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「調べる」ができると視野が広がる|宮内泰介・上田昌文『実践 自分で調べる技術』岩波新書

ビジネス系書籍をアカデミズムの世界から紹介してくださるのは、福岡大学・商学部の飛田努准教授です。アントレプレナーシップを重視したプログラムなどで起業家精神を養う研究、講義を大切にされています。毎年更新されるゼミ生への課題図書リストを参考に、ビジネスマンに今読んで欲しい一冊を紹介していただきます。

 今回で20回目の書評となりました。ここまで20冊(前回2冊取り上げました)の本を取り上げてきましたが,先日改めて読み返す機会がありました。初回はどれだけの分量で,どんな風に書けば良いのかがよく分からず,できるだけ端的に書いていましたが,だんだん私の身の回りの話が増えて,書く度に分量が増えていくことになりました。今では5,000文字ほどの文章になってしまい,読者がどれだけいるんだろうかと不安になったりします。それでも今回20回目の書評を書くことができるのも,多くの皆様のおかげだと改めて感じます。

 

 さて,今回のテーマは「調べる」です。大学にいると,「調べる」とは論文や書籍などの文献にあたる,あるいは公表されているデータや実験を行うなど分析手法を用いて真実を見出すための必要なプロセスということになるでしょう。どんなことを専門にしていても,これは大きく変わらないでしょうし,大学で学ぶことはこれに尽きると言っても差し支えないかもしれません。そして,この「スキル」は社会人として仕事をするにあたっても重要なものでもありますね。

 

 そこで,今回は宮内泰介・上田昌文『実践 自分で調べる技術』岩波新書をご紹介します。この本は,2020年に発刊されたものですが,今年度からゼミの課題図書として取り上げることにしました。

 

 

 

 

「調べる」とはどういうことか

 ゼミでは,3年生の1年間をかけて「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」と題して,テーマは自由,自分たちの興味関心をベースに社会に飛び出して活動しています。条件は「まだ誰もが明らかにしていない真実を明らかにすること」,「ビジネスとして成立する=収益が立つモデルになること」の2つ。どんなに公益性が高いものであっても,最終的に自立した仕組みとして機能させるためにはどこかから対価が必要になるので,それを獲得できる可能性があるようにアイデアを形にすることを求めています。そして,言わずもがなプロジェクトを形作る最初の手続きとして「調べる」が出てきます。

 

 「調べる」とはどういうことでしょうか。本書の中では次のように述べられています。

 

 「調べる」ということは,私たちが行きていく上で,日常的に行っていることです。何かをする時に,どこかで聞いた話とか,何かで勉強したこととか,テレビで聞いた話だとか,そういったものをもとに行動しています。たしかに,調べて行動しているのです。ただし,この,ふだん行っている「調べる」は,不十分だったり,間違った情報だったりします。(p.4-5)

 

 そうなんです。わたしたちが真相を知りたかったり,何かを判断したりするときには,正確を期すために「調べる」という行為をしています。が,その時に情報の真偽を確かめずに,「あの人が言っていたから」「ネットにこう書いてあったから」「Youtubeで◯◯さんが言ってたから」と信じて,あとで大きなミスに至ってしまう場合も少なくありません。自分の目で確かめることもせず,「編集された」一部の情報だけを聞いて真実だと判断してしまう。サムネイルや画像を見るだけで直感的に判断してしまうことが多くなっているだけに,一歩立ち止まって自分の見解を形にするために「調べる」という学術的な姿勢を身につけていこうと学生には伝えようとしています。そして,この本にはその「技術」が端的にまとめられています。

 

 以前ご紹介した小熊英二『論文の書き方』講談社現代新書(※)も重要な課題図書で,これは卒業論文を執筆する4年生の課題図書です。卒業論文では自分の興味関心があることをベースに,夏休みまでに先行研究をしっかりとレビューし,それをもとに仮説を見出して,調査を行って「自分だけが知っている真実」を明らかにすることを求めています。その一連のプロセスをどう行うのか。「書く」プロセスまで記述されています。これに対して,本書は「調べる」に特化しており,「調べる」の手がかりに乏しい大学生にとって良いガイドラインになる本です。

 

 

 

6つの「調べる」

 本書において「調べる」は6つの類型に分けられます。大きく分けると「量的調査」と「質的調査」です。「量的調査」とは,統計調査,質問紙調査(アンケート調査),測定の3つ,「質的調査」とは,文献・資料調査,聞き取り調査(インタビュー),観察の3つです。

 

 これらの調査方法は対応関係になっています。例えば,統計調査と文献・資料調査は,すでに書かれている言葉をもとに行うもの,質問紙調査と聞き取り調査はまだ書かれていない生の情報を数字あるいは言葉で拾う調査方法,そして,測定は「見て数字を集める」もので,観察は「見て言葉を集める」という対応です。この書籍が良いのは,それぞれの調査方法の概要をまとめるだけでなく,長所短所が端的にまとめられていることかもしれません。さらに言えば,調査に臨むヒトとしてあるべき姿勢・考え方を述べていることかもしれません。

 

 例えば,第3章「フィールドワークをする」では,質的調査のうち,聞き取り調査についてその具体的方法が述べられています。

 

 聞き取りの際に大事な点は,つぎの3点だと言います。①具体的なことを聞く,②受容的に聞く,③フレキシブルに聞くです。

 

①具体的なことを聞く

 ①具体的なことを聞くとは,まさにそのままでどうとでも答えられる曖昧な質問ではなく,「もっと具体的に,さらに細かく砕いて」(p.108)質問することです。具体的に質問するためには,自分が聞きたいことに対する解像度が高くなければなりません。だから,何も知らない状況でとりあえず聞きに行くというのはご法度で,できる限り事前情報を知っておく=統計や文献,資料でその概要を知っておくことが重要だということでもあるでしょう。

 

②受容的に聞く

 ②受容的に聞くとは,「相手の言うことを受け入れる」(p.109)ということです。聞き取りはコミュニケーションであり,スムーズなやり取りの中で『結果的に』詳しく聞いているというくらいの感じが良いと言います。相手のペースに合わせて,相手のフレームに乗っかって話を聞くこと。相手の言ったことを否定せず,基本的にすべてを受容するという姿勢が求められると言います。

 

③フレキシブルに聞く

 ③フレキシブルに聞くとは,インタビューを行う際には事前に質問項目を用意しますが,そればかりに縛られることなく,話の流れに乗りながらインタビュイー(回答者)が語る要点に合わせて話を聞いていくということです。こちらが「こうだろう」という仮説が完全にフィットすることばかりではありません。でも,自分が知りたいことを明らかにするには知らなかった,想定もしていなかったポイントも出てきます。「そういう視点もあったか!」となっても,適宜対応しながら話を引き出していく姿勢が求められるということです。

 

 これをできるようになるのは簡単ではありません。が,恐らく優れた営業マンはこれをやっているに違いありません。顧客が何を望んでいるのか,製品やサービスについて何を知りたいのか,それを推し量るために顧客の持つ情報を聞き出す行為は聞き取り調査と基本的には同じであるように感じます。なので,プロジェクトの事前調査の重要性は学生に対して口酸っぱく言います。極端な話,この精度でプロジェクトの成否が決まるくらいのことを言っています。

 

 

 

課題図書として読んだ学生の反応

 恐らく,この本を課題図書として(2年生から3年生に上がる春休みに)読まざるを得なかった学生にとっては難しい本のはずなのですが,実際ゼミを始めてみると学生から「あの本がなければプロジェクトで何をすればよいか分からなかった」という声が聞こえてくるほどでした。これまでの学生たちも大変良く頑張ってくれていましたが,今年のプロジェクトでは事前調査の重要性が非常によく伝っているように感じます。

 

 その証拠に報告内容の密度が濃くなりましたし,中には地域の交通問題の現状を知るためにフィールドワークを重ね,「お年寄りの移動手段がないから,交通手段を提供できないか」という課題の見え方が「行政もさまざまな方法を提供しているけれども,どこまで効果的なのだろうか」であったり,「公共交通では解決できない問題にどうアプローチできるのだろうか」といった具体的な課題に焦点を当て,さらに調査を重ね,その自治体の首長さんにプレゼンテーションを行う機会を頂けるようにもなっています。

 

 

 

仮説の重要性 

 一方で,インターネットで安易にアンケート調査を行えるようになったこともあり,特に仮説を設定していなかったり,調査の設計をしなかったことで不十分な結果に終わってしまう場合もあります。でも,その時にこうした「調べる」について学ぶことができるテキストがあれば,改めて本書や関連図書を読み直し,適切な方法で調査をすれば良い。学生だからそうした失敗の中から学べば良いとも考えられます。

 

 こうした「技術」を身につけること,そこから「自分だけが知っている真実」は何かを紡ぎ出していくことというのは,ビジネスでも学術的な研究でも基本的には同じだろうということです。ですから,「調べる」の重要性を本書から学んで頂くことで,「真実」はどこにあるのかを考えるクセが身につくでしょうし,安易に結論を出すのではなく「仮説」をブラッシュアップしながら真実にたどり着くことができるようになるのかもしれません。

 

 もしかたら,本書は1冊を読み通すというよりも,必要な調査方法を知りたい時に辞書代わりに読むのが良いかもしれません。手元に置いておくことで,何か困った時にヒントを与えてくれる。そういう本として,ぜひご一読ください。

 

 

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福岡大学商学部 准教授
飛田 努
福岡大学商学部で研究,教育に勤しむ。研究分野は中小企業における経営管理システムをどうデザインするか。経営者,ベンチャーキャピタリストと出会う中でアントレプレナーシップ教育の重要性に気づく。「ビジネスは社会課題の解決」をテーマとして学生による模擬店を活用した擬似会社の経営,スタートアップ企業との協同,地域課題の解決に向けた実践的な学びの場を創り出している。 著書に『経営管理システムをデザインする』中央経済社がある。

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