街角にある“新しい世界”を探そう!大濠公園〜博多駅のギャラリー散歩のすすめ

再開発が進んでビジネスが盛り上がる福岡市内で、もう一つ興味深いムーブメントが起きているのをご存知でしょうか?実は、ここ3、4年ほどの間で個性的なアートギャラリーが次々に誕生しているのです。その中心となっているのは、“大手門・赤坂”と“中洲・古門戸”、“薬院・白金”の3エリア。なぜ今頃になって個人のギャラリーが増えたのでしょう。アートギャラリーの魅力について、九州・山口のアート情報を発信するポータルサイト「プラスフクオカ」の編集長であり、自らもギャラリーを営む村上博史さんにお話を伺いました。

盛り上がりを見せている福岡のアートシーン

ここ数年で、個人のギャラリーが増えていると同時に、アートシーンも盛り上がりを見せています。
2021年9月に福岡市で開催されたアートイベント「Fukuoka Art Week」には、“大手門・赤坂”周辺で4ヶ所、“中洲・古門戸”周辺で6ヶ所、“薬院・白金”で4ヶ所のギャラリーが参加。これらほとんどが2018〜2021年にオープンしたギャラリーです。しかも従来のようにアーティストが場所代を支払って展示を行う「レンタルスペース」ではなく、ギャラリーのキュレーター(※)によって企画された展示を主としているのです。
つまり、アート鑑賞のプロの視点を通して作品に触れられるということ。これはどういう意味をもたらしているのでしょうか?
 
※キュレーター
展覧会の企画・構成・運営などを手がける専門職。または、管理責任者

純粋な気持ちで楽しんでから、考える。生まれた感覚を掘り下げる現代アートの楽しみ方とは?


ウェブサイト「プラスフクオカ」

そもそも、普段アートに触れる機会が少ない人にとって、ギャラリーは少し敷居が高い印象があります。作品をどう見ていいのかわからない、理解できなかったらどうしよう…なんて思う人も多いのではないでしょうか。
実は「プラスフクオカ」編集長の村上さんも、サイトを立ち上げるまでギャラリーに行ったことはほとんどなかったそうです。

村上さん

私は美術の専門教育も受けていないですし、プラスフクオカを始める前は、美術館には行っていましたがアートギャラリーには行ったこともなかった。プラスフクオカも“アート系の展覧会情報をまとめているウェブサイトがなかった”という理由で始めたんです。

サイトを立ち上げてからギャラリーに通うようになり、作家として個展開催も経験し、さらにはArtasGalleryを立ち上げるまでになりました。アカデミックな教育を受けていなくても、自分の動き次第でいろいろな展開ができるアートにはそうした自由な気質があると思うんです。だから、鑑賞するのも自由に。表現技法や哲学などがわからなくても、単純に楽しめばいいんです。大事なのは、その後に”何でこうなっているんだろう”と考えることです。


「プラスフクオカ」の編集長であり、自らもギャラリーを営む村上博史さん

“なんか好き”でも “嫌い”でも、“わからない”でも、感じたことは全て正しいのです。そこから“なぜ?”へつなぐことで、アートへの理解はもう一段階深まります。
そしてもう一つ、最近のギャラリーで多く取り上げられている現代アートには、こんな楽しみも待っているそうです。

村上さん

ゴッホやピカソと違って、現代アートの作家さんは現在進行形で創作しています。展覧会で気軽に交流を持つことができるのも大きなメリットです。しかも、現役のアーティストさんの多くは私たちと世代が近いでしょう。時代変遷を含めて似た環境で生きてきたから共感できる部分も多い。逆に、同じような経験をしているのに自分とは違う感覚に気付かされることもある。作品を通して得られる気づきはたくさんあるんです

 
作品の向こうにいるアーティストを思う。それは普段の生活で繰り返してきた“人と人のコミュニケーション”です。そう考えると、アートはグッと身近な存在になってきませんか?
最近ではカフェやショップの中に併設するギャラリーも増え、“ふらりと立ち寄る”なんて楽しみ方ができるようになりました。気軽に新しい視点を得られるギャラリーは、街の中にこそ必要なのかもしれません。

社会とアーティストを結びつける役割も。個性派ギャラリーがもたらすもの、社会の中での存在意義とは?


大手門の街並み

ギャラリーが増えることは私たちの暮らしや地域にとっても喜ばしいことですが、反面で存続させることは容易ではないのだとか。

村上さん

ギャラリーは、作品が売れないと収入につながらないんですよ。ここ最近は“アートバブル”なんていわれて、ものすごく高額で作品が取引されている例もありますが、それはごく一部の話。世の中のギャラリーのほとんどは、コロナ禍で展覧会もできません。正直、うちも黒字になったことは一度もないんです
でも、ギャラリーが無くなれば、アーティストさんが作品を発表できる機会は失われてしまいます。デジタルアートという手法も注目されていますが、作品と直接向き合うことができるリアルな場所もやっぱり必要なんです

さらに、村上さんはアーティストが職業として認められ、生活できるようになることも必要だと考えています。

村上さん

ギャラリーは社会とアーティストを結びつける役割もあるんです。日本でアーティストといえば、風来坊というか、社会のルールから少し外れた人みたいなイメージがあるでしょう。アーティストさん自身も社会に適応できないから創作活動をしているなんていう人もいます。
でも、ヨーロッパなどのアート先進国では立ち位置が全く違って、アーティスト=“社会を変える人”と評価されているんです。表面的なデザインだけではなく、既存の固定概念を取っ払って、新しい価値観を提案してくれる。そして社会をより良い方向へ導くのがアーティストの役割だと。だから、研究者や大学教授と同じく、有識者と呼ばれる位置付けなんですよ。

海外では、伝えたいことを形にする“表現のプロ”として、企業と組んで社会的なプロジェクトを動かすのは当たり前。そこまで地位を確立するのはまだまだ先かもしれませんが、いずれ評価されるのは世の中を変えようと表現活動に取り組むアーティストだと村上さんは感じています。福岡からそんな才能を輩出したい、という思いもギャラリー運営を続ける理由なのだとか。

福岡のアートムーブメントで注目すべきエリアは“大手門・赤坂”や“古門戸”

「プラスフクオカ」でギャラリーの情報を発信しながら、「Fukuoka Art Week」といったアートプロジェクトにも力を入れている村上さん。福岡のアートシーンの中で、注目すべきエリアを教えていただきました。

村上さん

そもそも、福岡市の方針として、大濠公園を中心として文化地区を形成するセントラルパーク構想が進められています。その一環で、公園内に建つ福岡市美術館の隣に福岡県立美術館を移転する計画も発表されましたよね。つまり、これからの福岡のカルチャーは、大濠公園を中心に盛り上がっていくと考えられます

確かに、大濠公園に近い“大手門・赤坂”や“古門戸”などに新しいギャラリーが集まっています。村上さん曰く、このエリアの特徴は、来場者の生活圏に入っているか、外れても徒歩10分以内ということ。ビジネスでも人流でも、福岡の中心は博多駅から赤坂駅の間に集中しています。ギャラリーを利用する人にとっても、日常的に行き来することが多いエリア。そういった場所にあると、「ちょっと時間が空いたから寄ってみよう」なんて気軽に立ち寄れますよね。
さらに、もともとこの辺りはテナント代が比較的お手ごろ。コロナ禍に入ると開業する人が減り、さらに賃料が下がったことも原因の一つと考えられます。

参考:「福岡市セントラルパーク構想」 /福岡市「新福岡県立美術館基本計画の概要」

では、実際に街を歩きながら、天神にほど近い「古門戸」「大手門」にあるギャラリーを訪れてみましょう。

 “思考”することで感性を磨く「ARTAS GALLERY」


浦川大志企画展「線と_」@2021年5月 撮影:長野聡史

まずは、村上さんが運営する「ARTAS GALLERY」へ。村上さんは自身のアート活動の原動力となった“未知なるものへの好奇心”を来場者にも感じてほしいと、幅広いジャンルでの企画展示を行っています。
「ギャラリー全体としては“思考”をテーマに掲げています。作品から刺激を受けて、アートとは何か、何のためにあるのか考えてもらう。そこから今まで気づかなかった世界が見えてくるのではないかと期待して。名前の“ARTAS”も、art とas(〜のために)をくっつけた造語です」

村上さんは、ギャラリー以外でも学生と企業をつなげる新たな企画を進めているとか。その全貌は、今後の「プラスフクオカ」でぜひチェックしてみて!

<開催中・次回の展示予定>
井上舜太 個展 4/2(土)~4/17(日)
斉木駿介企画展「メランコリック日常」 4/23(土)~5/8(日)
 
【ARTAS GALLERY (アルタスギャラリー) 】
■住福岡市博多区店屋町4-8 蝶和ビル205
■TEL092 – 287 – 5599
■営13:00〜19:00(火曜・水曜休み)事前にSNSをご確認ください
 ■ウェブサイト:https://artas.fun/gallery/

みずみずしい若手アーティストの世界観にひたる「art pod 99(アートポッドツクモ)」


Moe Iwata個展「#006 気付きに目が、あつくぼやけて、零れますように。」@2022年2月

続いて、昔から続く問屋街・古門戸の一角にできたギャラリーへ。運営するのは20代のアーティスト山本哲平さんと小島穂高さん。二人は成長の余白を残す地元福岡のアートシーンを掘り下げるべく、さまざまな活動を続けています。同世代に向けたギャラリーもその一つで、展示も29歳以下のアーティストに限定しているそう。ポップな作品もあれば、心の奥底に迫るような哲学的な表現もあり、内容は実に多彩。同じ世代はもちろん、30代以上にとっては今の時代を生きる若者の目線にハッとさせられます。共感だけではなく、年齢や時代による“違い”も楽しむ、アートの奥深さを教えてくれる場所です。

<開催中・次回の展示予定>
ウェブサイト・SNSで確認を
Instagram @artpod99https://www.instagram.com/artpod99/
Twitter @artpod99(https://mobile.twitter.com/artpod99)
 
【art pod 99(アートポッドツクモ)】
■住福岡市博多区博多区古門戸町5-5 5-5
■営木曜日-日曜日 14:00-19:00
 ■ウェブサイト:https://99tsukumoproject.com/

語り合うことでアートはさらに深まる「EUREKA(エウレカ)」


長野櫻子個展「あなたが誰で、どんなに孤独だろうとも」@2022年2月

さらに大手門方面まで足をのばしてみましょう。賑やかな子どもの声が響く「浜の町公園」の向かいにある「EUREKA」は、新天町の「ギャラリーおいし」で展覧会を企画していた牧野さんが開設したギャラリー。地元九州のアーティストを中心に、絵画あり、彫刻あり、インスタレーションありとジャンルにこだわらずどの年代も楽しめるのがポイントです。春にはお花見しながらのアート活動も企画されているとか。「作る人と見る人が交流でき、多様な考え方が共存できる場所を作りたい」と語る牧野さん。訪れる人にも感想を聞いてみると「アートを鑑賞した後は牧野さんと感想を言い合うのが楽しみ」と、会話をおめあてに訪れるファンも多いようですよ。
  
【EUREKA(エウレカ)】
■住福岡市中央区大手門2-9-30 Pond Mum KⅣ 201
■TEL092-406-4555
■営12:00~19:00 (日・月曜は休み) 事前にSNSをご確認ください
 ■ウェブサイト:http://eurekafukuoka.com


写真愛にあふれた展示&書籍が満載「LIBRIS KOBACO(リブリス コバコ)」

 
安彦幸枝写真展 「庭猫スンスンと家猫くまの日日」@2022年2月

のどかな大手門商店街にあるこちらは、写真展のみを扱い、期間外は写真集専門書店として営業しています。「作品に集中してほしいから、ギャラリーと書店は一緒にしないんです」と語るオーナーのみささんは、大小問わず見たい展示のためなら遠方にも足を運ぶ写真好き。地元である福岡で写真作品に触れる場を作りたいとオープンを決めました。「じっくり紹介したいので最低でも一ヶ月は開催する」、「知る人ぞ知る写真家を紹介する」など、展示のこだわりにも写真家への敬意と愛情がぎっしり。ジャンルはさまざまですが、被写体の面白さというよりも、見慣れた風景を独自の目線で切り取るような作品が多く、写真鑑賞の入り口にもぴったりです。
 
<開催中・次回の展示予定>
富澤大輔写真展『字』 3/19(土)~4/24(日)
 
【LIBRIS KOBACO(リブリス コバコ】
■住福岡市中央区大手門3丁目2-26 田中ビル 401号室 [MAP]
■営:13:00~18:00 (展示中は火・水曜は休み) 事前にSNSをご確認ください
■ウェブサイト:http://libris-kobaco.com/access.html

暮らしにアートのスパイスを「SPICE STAND & GALLERY BEM(ベン)」

 
大名の裏路地奥、アイアン作品をあしらった窓の向こうから小粋な音楽と人々の談笑が聞こえてきます。こちらのスタンドバーは2019年の改装を機に企画型のギャラリーをスタート。1階がバー、2階はギャラリーと、まさに福岡のトレンドを体現する存在です。ギャラリーでは、「アート鑑賞の入り口になれば…」というオーナー・佐野さんご夫婦の意向から、絵画や写真、彫刻など多種多様なアーティストを紹介。音楽を愛するお二人らしく展示に合わせたBGMや作家の個性を引き出した体験型イベントも楽しめます。鑑賞後は、スパイスチャイやジャパニーズウィスキーを片手にアート談義に花を咲かせるのもまた一興。“SPICE STAND”の名にふさわしく、日常に刺激をもたらすアートの喜びを教えてくれる場所です。
  
 【SPICE STAND & GALLERY BEM(ベン)】
■住:福岡市中央区大名1-11-29-5 [MAP]
■TEL092-721-6829
■営14:30 ~ 23:00 (展示中は木曜は休み) 事前にSNSをご確認ください
■ウェブサイト:https://bem.gallery
 ※まん延防止等重点措置のため休業、時短営業の可能性あり詳しくはInstagram(@kai_bem)で確認を
 

アートにはほとんど触れたことがなかった私ですが、作品を見て感じたことを思いきって口にすると、どのギャラリーでも真剣に耳を傾けてくださったのが印象的でした。意見を交換する中で新たな視点を得て、もう一度作品を見返す。作品と自分を行ったり来たりすることで、自分の内面もより深く見つめ直すことができた気がします。これもアートの醍醐味かもしれません。

ギャラリーはさまざまな感覚を補給できる“心のガソリンスタンド”のような存在。福岡のあちこちに増えれば、私たちの暮らしはもっと豊かになるのではないでしょうか。もし、ギャラリーを巡ってお気に入りの展示作品に出会ったら、思いきって購入するのもおすすめです。もちろん図録やグッズの購入でも。作家とギャラリーを支えることにもつながりますし、アートが身近にあることで、また違う価値観が生まれるはず。鑑賞する私たちも、福岡のアートシーンを盛り上げる一役を担っているのです。

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ライター
大内 理加
壱岐出身。福岡市内の編集制作会社を経てライターとして独立。現在は、福岡のweb、紙媒体を中心に食、カルチャー、地域活性など、ジャンルを問わずに執筆しています。趣味は、街ぶらと1人旅。妖怪と忍者、サメ・ワニ映画などのワードに飛びつく癖がありますが、話し出すと大体苦笑いに終わります。

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