博多港や福岡空港とも直結する「九州の玄関口」です。2022年度には市営地下鉄・七隈線の延伸、九州新幹線西九州ルートのリレー開業を控えています。今後、ますます大きくなる国際ビジネス観光拠点としての役割を担うにふさわしい街づくりが進められているのです。

「博多コネクティッド」とは?

規制緩和などを活用して民間ビルの建替えを促進することで、博多駅周辺地区に新たな空間と雇用を創出するとともに、博多駅の活力と賑わいをさらに周辺につなげていくプロジェクトです。これまでの駅および駅前の博多口側中心から、JR博多駅を囲むような「面」での展開が期待されています。

 コロナ禍で、オフィス空室率の上昇が続くも、オフィス需要は底堅い

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、福岡都心部のオフィス空室率が上昇している。博多駅周辺エリアもその例外ではない。三鬼商事福岡支店のまとめによると、博多駅前地区は2020年3月の2.34%から2021年3月は4.86%に、博多駅東・駅南地区は同じく2.01%から3.43%に上昇した。前月比ではやや低下したが、上昇基調であることは間違いない。一方で、家賃相場は堅調に推移している。
 
■博多駅周辺地区平均空室率(2020年3月~2021年3月)
 
(三鬼商事福岡支店まとめ)
*博多駅前地区=博多駅中央街、博多駅前1~4丁目
*博多駅東・駅南地区=博多駅東1・2丁目、博多駅南1・2丁目
 
事業用総合不動産サービスのシービーアールイー(CBRE)福岡支店の調査でも同様の傾向が窺われる。出社率を抑えたテレワークの導入や業績悪化に伴う一部減床等の解約が、空室率上昇のポイント。「天神ビッグバン」に伴う建て替えによる立退き需要が落ち着いたこと、また、コロナ禍の影響からテナントの動向が停滞し、募集中の空室期間が長期化していることが特徴と言える。
 
■ 博多駅周辺 新規供給・新規需要・空室率
*新規需要:各年の稼働床面積(テナント使用面積)の増減
*2020年までのデータについて:空室率は12月時点、新規需要、新規供給は各年の実績
*2021年以降のデータについて:空室率は今期実績、新規需要は今期までの実績、新規供給は予測値
(CBRE福岡支店まとめ)
 
今後、旧博多スターレーン跡地の「(仮称)博多駅東1丁目開発計画」(2022年7月開業予定)や福岡県の「福岡東総合庁舎」(2024年春の竣工)、西日本シティ銀行新本店ビル(2025年2月ごろ竣工)、同別館ビル・事務本部ビル(2028年9月ごろの完成)とオフィスの供給は続くが、オフィスの大量供給と景気後退が重なったリーマンショック後の2009年当時までの上昇(約15%)にはならないと言われている。
 
CBRE福岡支店オフィス部門リーダーの江頭秀人さんは、こうみる。
 
江頭さん

賃料は昨年の緊急事態宣言前とほぼ変わらない水準にある。業績好調なシステム開発やIT関連企業、「3密対策」や新たな業務委託に伴うコールセンター等の増床・分室案件の需要も生まれている。高規格のビルで好立地であれば、東京資本の企業などがまだ入ってくる可能性は高い状況にあると言えます。
 
「博多深見パークビルディング」を開発した三菱地所九州支店の猪俣良太さんも、こう話す。
 
猪俣さん

築古物件に入居するテナントが、拠点の集約やBCP(事業継続計画) の観点から新築ビルへの移転を進めているものととらえており、このようなマーケット下においても、好立地・高スペックの物件については、オフィス環境の改善や統合移転等、引き続き堅調なニーズがあると考えています。
 
 

「博多コネクティッド」で回遊性が高まり、博多エリアのステータス向上につながる

 
博多駅と博多港、福岡空港間は直線距離でほぼ同じ約3.7㎞。特に空港とは市営地下鉄で約5分、タクシーでも10分余りで結ばれる。「(仮称)博多駅東1丁目開発計画」の開発主体であるNTT都市開発開発本部開発推進部の川久保愛太さんは、立地の優位性を指摘する。
 
川久保さん

当社が開発中の筑紫口エリアは、市中の渋滞影響を受けることなく空港へ車でアクセス可能であることや、都市高速道路の博多駅東ICへのアクセス利便性など博多口に比べても車両交通利便性に優れ、潜在的なポテンシャルは高いエリアであるととらえています。


筑紫口エリアで、唯一まとまった用地である中比恵公園と国の出先機関が入居する福岡合同庁舎
 
九州新幹線鹿児島ルートの全線開業や空港までのアクセスの良さが、九州の玄関口として国際ビジネス観光拠点としての発展につながっていると言えそうだ。そして、「JR博多シティ」、商業施設「KITTE博多」、オフィスビル「JRJP博多ビル」が相次いでオープンし、博多駅エリアは様変わりした。
 
前述のCBRE福岡支店の江頭さんは、こう付け加える。
 
江頭さん

天神と比べると、まだまだ人の賑わいがスポット的で、歩いている人の流れが限定的な印象があります。(コロナ禍以前は、博多駅からキャナルシティまでは人の流れがありました。)「博多コネクティッド」による建て替えが進めば人の流れは確実に増えます。新たなスポットを作ることでさらに回遊性は高まることになり、天神に負けないくらい博多のまちのステータスやブランディングの向上につながるのではないかと考えています。
 
 

博多駅エリア発展協議会が「博多駅エリアグランドビジョン(暫定版)」を作成

 
博多駅の活力と賑わいをさらに周辺につなげていくプロジェクト「博多コネクティッド」は、地下鉄七隈線の延伸やはかた駅前通りの再整備などの交通基盤の拡充とあわせ、
①    容積率などの規制緩和による耐震性の高い先進的なビルへの建て替え
②    歩行者ネットワークの拡大とともに歴史ある博多旧市街との回遊性を高める
③    公共空間を活用して来街者がいつでも楽しめる賑わいの創出
――を掲げる。
 
 
博多千年門=博多を訪れた観光客を歴史的文化財が多く残る寺社町エリアへと導くウエルカムゲート。博多祇園山笠や饂飩・蕎麦発祥の地として知られている承天寺と祥勝院が面する道路の一角にあり、承天寺通りとして整備されている。
 
2019年1月にスタートしたこの動きに呼応して、博多の発展を自ら担う地権者が博多の未来のまちづくりを考え、都市機能の向上を目指してともに活動する場として、同年5月に「博多駅エリア発展協議会」が発足した。博多駅エリアのまちの将来像について協議会内で意見交換を重ね、「博多駅エリアグランドビジョン」(グランドビジョン)として取りまとめたが、コロナ禍の前だったため、「暫定版」の位置付けである。今後、感染症対応などウイズコロナ、ポストコロナにも対応した要素を盛り込んでいく予定だ。

グランドビジョンは、「博多まちづくり推進協議会」(注1)が策定した「博多まちづくりガイドライン2014」に記載された「まちづくりの方針と方策」のうち、主にハード関連の項目を参照しつつ「博多コネクティッド」の趣旨を踏まえて整理した。「博多コネクティッド」は、ハード・ソフト両面から官民連携による賑わいの創出を推進するとしており、「博多まちづくり推進協議会」と連携して役割分担のうえ、取り組んでいる。

(注1)博多駅周辺の企業、団体や自治協議会ならびに学識経験者、福岡市で構成するエリアマネジメント団体。2008年4月の設立以来、「歩いて楽しいまちづくり」「美しく安心なまちづくり」を推進し、博多駅周辺の賑わい創出や回遊促進に役立つ活動を展開する。

 

歩行者や自転車通行空間を形成、イベントやオープンカフェなど人が集う空間を創出

 
「博多まちづくりガイドライン2014」では、国内外から集客し、博多のまちの各方面に人を導く拠点づくりを進め、来街者をはかたのまち全体へと回遊させるとともに、個々の通りが個性的な魅力を持つまちの主軸形成の方針と方策が整理されている。
 
①    はかた駅前通り=博多駅地区と天神地区を結ぶ、歩いて楽しいにぎわい・回遊主軸の形成
②    大博通り=博多駅地区とウオーターフロント地区を結ぶ、アジアに開かれた風格ある景観の形成
③    住吉通り=博多駅地区と渡辺通地区を結ぶ、歩行者と自転車の安全性と快適性が確保された、働き・学び・暮らしやすい通りの形成
④    住吉通り(博多駅前)=お出迎えの玄関口の形成
⑤    筑紫口通り=安心して歩き出せるおもてなし軸の形成
⑥    筑紫口中央通り=駅と直結した安心・ゆとり空間の形成
⑦    筑紫通り=駅につながる快適空間の形成
 
個々の通りが個性的な魅力を持つまちMAP


 (「博多まちづくりガイドライン2014」より)

博多駅地区は、道路の幅員が比較的広いが、「はかた駅前通り」は再整備で車道部を削減し、両側の路側部に自転車専用レーン(幅員各1.5m)を設け、歩道部を5.3mから7.25mに拡幅する。そのうえで、沿道の建物の建設・改修に合わせて1.5mのセットバックを確保。「住吉通り」と「筑紫口通り」は1m、「筑紫口中央通り」は2m、「筑紫通り」も1.5mのセットバックを、「大博通り」と「住吉通り(博多駅前)」はアトリウムや広場を確保するなど、歩行者や自転車通行空間を形成し、イベントやオープンカフェなど人が集う空間を創出する方針だ。
 

将来像は、「九州・アジア・世界」と「未来」につながるHAKATA GATEWAY

 
「暫定版」の位置付けながら、「グランドビジョン」は将来像と重点取り組み方針を整理する。将来像は、「『九州・アジア・世界』と『未来』につながるHAKATA GATEWAY~九州・アジア・世界の人々が博多でつながる国際ビジネス観光拠点~」。これはゆるぎないものだろう。
 
重点取り組み方針は、
①    国際ビジネス都市・国際観光都市としての機能を備えた環境にやさしく災害に強い高機能ビルへの更新
②    駅とまちと人をつなぎ、回遊性を高める歩行者空間の整備
③    博多の歴史と魅力を未来につなぐ賑わいのある街並みの創出
 
博多駅とキャナルシティ博多を拠点としたはかた駅前通りの整備、住吉通り(博多駅前)の整備、博多旧市街との回遊性などの取り組みなど、「博多まちづくりガイドライン2014」のまちの骨格を形成する主軸形成方針に基づいたまちづくりは進む。
 
一方で、「博多駅周辺地区における、まちのコンテンツづくり」、「博多口の地下と地上の回遊性」、「博多旧市街と結ぶ通りの歩きたくなるような仕組み」、「筑紫口側では、人が訪れる目的の形成」、集客と言えばイベントに頼るきらいもあるが、「一過性のイベントではなく、持続可能な『祭り』のようなものに昇華する仕掛け」、といった課題が横たわる。

「博多まちづくり推進協議会」も所管する「博多駅エリア発展協議会」事務局長の小池洋輝さんは、意欲をもってこう語る。

小池さん

コロナ禍でもあり、2022年度以降のアクションプランとして検討しています。交通利便性の高い、立地の優位性を考えた上でのまちづくりに、新たに生まれる公開空地を活用した都心部の魅力づくりなどに取り組み、エリアマネジメントとしては自主財源事業の拡大なども検討したい。

「国際ビジネス観光拠点HAKATA」実現にふさわしい、夢のあるまちづくりプランの提案が求められている、と言えそうだ。
 

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経済ジャーナリスト
神崎 公一郎
1952年、長崎県生まれ。早大卒。地方紙記者、月刊経済情報誌「エコノス」の編集長を経て、㈱プロジェクト福岡を設立、代表を務める。 現在、日本マーケティング協会九州支部の機関紙、西日本シティ銀行の広報誌の執筆・編集や地元企業の社史執筆に従事する。まちづくり、コンベンションに関心が深い。

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