クラフトビールへの興味はメキシコから
メキシコ料理店「エルボラーチョ」は、杉山さんが単身メキシコに渡り、現地のメキシコ料理店で一から本場のメキシコ料理を学び帰国、2002年に大名に最初の店舗を構えたところから始まっています。
その杉山さんが、クラフトビールに興味を持ったのも、メキシコからだったといいます。
本場メキシコ料理が味わえるエルボラーチョの人気メニュー タコス「ポジョ・ランチェロ」620円。ビールによく合う一品です
杉山さん
メキシコでの飲み方、食べ方も変わってきていて、大量にお酒を飲むのではなく、少ないお酒の量でメキシコ料理を楽しむ食事の仕方に変わってきていたんです。
メキシコってアメリカに近いのでアメリカで勉強してきた人たちがクラフトビールを造っています。だからメキシコのクラフトビールのレベルが上がっていると感じていました。
そして、メキシコでのクラフトビール熱を感じていた杉山さんは、自分たちで福岡のクラフトビールを造ってみたいと2017年にフクオカクラフトをオープンさせるのです。
クラフトビールの味はブルワーの腕のみせどころ
フクオカクラフトは先にパブとしてオープンしましたが、その後ブルワリーを併設してビールを醸造することを計画していました。
そんな時、杉山さんが紹介されたのが、現在フクオカクラフトでビールを造っている、アメリカ・ミシガン州出身のブルワー(ビール職人)デビッドさんです。
フクオカクラフト、ブルワー(ビール職人)デビッドさん
杉山さん
だから技術を持ったブルワーの腕の見せどころなんです。
デビッドは、クラフトビールの知識もすごいし、情熱もある。アメリカ人だけど日本語もうまかったので、コミュニケーションの心配もありませんでした。
元々アメリカでホームブルワーとして家でビールを造っていたけれど、ちゃんとした設備で造るのは未経験と聞いていましたが、経験はいずれついてくると思っているので、フクオカクラフトにブルワリーを併設し、デビッドとビールを造ることになりました。
一度は中断した設備探しを再開し、いよいよ缶ビール製造へ
パブと併設したブルワリーもでき、オープン当初から缶ビール製造に向けて動いていた杉山さんですが、設備探しに苦戦し缶ビール造りを中断してしまいます。
フクオカクラフト外観、向かって右がパブ、左がブルワリー(醸造所)
杉山さん
日本国内でも作れるところはあったのですが、味の方向性の違いや、ロットが多すぎることなどの問題があり一時期探すことを中断していたんです。
その間に福岡にクラフトビールの店も増え、僕達の店にもクラフトビール初心者の人たちからクラフトビール好きの人まで、様々な人たちが訪れてくれるようになりました。
そんな時、ポートランドにあるフクオカクラフトのタンクを造っているメーカーが、缶ビールを造ることができるほどの大きな設備を持っていることを思い出しました。
僕らのクラフトビールのタンクを作ってくれているメーカーなので、味の方向性に不安もなく自分たちの缶ビールができると思い、缶ビール造りを再開することにしたんです。
福岡土産にもなる!フクオカクラフト缶ビールが完成
ビール缶の販売に向けて先行販売をリターンにしたクラウドファンディングは、開始直後から支援者が詰めかけ、最終的に233%達成して終了。福岡を代表するクラフトビールとして、クラフトビール好きの注目度が高いこともわかります。そして2020年5月に缶ビールの販売を開始しました。
FUKUOKA CRAFT 缶ビール 530円。店でしか飲めない樽生ビール「ペールエール」を、クラフトビール聖地であるポートランドの醸造所とコラボして製造。MosaicとCitraというホップによる柑橘系フルーツとマンゴのハーモニーが楽しめます。
杉山さん
僕たちのクラフトビールは、アメリカのエール系でエッジが効いていますが、ホップの使い方が他と違うので香りが立つんです。そこが個性的なんだと思います。
そもそも“フクオカクラフト”と名前をつけた時点で、店を作ってビールを広めて、最後は缶ビールを作りたいと考えていました。
福岡生まれのクラフトビールとして発展させていきたい、駅や空港で福岡の土産物として浸透させたいという気持ちがあったので、デザインも“FUKUOKA”を強調しています。
また、ビールって、かっこいい、強いといった男目線が多いんですが、若い女性達の中でもテレビドラマの影響でクラフトビール好きが増えたので、デザインのテーマはオレンジで、女性の人が手に取りやすいように、うちの特徴であるホップのイラストでわかりやすく、やわらかいイメージのデザインにしています。
文化を広める為に情報共有するクラフトビール業界
クラフトビール業界の特徴のひとつが、ブルワリーの多くが技術やレシピを公開していること。これが質のいい新しいクラフトビールが増えることになり、業界が発展していくことにつながっています。
エルボラーチョ、フクオカクラフトオーナー 杉山芳文さん
杉山さん
ビール造りのため、全国のブルワリーを訪ねましたが、山梨のアウトサイダーブルーイング、八女ブルワリーなど実際に大きな設備を持っているところでも勉強しました。
どこのブルワリーにいっても設備を見せてくれるし技術も教えてくれます。最初にクラフトビールを造った人たちがそうだったからです。クラフトビールを広めたいからお互いレシピを公開するんです。
クラフトビールには全国どこでも仲間意識があると感じています。だから、自分たちのところにも、開業の相談や見学したい人がくれば、僕も設備を見せるし、レシピも教えています。
1990年代に流行した地ビール文化が一気になくなったのは、美味しくないビールが増えてしまって地ビールの質を下げてしまったからです。
質の悪いものが出ると、そもそものクラフトビールのイメージが悪くなります。技術やレシピをしっかり共有して、反対に質のいいものを広げていけば、もっともっとクラフトビール文化が広がると思っています。
今回の缶ビールは、ポートランドのブルワリーに、僕たちのレシピで造ってもらったコラボ缶なので、いずれ缶設備を持って、自分たちだけで缶ビールを造るのが夢ですね。
そして、今までは樽でしか納品できなかったので出品が難しかったけれど、いずれはクラフトビールの国際大会に参加して、賞をとりたいと思っています。
缶ビールになって全店舗と通販で取り扱いできるようになったので、福岡名物、福岡土産のクラフトビールとして、缶ビールが歩きだして広めてくれると思っています。
福岡から世界へ!缶ビール販売で踏み出した第一歩
フクオカクラフトの缶ビールを販売した杉山さんには、福岡の人たちがファンになったこのビールが、いずれ日本全国、そして世界中に歩き出すイメージがあるようでした。
新型ウイルス感染の影響で自粛により飲食店離れしてしまった人たちが、フクオカクラフトのビールを缶ビールで家飲みすることで、外飲みの楽しさを思い出すかもしれませんね。
フクオカクラフト缶ビールは、フクオカクラフトの店舗をはじめエルボラーチョ全店とネット通販で購入できます。
福岡のクラフトビールがお土産として並ぶ日を、そして福岡から世界へ広がることを楽しみにしています。
▼最新情報▼ ※ 2021年8月4日追記
現在、フクオカクラフト缶ビールの種類は3つ。取材当初にはなかった新作が追加されています。
・「フクオカクラフト ヘイジーIPA」
ホップの苦味に対して、オーツ麦などを入れることでバランスをとり、しぼりたてのジュースのような滑らかな口当たりに仕上げたビールです。
・「フクオカクラフト ペールエール」
苦味が控えめで、幅広い世代から人気。ホップ由来の程よい苦味と、柑橘系の香りを感じるビールです。
・「フクオカクラフト ダブルIPA」
3つのホップの苦味と香り、そしてモルトの旨味が絶妙なバランスのストロングなビールです。
3種を飲み比べて、お気に入りを探してみてはいかがでしょうか。
杉山芳文
1971年生まれ。大分県別府市出身。株式会社EFM社長。福岡市に5店舗、東京都内に2店舗の他、メキシコ・カンクンでもエルボラーチョブランドの店舗を展開する。 脱サラして飲食業界を志していた1999年、料理を学ぶために片道チケットを手にメキシコに渡る。メキシコ料理の予想以上の多様性と美味しさに衝撃を受け、滞在中の2年間に5軒のレストランで修行を重ねる。500種類以上の料理を学んで帰国する際、最も世話になったシェフから「日本人全員に本物のメキシコ料理を食べさせてやれ」と託され現在に至る。2017年にブルワリー&パプ「フクオカクラフト」をオープン。クラフトビール缶を2020年5月に販売開始している。
FUKUOKA CRAFT by エルボラーチョ
福岡市中央区大名1-11-4
092-791-1494
http://fukuokacraft.elborracho.com/