南区から城南区を横断する「大池通り」沿いに佇む「北野珈琲」
福岡市南区と城南区は、その大部分に鉄道が通っておらず、公共交通機関での移動手段が西鉄バスしかありませんでした。
ライターの私自身も、20歳から10年間、城南区(樋井川)と南区(寺塚)に住んでおりましたので、天神や博多への移動は実際になかなか大変でした。
しかし、それゆえに「わざわざ都市部に出なくても、暮らしまわりものは近所で揃う」という感覚が根付いており、だいたいの買い物は近所のお店で完結することが多いのです。
今回ご紹介するのは、そんな南区有数のマンモス団地である「長住団地」のほど近い場所にある「北野珈琲」です。
南区に住んでいた頃に何度か行ったことがありましたが、今回久しぶりに訪ねてみました。
お店は南区から城南区を東西に横断する「大池通り」に面しており、「長住3丁目交差点」から西に100mほどの場所にあります。
最寄りのバス停は「長住3丁目」になります。
白地に黒一色で「北野珈琲」と書かれた袖看板が目印。道向かいには「かっぱ寿司」があります。
かつてスナックだった頃を偲ばせる、レトロな店内空間
木製のドアを開けると目に飛び込んでくるのが、長いカウンター席。
ブルーのベルベット張りのレトロなスツールがカウンターに隙間なく配置されています。
実はこの物件、かつてはスナックとして営業していました。
居抜きで入居する際、できるだけ手を加えずに改装したので、インテリアは当時のものをそのまま活用しているのです。
こちらはゆったりとしたテーブル席。
スツール同様に椅子とベンチシートもベルベット張り。
この独特の雰囲気、まさに昭和のスナックそのまま。今にも奥からママさんが水割りセットを持ってきてくれそうです(と妄想)。
ふと天井を見上げると、一角に不思議な箱型の窪みを発見しました。
この窪み、かつてスナックだった時代にミラーボールが取り付けられていたんだそうです!
店内の所々に当時の面影が偲ばれます。
北野珈琲のあゆみ
オープン当時の写真。左が先代店主の北川さん。右が「珈琲舎のだ」の野田社長。
「北野珈琲」が創業したのは、平成になって間もない1992年。
今年で創業31年目を迎えます。
「レトロ喫茶店」というには少し若い部類になりますが、昭和の喫茶店のスタイルが色濃く残っています。
その理由は、創業者である先代店主の北川さんは、創業57年の歴史を持つ福岡の老舗喫茶店「珈琲舎のだ」のご出身であること。
同社在籍時にサービスやコーヒーの焙煎技術を磨き、その後、この長住に「北野珈琲」を創業されたという、言わば老舗喫茶店の直系のお弟子さんなのです。
リスペクトを込めて、店名は、北川さんの「北」と「珈琲舎のだ」野田社長の「野」から名付けられています。
現在の店主は2代目の古本親良さん。
大分県日田市のご出身で、元々バイク関連の仕事をされてましたが、仕事でイギリス・ロンドンに1年半滞在した時、足繁く通っていたカフェでコーヒーに興味が湧き、コーヒー業界への転職を決意。
29歳で「北野珈琲」に入社し、先代店主の北川さんの元で焙煎技術やサービスを学びました。
入社して7年が経ったころ、先代店主の北川さんが別の事業を始めるにあたり、「北野珈琲」の事業継承を打診され、そのまま引き継いで2代目の店主となられたそうです。
先代から受け継いだ焙煎技術とサイフォン抽出
先代から焙煎技術を学んだ2代目店主の古本さん。
店内奥にあるこちらの富士ローヤル社製3kg半熱風式焙煎機で、毎日焙煎を行っておられます。
毎日稼働しているので実に年季が入ってます!
入り口そばではコーヒー豆が販売されています。
オリジナルのブレンドコーヒーは「北野ブレンド」「北野ストロングブレンド」「北野イタリアンブレンド」「北野アメリカンブレンド」「北野モカブレンド」「北野マウンテンブレンド」の6種類があり、100g/550円より。その他にも、世界各地のストレートコーヒー豆もラインナップされています。
こちらが2代目店主の古本さん。
ブレンドコーヒーは「珈琲舎のだ」と同様、サイフォン式の抽出スタイルを貫いています。
サイフォンとは19世紀のヨーロッパで発明された水の蒸気圧を利用してコーヒーを淹れる抽出方法のこと。
昭和の喫茶店でよく採用されていた抽出方法なのです。
カウンターの裏にあるカップボードには、様々な種類のコーヒーカップがズラリと並んでいます。
好みのカップを伝えると、そのカップでコーヒーを提供していただけますよ。
美味しいコーヒーとともに、自家製の軽食とスイーツを愉しむ
創業以来、軽食やスイーツは自家製にこだわっておられます。
軽食はドリア・グラタン・ピザ・サンドイッチ・ナポリタン・オムライス・和風パスタといった懐かしいメニューが並びます。
その中から、今回は「ドリアセット」1,200円をチョイスしてみました。大きな角皿で提供されるドリアはなかなかのボリューム感。
セットにはコーヒーとヨーグルトが付いてきます。
デザートがヨーグルトなあたりが昭和の喫茶店らしいですね。
アツアツのドリアをフォークでほぐすと、中から湯気が立ちのぼります。
敷き詰められたライスに、たっぷりの溶けたチーズと、具材のナスやしめじを絡めていただきます。
とっても熱いので、食べる時にはご注意を!
スイーツは、シュークリーム、焼きチーズケーキ、レアチーズケーキ、シフォンケーキなどがあり、中でも安定した人気を誇るのがこちらの「アップルパイ」。
コーヒーセットで950円です。
一般的な平べったいアップルパイとは異なり、こんもりと高さのあるビジュアルです。
高さの秘密はフォークを入れてみると判明しました。
中にはごろっと大きな煮りんごがぎっしりと入っているんです。
甘すぎないシンプルでオーソドックスな味わいは、コーヒーの味を損ねることなく、相性もばっちりでした!
ちなみに、北野珈琲は「喫煙可能店」につき、全席喫煙OK!
コーヒーとタバコのコンビネーションが大好きな方にとっては、きっと最高にくつろげる場所になると思います。
古本さんに聞いたところによると、客層の9割はご近所に住んでいる常連さん。
多い人は1日に何度も来店されるそうです。
実はこの長住界隈には、あまり喫茶店がありません。
ライターの私が住んでいた頃はかろうじて数店舗ありましたが、現在そのほとんどが廃業されました。
そのため、ご近所の方にとって、北野珈琲はかなり重宝されている存在なのです。
“陸の孤島”と言われる南区長住で30年続く「北野珈琲」。
これからも地域の人々にとって、良き憩いの場所になり続けていくことを切に願っています。
北野珈琲
住所:福岡市南区長住3-2-1
営業時間:10:30~20:30(O.S 20:00)
電話番号:092-561-5517
定休日:水曜日
Instagram:https://www.instagram.com/cafe_kitano/