コロナ禍の前も後も、福岡の人気居酒屋を支えるのは“人”である。

福岡で人気の飲食店ひなた、はなび、まつり、みのりに続く5店舗目「博多の酒場ジャイアント」をオープンさせた株式会社ユニティ。新型コロナウイルスの影響を受け1ヶ月自粛、そして現在は営業を再開しています。代表の馬場智さんに、5店舗が人気居酒屋に至るまでの経緯、そして更に新型コロナウイルス後の変化や今感じていること、これからの飲食業界について話を伺いました。

繁盛店で仲間と働く楽しさと、料理人としてのやりがいに出会う

――佐賀県有田出身の馬場さんは大学進学で上京、卒業後は福岡に戻り学生時代に魅了された飲食業界に入ります。料理などの経験を積み、やがて福岡の人気店で働くことになります。

馬場さん

最初はお客さんとの距離が近いレストランバーで働いていたんですが、料理人とお客さんがつながる現場で、改めて飲食の仕事にやりがいと魅力を感じました。

それまで料理を本格的に勉強していたわけではなかったので、もっと勉強したいと思い、昼に居酒屋さんの仕込みに入り、魚をさばいたりして料理の経験を積みました。

いずれ自分の店を持とうと思っていたので、次は自分がやりたい店に近い店に入ろうと思い、当時とても勢いがあって年齢層も幅広く、自分も気になっていた中央区大名の「雄屋 (たけや)」の2号店「雄屋わさび」のオープニングスタッフとして働くことになりました。
 
オープン前に予約で満席になるぐらいの人気店で、駅から近い中央区今泉の隠れ家だったことと、1号店の「雄屋」の信頼もあり常に忙しかったですね。

人が辞めない店だったので、3番手でバイトにも近い全体を見ることができる役割だったことも経験になったと思います。


福岡市内で5店舗の人気居酒屋を営む、(株)ユニティ代表の馬場さん

5店舗展開までに感じた運営の厳しさと人材育成という会社の役割

――3年が過ぎ、次は店長を経験したいと思っていた矢先に、他店から店を全部まかせるからやってみないかと誘われ退職、完全歩合制の店長として新たな一歩を踏み出します。

馬場さん

“うまくいっていないからどうにかしてくれないか”という相談からきた話だったので、つぶれる寸前の店の荒み方を経験しました(笑)。

店の売上が悪い原因となっている料理やスタッフ、清掃面など問題点すべてを目の当たりにしたんです。店名もスタッフも変え再スタートを切りました。

はじめは知っている人たちがきてくれていましたが、2ヶ月目からはこなくなり売上が上がらなくなったんです。

今思えば前の店が人気店だったので調子に乗っていたと思います。常連病にかかっていたんです(笑)。

店舗の運営は自分でもできると思っていたのでショックでした、繁盛店をつくるということを簡単に考えていたのかもしれません。自分の経験不足と実力不足を痛感しました。
 
それからは初心にかえり、美味しい料理をつくる、お客さんが気持ちいい接客をする、店をきれいにするといった当たり前のことをやるしかないと、とにかく一生懸命やり続けました。

1年目は赤字と黒字を繰り返し、やがて知り合いではない新規のお客さんが常連になってくれるようになりました。

買い取ったこの店が(株)ユニティの1店舗目となる「ひなた」となり、その後「はなび」「まつり」をオープンしましたが、3店舗目のまつりをオープンした時に、“赤字を出さない程度に売上を保つ”ことが大事だと気付きました。
 
売上は、社員の実力とともに上がっていくほうがいいなと思うようになりました。売上が悪ければ、社員が自分たちで考えることができるし、考えさせることが僕たちの役割なんです。

会社にした以上、根本的に社員を育てるという理念があります。新店舗を出す理由のひとつも社員を育てるためなんです。


県外評価が高い福岡飲食店の魅力のひとつは、スタッフにある

――県外の方たちからの評価も高い福岡の飲食店ですが、飲食業界で働く人達にとって安心できる職場をつくり、人材を育てることを大事にしている馬場さんは、福岡の飲食業界を支える基盤づくりをしているとも言えるのでは。

馬場さん

福岡は人口も増え続けていてとても注目されているので、これからどんどん変わっていく都市だと思っています。そんな中、僕が福岡でどんな職場をつくれるかということが課題になってくると思っています。
 
新型コロナウイルスの影響で飲食業界は打撃を受けていますが、 (株)ユニティでは、独立したい社員を育て、安心して家族を持てるように育てたいと考えていました。

飲食業界は結婚を機に辞めていくスタッフがとても多いんです。 もちろん家族を持っている社員もいますし、働く環境を決めるのはその人の価値観だと思っていますが、一般的には安心感を与えられないイメージからまだ抜け出せてない業界であることは事実です。

ですから、独立して家族を守ることができる社員を育てたい、飲食業界に安心感を与えたいと思っていました。
 
今回の新型コロナウイルスの影響はスタッフと話す時間が増え、立ち返るきっかけになりました。

スタッフの中でもなんとなく飲食店で働くのか、これから本気で飲食を生業にし働きたいと思うのかが二分化されてはっきりと見えるようになったと感じています。


5店舗目としてオープンした博多区店屋町の「博多の酒場 ジャイアント」

コロナ禍で厳しいのは飲食業界だけではない。だから乗り越えて福岡の飲食業界を盛り上げていく。

――歓送迎会シーズンの3月から、全店舗が飲み会自粛の影響を受けていました。緊急事態宣言を受け馬場さんはいち早く全店舗をクローズさせます。

これは今よりも新型コロナウイルスの情報が少かった為、従業員を危険に晒すことを一番に避けたいと思い休業に踏み切ったそうです。

馬場さん

とにかく新型コロナウイルスに関する情報が少なかったし何が正解かもわからなかった頃だったので、休業は店や会社にとってももちろん打撃ですが、まずは従業員を守ることを一番に考えました。
 
自粛中はテイクアウトを始めたり、テイクアウトイベントに参加したりと、できることを考え奮闘していましたが、緊急事態宣言が一部解除になり「ジャイアント」をはじめ他の4店舗も換気やアルコール設置、シートで仕切り、入店の組数も制限などの感染対策を行い5月18日より営業を再開しました。
 
これまで接客、料理などすべてにおいて、少し気になることがあっても黒字であれば、目をつぶっていました。

ですが今回の新型コロナウイルスの影響を受け、今は少しでも気になったことは改善しています。大変な時期ですが、厳しくできる状況になったことはよかったのではと考えています。
 
新型コロナウイルスの影響で飲食業界は厳しい状況にありますが、それは今どの業界でも同じで、飲食業界に限ったことではないと思っています。

福岡は転勤族の人が多いのですが、転勤した常連さんが福岡に遊びにきて寄ってくれることが多いんです。
 
また、お客さん同士が仲良くなることもよくあって、結婚した人もいます。そうやってお客さんからも大事にしてもらっている店だからこそ、思い出の店、帰ってくる店としてずっと続けていきたい。

この状況下を乗り越え、これからも働きたいと思ってもらえる店を続け、安心して働ける場所にしていきたいと思っています。


各店舗の特徴が描かれた5店舗それぞれのショップカード

これから福岡の飲食業界を支えていくのは“人”と環境

馬場さんが考える飲食業界で働くスタッフの人材育成と環境を整えることが、福岡の飲食業界を支え、継続させることにつながっていて、これが福岡に人が集まる理由なのではと思っています。

自粛を経験し、客である私たちも当たり前に外食できることの大事さを感じていますが、“外食の楽しさ、ありがたさを一番感じているのは自分です。だからその当たり前を手助けできるようにがんばっていきたいと思います”と話す馬場さん。

客側も油断せず第二波に気をつけて、一緒に福岡の飲食業界を支えていければと思いました。

「博多の酒場ジャイアント」はネオ酒場としてグループ初の串物、生簀から捌く新鮮な活きゴマサバなどが人気。ひなた、はなび、まつり、みのりも通常営業に戻りつつあるので、感染に気をつけ各店舗の味を楽しんでくださいね。

■博多の酒場ジャイアントの人気メニュー

酒場名物 絶品肉どうふ 490円(+90円で煮玉子付き)。荒木豆腐さんの美味しい絞り豆腐と牛バラを組み合わせた人気メニュー


生簀で泳ぐ新鮮ゴマサバ 980円

■博多の酒場ジャイアント
https://hakata-no-sakaba.com/
福岡市博多区店屋町2-27
092-409-3011
11:30〜14:00/17:00〜23:00
定休日なし

■今泉ひなた/092-732-0700 
■大橋はなび/092-552-8200
■春吉まつり/092-791-6155
■大名みのり/092-715-0603
各店舗の営業時間は新型コロナウイルスの影響で変更になる場合がありますので、来店前に各店舗にご確認ください。

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ライター
山内 亜紀子
福岡女子短期大学音楽科卒。卒業後ラジオ局の番組制作に関わる。その後転職し、福岡の数々の情報誌とWEBメディアの編集・ライターを勤める。編集では映画紹介やコラム、インタビューを経験。2015 年よりフリーの広報、ライターとして主に映画、グルメ、旅行コラムを執筆中。

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