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「『親の常識』は『子の常識』ではない」って自分も思っていたことじゃないですか?|尾原和啓著『激変する世界で君だけの未来をつくる4つのルール』大和書房

ビジネス系書籍をアカデミズムの世界から紹介してくださるのは、福岡大学・商学部の飛田努准教授です。アントレプレナーシップを重視したプログラムなどで起業家精神を養う研究、講義を大切にされています。毎年更新されるゼミ生への課題図書リストを参考に、ビジネスマンに今読んで欲しい一冊を紹介していただきます。

 新型コロナウィルスが落ち着いて初めての大型連休。みなさん,いかがお過ごしでしたか?私ごとですが,今年の大型連休は娘が「学校」というものに行き始めて初めての休みで,3月の卒園,4月の入学からのバタバタが一旦リセットできた時間になりました。

 

 その娘は小学校と,親の仕事の都合で学童(福岡では「放課後児童クラブ」と言いますが,長いので慣例に従って学童と表記しています)に行っていますが,本当に楽しそうに通っています。日々たくさんの刺激を受けて,楽しく学んで,遊んでとしているからか,どんどん表現力も増しているように感じます。本人は無意識かもしれないけど,「学校」といういろいろな友達がいて,たくさん学ぶことができるという空間が楽しくて,刺激的に感じてくれていることは親としてホッとしていますし,小学校,学童に関わるみなさんに感謝しかありません。

 

 しかし,やがて「学校」という組織に対しては誰もが厳しい目を向けることになります。自由を獲得するということと組織的にルールの中で決められた中で動くということの狭間の中で,窮屈さを誰しも感じることになります。私自身も「大学」という枠組みの中で働く場として感じること,学生に対して学ぶ機会を提供する側として感じることがいろいろとあります(総じて楽しく働いています)。

 

 そうした中で,近年VUCA(ブーカ:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取って目まぐるしく状況が変化する様子を表現しています)の時代と言われるようになってきています。私は大学でキャリアセンター委員を拝命していることもあって,学生にはもちろん,保護者の前でお話をする機会があります。しかし,伝統的な価値観というのは根強く,なかなかこちらが伝えようとしていることが伝わらない場面に遭遇します。その慣行だって,せいぜいこの数十年ででき上がったものなのに…。

 

 ただ,今や人手不足の時代ですから,就職しようと思えば(希望の業種や職種かは別として)どこかの企業で働くことは可能です。ただし,そこで働くことが本人にとって幸せかどうかはわかりません。まず一歩踏み出して,考えを熟成させながら,答えらしき答えをとりあえず定めて進路を決めることしかできないのですが,それを前にして立ちすくむというのはむしろ正常な反応なのかもしれません。VUCAだ,不確実だ,日本の将来はなんて一人ひとりの個人にとっては遠い話なのですが,回り回って自分の人生の一部になっているって気づくのはさまざまな経験をして,視野を広げて,見える世界が広くなった時なのですよね。

 

 そこへどう導いていくか。もしかしたら,年長者にできることはそういうことなのかもしれません。本当に歳を取ったなと実感します。

 

 と,前置きがかなり長くなりましたが,今回ご紹介したいのは,そうした親(保護者)のみなさんにお勧めしたい1冊です。

 

 

 本書の筆者である尾原和啓さんは,自ら肩書きを「IT批評家」とされていますが,社会人生活を通じて13回の転職,複数拠点居住をしている方でたくさんの著書をお持ちです。この『激変する世界で君だけの未来をつくる4つのルール』は,未来を生きていくヒントを提示するものとして中高生向けに書かれていますが,親の立場で読んで頂くことでお子さんたちがどのような環境で学んでいるのか,どういう時代を生きていくのかを知るヒントになるのではないかなと感じています。

 

 まず,本書では世界を取り巻く前提条件の変化について述べておられます。その変化とは,次の4つの論点です。

 

前提条件① 働き方の変化

 ご承知の通り,週休3日制や副業が認められるなど,定年まで組織に属して働くことが良しとされていた時代から,「自分で自分の生き方を決められる時代」への変化です。今や,フリーランスのように組織に属さない働き方,組織に属していてもリモートワークで働くということが当たり前になりつつあります。『他者と働く』は「衆人環視」ではなく,組織に属する,属していないに関わらず「独立した個人」として互いを尊重しながら成果を得ることを意味するようになっています。「自分で決める」と書けば厳しく見えるかもしれませんが,これがますます重要になっていきそうです。

 

前提条件② 正解主義から修正主義への変化

 まさに学校教育がそのように変化していることが示しているように,唯一絶対の正解ばかりを追い求めるのではなく,正解も変わり得る可能性があること,解答を導くプロセス(過程)において議論を重ねて多様な見解があることに理解を示すことによって,インクルーシブ(包括的)な学び方をしていく時代への変化です。

 

前提条件③ 価値観の変化

 「役にたつ」から「意味がある」への変化を指しています。今の親世代はバブル経済からその崩壊,その後の就職氷河期に社会人生活を始めた人たち。そこではまだ前世代的価値観(それこそ昭和ですね)が色濃く残る時代で,まだまだ何かを所有することに価値がありました。また,今に比べれば時代の安定性が高かったので,答えがブレることが少なく,特定の解法を知っていることに価値がある時代でした。しかし,次第に豊かになり,コモディティ化(差が表現されにくい状況)が進む中では,そのモノやサービスの価値が本人とって「意味がある」ものでなければ反応しないという時代になっているということです。

 

前提条件④ 幸せの変化

 ますます「人間の中身を重視する社会になる」ということを筆者は述べています。さらに言えば,それは「誰かにとって意味のある存在になる」ことだとも述べていて,自分の幸せを求めることがひいては周りの幸せを作り出すことにつながるという価値観が重要だと述べています。

 

 その上で,「激変する世界で君だけの未来をつくる4つのルール」を次のように提示されました。

 

激変する世界で君だけの未来をつくる① 与える人になろう

 1つ目のルールは「与える人になろう」です。これは相手が何を望んでいるのか,何に困っているのかをよく観察して,それに適合したアイデアや解決策,モノを提供することを通じて,「相手の立場に立とう」ということです。それを積み重ねることで自分の視野が広がり,人々の信頼を得ることにもつながると言います。その時に大事なことは背伸びをしようとせずに「自分の持っている情報やモノ」を提供することから始めることだと言います。そうやって,まず相手の立場に立つことで,それを機会に自分も学べるという利点もあると言えるでしょう。

 

激変する世界で君だけの未来をつくる② 自分の意見を育てよう

 2つ目は「自分の意見を育てよう」です。ここでは,いわゆる「自己分析」の重要性が語られています。まず,自分を知ることからスタートして,「自分の幸せ」ってなんだろうを言葉にしていきます。その中には許せないこと=怒りにつながることも出てきますが,そこに自分が譲れない大事な価値観が見えてくると言います。そして,「自分の好き」とか,「幸せ」と感じることを切り出して,その構造を見えるようにしていきます。そうした「好き」「幸せ」に没頭し始めると,人より得意なことが見えてきて,自分らしさがわかるようになります。

 次に,その自分らしさから見える自分だけのモノの見方「意見」が出てきますから,それを基準にさらに自分を磨いていく。時には人から学ぶことで,それを研ぎ澄ましていくことで自分の意見が育っていくのだと筆者は言います。そして,何より大切なこととして,「あなたの意見には価値がある」ということを忘れてはいけないということも述べてられています。

 

激変する世界で君だけの未来をつくる③ 頼り頼られる仲間をつくろう

 3つ目は「頼り頼られる仲間をつくろう」です。これは1つ目の「与える人になろう」とも繋がっていて,まずは見返りを求めないgiveを積み重ねようと筆者は述べます。時には自分の心を整えるために「断る」勇気も必要で,そうした互いの考えをやり取りしていく中で信頼関係が生まれていきます。そして,ここで大事なことを述べています。1つのコミュニティに属するのではなく,複数のコミュニティに属することでさまざまな場所で自分がどうあるかを見つめようと言います。そうする中で,自分の中でたくさんの軸ができあがっていくこと。「自分らしさ」は1つではなくて,たくさんの軸から成り立っているのだという実感が大切だということですね。

 

激変する世界で君だけの未来をつくる④ ちがいを楽しもう

 そして,最後は「ちがいを楽しもう」です。集団が持つ理念やビジョンは共通であっても,その集団には「ちがい」があることが重要だと筆者は言います。さまざまな価値観を持った人がいるからこそ,「ちがい」があるのは当然で,それを受け入れて理解を示すことが重要。自分を失うことなく,他者にgiveする「自己中心的利他」という考え方が,誰もが幸せになる生き方ではないかと筆者は提案します。そして,激変する社会に対して向き合う勇気を持とうと述べて,本書は終わりを迎えます。

 

 実はこの本を読んでいて改めて気づいたことがあります。それは,先進的な取り組みをしようとされている中学校,高校ではこうした価値観を伝えることが当たり前になりつつあるということです。ここにも昭和・平成的価値観と令和的価値観の違いがあると言えるかもしれません。

 

 先日参加したとある高校の生徒会合宿ではこんな生徒の悩みも聞こえてきました。

 

「機会がたくさんある学校で,周りから何を言われても頑張りたいと思って頑張って,同調圧力から抜き出た生徒は勝手に何かやる。一方で,なんで頑張らなきゃいけないの,そんなの面倒くさいと思っている生徒を引き上げるのは大変。本当に救ってあげなければいけないのは,頑張りたいと思っているけど,周りも気になるし,自己肯定感がない生徒をどうやって掬い上げるかなんですが,いいアイデアないですか?」

 

 これってgiveの発想ですよね。そして,社会人であれば誰もが考えたことがある組織マネジメント上の重要な課題ですよね。恐らく,親世代の人たちも若かりし頃,同じようなことで悩んだ経験があるかもしれません。こうして考えて,実践してきた人たちが世の中を創るリーダーになってきたという事実もあるし,進学実績や部活動ばかりでなく,学校がそうしたことを考える場所になっていることにわたしたちはもっと目を向けなければいけないのかもしれません。親だから,大人だから正しいのではなくて,私たちこそアップデートし続ける必要があるのでしょう。

 

 200ページ足らずの本で,中高生向けに書かれたものですから,手軽に読むことができるのではないでしょうか。ぜひ手に取ってご一読ください。

 

 

飛田先生の著書はこちら

 

 

 

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福岡大学商学部 准教授
飛田 努
福岡大学商学部で研究,教育に勤しむ。研究分野は中小企業における経営管理システムをどうデザインするか。経営者,ベンチャーキャピタリストと出会う中でアントレプレナーシップ教育の重要性に気づく。「ビジネスは社会課題の解決」をテーマとして学生による模擬店を活用した擬似会社の経営,スタートアップ企業との協同,地域課題の解決に向けた実践的な学びの場を創り出している。 著書に『経営管理システムをデザインする』中央経済社がある。

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