愛に乱暴

テーマは「エンタメ×社会性」。福岡からキャリアをスタートさせた森ガキ侑大監督インタビュー【8/30公開:映画『愛に乱暴』】

福岡からキャリアをスタートさせた森ガキ侑大監督が手掛けた最新作『愛に乱暴』が、8月30日(金)に全国ロードショーを迎える。本作は、江口のりこ主演で描かれるヒューマンサスペンスであり、平穏な日常にひずみが生じる一人の女性の物語が展開される。カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭にも選出されたこの作品は、森ガキ監督のこれまでの経験と福岡との深い絆が詰まった一作だ。彼の「自分で切り拓く」戦略的な歩みが、この作品をどのように形作ったのかを探った。

8月30日(金)に全国ロードショーとなる映画『愛に乱暴』。

 

 

チェコのワールドプレミア(カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭)にも選出され、主演・江口のりこさんの演技に注目が集まる本作のメガホンをとった森ガキ侑大監督は、福岡にもゆかりがある人物。

ということで、「せっかく福岡のメディアなので」と、本作に通じる森ガキ監督のこれまでのエピソードを聞かせてくれた。

 

 

 

吉田修一のベストセラー小説×日本を代表する俳優・江口のりこ×世界が注目する気鋭・森ガキ侑大監督=『愛に乱暴』

あらすじ

夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、結婚して8年になる。義母から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。
そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪、不気味な不倫アカウント…。平穏だったはずの日常は少しずつ乱れ始め、やがて追い詰められた桃子は、いつしか床下への異常な執着を募らせていく・・・。

 

「私ね、わざとおかしいフリしてあげてるんだよ」 いびつな愛の暴走が日常を侵食していく―。

世界で最も古い映画祭のひとつとして1946年から開催されていて、世界12大国際映画祭に数えられるカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のコンペティション部門に選出された本作で主演するのは、唯一無二の存在感とユニークで高い演技力を持つ江口のりこ。徐々に平穏を失っていく“妻”を怪演、一瞬たりとも目が離せない。家庭生活を送りながらも心は常にどこか違う場所にある“夫”を、小泉孝太郎が翳りのあるアプローチで出色の演技を見せる。一人息子を常に気に掛ける“母親”に風吹ジュン、夫の“愛人”に馬場ふみかなど個性豊かな俳優陣が名を連ね、江口扮する主人公を追い詰めていく。

 

Ⓒ2024 「愛に乱暴」製作委員会

 

原作は『悪人』『さよなら渓谷』『怒り』など数多のベストセラー作品が映画化されてきた吉田修一が、愛が孕(はら)むいびつな衝動と暴走を描いた同名小説。監督を務めるのは、CMディレクターとして国内外の広告賞を席巻後、初の映画長編作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭で森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞、ヤマシタトモコの大ヒット漫画を映画化した『さんかく窓の外側は夜』など話題作を次々と手掛ける森ガキ侑大。

 

Ⓒ2024 「愛に乱暴」製作委員会

 

物語に隠されたある仕掛けから、映像化は難しいと思われた原作小説を繊細にアレンジ、フィルムを使って主人公の背後からまとわり付くようなカメラワークで撮影を敢行、息もつかせぬ緊迫感に包まれた見事なヒューマンサスペンスが誕生した。

 

 

 

福岡×監督・森ガキ侑大

為末大、という障壁との対峙。

「僕は、ガッツだけでここまできたのかもしれません」。

 

そう話してくれた森ガキさんは、広島県出身。高校三年生まで、県下でも記録を残すほどの陸上の選手だったという。

 

「でもですね…広島は、為末大という凄い選手を輩出した街なんですよ。どんなに記録を伸ばしても、ずっと為末さんの名前を前に見てきました」。

 

たとえ大会で1位をとっても、記録上は為末さんに勝てない。そんなしんどさが、森ガキ少年に「別の道」を迫っていったそう。

 

「そのまま大会1位で満足できたならよかったのですが…気づいたら陸上をやめていました」。

 

なんとももったいない、と思ってしまうのだが、このときの決断が、今の彼を形作っているのもまた確か。

 

その後、下校時間が早くなり時間ができたため、レンタルビデオ屋に通うようになる。

 

「『グリーンマイル』とか、『ショーシャンクの空に』とか、かたっぱしから観てハマっていきまして、いつしか映画監督になりたいなと思うようになりました。何より、映画なら、1位もないからですね」。

 

記録と対峙し続けてきた森ガキ少年にとって、誰かと比べられる人生に対するプレッシャーがほとほと強かったのだとわかる。

 

福岡、という街との邂逅。

地元の大学を出て、映画監督を目指すも、「まずはCMやテレビの監督になって、そこから映画監督に挑戦する」という道なき道を知った森ガキさんは、映像制作会社を何十社も受ける。

 

「東京、大阪、名古屋、福岡、の会社を受けました。それぞれ、現地まで足を運んで面接も受けたのですが、正直、博多駅に降り立ったときに『あ、僕はここが好きだ』と思ったんですね。残りの会社もありましたが、心は福岡で決まっていました」。

 

直感的に福岡の水が合うことを察知した森ガキさんは、23歳から26歳の3年半を、昼間は仕事でAD(アシスタントディレクター)をしながら、夜は寝る間を惜しんで企画を作って過ごしたそう。

 

「このフクリパでもコラムを書いている林田さんのお店・TAOに入り浸っていました。そこで企画を書いたり林田さんに相談したり。

仕事では福岡をはじめとして、九州の色んなところに行ったので、今でも姪浜とか薬院とか、全然わかりますよ」。

 

ADから、監督へ。

しかし、なかなかディレクター以上の仕事ができないもどかしさを感じていたところ、東京から来た広告代理店に足掛かりをもらい、上京。ここで、凄まじい極貧生活を送ることになる。

 

「もう、食べるのもやっとで本当にしんどくて。そんなある日、MV(ミュージックビデオ)で監督という肩書を得て、ディレクター業から監督業にシフトするという流れに気づき、まずは1本、MVを撮ってみたいと思って200社ほど企画書を送ったんですけど全然ダメで。そりゃそうです、実績がないですから。

そこで、これは正面突破は難しいと考え、色々調べた結果、セキュリティがあまり高くない、とある音楽事務所にふらっと行って担当の方と話す機会を得まして、『なんか君、おもしろいから企画書いてみてよ』と言ってもらうところまでこぎつけ(笑)…今なら絶対ダメなやり方ですが」。

 

そう、ここでも森ガキさんのガッツが光ったのだった。

 

陸上選手から映像の世界へ。

ディレクター業から監督業へ。

つねに「自分で切り拓く」スタイルを貫いてきた森ガキさんだが、それでもまだ、映画監督の足掛かりであるCMの監督には遠かった。

 

MVから、CMへ。

 

「MVの監督実績だけだとCMはこなくてですね…。そこで、再び地方の縁を辿ることを考えました。

 

下積み時代にお世話になった福岡の企業のCM制作で監督として仕事をする機会をもらい、そこから東京以外のありとあらゆる地域のCMを作らせてもらいまして、あるとき、東京圏の仕事をもらうんです。それが『武蔵野銀行』のCMでして、これが(優れたテレビやラジオCMに贈られる)ACCのシルバーを獲得しまして。あーやっと全国区のCMに携わることができるな、と。そこから、JRAやソフトバンクなどのCMを作らせてもらいました」。

 

CMから、映画へ。

要所要所で森ガキさんの人生に色を添えてきた、福岡。なんだか誇らしいのだが、福岡時代のCMは、きっと多くの読者も目にしているのではないかと思うものばかり。

そんな森ガキさんには、ここでも陸上選手の頃から一貫して変わらない戦略的なガッツがあった。

 

「ADから監督、MVからCMとシフトしてきましたが、その間も映画はたくさん観ていました。でも、CMでゆるがないポジションになってからじゃないと、映画にはいかない、と決めていたんです」。

 

県大会で1位を獲得しても、為末大の記録の前に、満足できずにいた森ガキ少年時代から、変わらずそこにあるのは、「自分でないとダメな確固たるポジション」なのだった。

 

「そろそろ映画に挑戦しよう、と考えて、映画会社をまわりはじめまして」。

 

それが、31歳。業界人生8年にして、映画監督に指がかかるのは、はっきり言って早いほうだ。

 

「そうですね、確かに、しんどかったけど、早いほうではあります。ありがたいことです」。

 

ちなみに、現在劇場を賑わせている同世代の監督たちも、同じような泥水をすすっているのか、気になって聞いてみた。

 

「はい、それはもう、間違いなくみんな泥んこになって駆けずり回ってます。実は、かつては映画会社が監督を抱えていて、という仕組みだったんですけど、もうそういうのはないんですね。なので、いまどんなに有名な監督であっても、1本ごとに数字との勝負になります。映画会社も、監督のネームバリューだけで配給を決められませんし、監督サイドも、次がある、ということがまったくないんです」。

 

原作との相性、映画会社との相性、出演者のバランス。

様々なことを、文字通り「ゼロから」すべてをスタッフと考え、企画に落とし込み、積み上げていくのが映画監督の仕事なのだ。気が遠くなりそうなその作業の連続の先に、我々が享受できるエンターテインメントの世界があるのだと、あらためて感服する。

 

 

 

エンタメ×社会性=森ガキ流方程式

そうした積み上げで生まれた本作『愛に乱暴』。

 

Ⓒ2024 「愛に乱暴」製作委員会

 

「主演は江口さんしか考えられなかった」と森ガキさんが力説するだけあり、実にヒロインの複雑かつ猟奇的な心理描写を、オーバーアクションではなく、無表情ななかで演じ切っている。

 

想い、考え、調べ、決断し、実行する。そのすべてを戦略的に、ガッツを持って進めてきた森ガキさん。

 

陸上をやめた高校三年生以来、人生に寄り添うように常に映画があったのだと思うが、レンタルビデオ屋で出合った『グリーンマイル』や『ショーシャンクの空に』といったヒューマニティから、彼自身がメガホンをとった二作目『さんかく窓の外側は夜』といったミステリーまで、映画と言ってもテーマやコンセプト、ジャンルは多岐にわたる。

 

最後に、こうしたなかでの彼なりのテーマ選定へのこだわりを聞いてみた。

 

「今回の作品は、今現在日本が抱えている少子化対策とか、生産性向上といった問題が、『余白がなくなる、無駄を省く社会』になりつつあることを危惧する感覚からスタートしました。

少子化対策ひとつとっても、なかには『子どもが欲しくない』とか『子どもが授からない』人もいるかもしれない。でも、そういった人の感情が置いていかれている気がしてならないんです。居場所がなくなっているとも言えますかね。

 

一方、先日ワールドプレミアでチェコにもお招きいただきましたが、例えばヨーロッパ諸国で見ると、スイスのように、人口を増やすことだけが政策じゃないよなって思える事例もあるわけです。

 

で、そういった社会問題って、通常だと社会派というジャンルで骨太に描かれることが多いんですが、僕はあくまでも、一個人の感情に注目していたいので、社会性よりも物語性を重視しています」。

 

本作も、主人公を取り巻く出産など様々な問題が、あくまでも「一人称」であることの印象が強い。

強いがゆえに、見ていると、自分事のようにキリキリとどこかが痛む感覚さえ憶える。

 

「たぶん、そうやって感じてもらったあとだと、同じ問題が全然違って見えるんじゃないかなと。そしてそれは、人によって違っていいし、こちらが決めた何かを伝え切る必要もないと思っています。

だからこそ、あくまでもエンタメに社会的要素を盛り込む、という順番で作品を描くことを心掛けています」。

 

ドキュメンタリーとも違う。ドラマともまたどこか異なる。

森ガキ流方程式のもとに繰り広げられる『愛に乱暴』は、8月30日(金)、全国ロードショー。

ぜひ、劇場に足を運んでいただきたい。

 

 

 『愛に乱暴』

 

©2013 吉田修一/新潮社 ©2024 「愛に乱暴」製作委員会

 

2024年8月 ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13ほか、全国ロードショー

出演:江口のりこ、小泉孝太郎、馬場ふみか、水間ロン、青木柚、斉藤陽一郎、梅沢昌代、西本竜樹、堀井新太、岩瀬亮、風吹ジュン

原作:吉田修一『愛に乱暴』(新潮文庫刊)

監督・脚本:森ガキ侑大

脚本:山﨑佐保子/鈴木史子

音楽:岩代太郎

製作幹事:東京テアトル/読売テレビ

配給・制作:東京テアトル

制作プロダクション:ドラゴンロケット

Ⓒ2013 吉田修一/新潮社 Ⓒ2024 「愛に乱暴」製作委員会

映画公式サイト:www.ainiranbou.com 公式X:@ainiranbou

 

 

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