韓国映画「福岡 Fukuoka」にまつわる、すべてのこと。 福岡映画#09『福岡 Fukuoka』

福岡を舞台に撮影された良質映画を紹介する「福岡映画」。第9回目はタイトルもズバリの韓国映画「福岡 Fukuoka」(2019) をご紹介します。作品完成後コロナ禍による世界での上映延期を受け、未だ日本、韓国、ベルリンなどの映画祭でしか上映されていない幻の一本ですが、現在~1/29までKBCシネマで、そして~2/21まではオンライン配信でそれぞれ期間限定で公開中です。あの「パラサイト 半地下の家族」で世界中を虜にした女優パク・ソダムさんをはじめ、韓国を代表する名優たちが福岡の街をそぞろに漂う、マジカルな魅力の詰まった本作。本記事ではどこよりも詳しい作品の背景情報をはじめ、劇中で重要な役を演じた福岡在住の女優・山本由貴さんをお迎えしてのインタビューをお届けします。

https://youtu.be/8Sl-qJBu5w0

「福岡 Fukuoka」(韓国・日本・中国)
2019年/86分
監督 チャン・リュル
出演 クォン・へヒョ、ユン・ジェムン、パク・ソダム、山本由貴

あらすじ
韓国で古本屋を営むジェムンは、店の常連である不思議な少女ソダムの誘いで福岡を訪れることに。そこには、大学時代1人の女性を愛したことから仲たがいしたままの親友ヘヒョがいた。20年ぶりに再開する二人の中年男に一人の少女が加わり、福岡の路地をそぞろ歩き会話を重ねる。そのうちに、三人は現実と夢のあわいのような、不思議な体験へと誘われていく。

映画「福岡 Fukuoka」は、福岡が30年かけて積み上げてきた映画文化の結晶だった

中国出身でソウルを拠点に活動を続け、本国韓国ではもちろんのこと、ベルリン国際映画祭など世界的にも高い評価を集める映画監督チャン・リュル(張律)が、福岡を舞台とする映画作品「福岡Fukuoka」をつくった背景には、1991年から30年にわたって福岡市が続けてきた「アジアフォーカス福岡国際映画祭(http://www.focus-on-asia.com/)」の存在を欠かすことはできません

福岡市が主催となって、「アジアとの文化交流」にはじまり、後に「コンテンツビジネスの振興」まで視野に入れた取り組みとして継続されてきた本映画祭において、チャン・リュル監督作品は2007年(第17回)「風と砂の女」で公式セレクションに初出。以来2020年(第30回)に至るまで、実に7度にわたって作品が上映されてきました(*1)。
*1:以下、アジアフォーカス福岡国際映画祭へのチャン・リュル監督作品の出品実績
2007年(第17回)「風と砂の女」、2009年(第19回)「イリ」、2010年(第20回)「豆満江(とまんこう)」、2014年(第24回)「慶州」、2017年(第27回)「春の夢」、2019年(第29回)「チャン・リュル監督特集:越境するポエジー(「福岡」「群山:鵞鳥を咏う」「風と砂の女」「豆満江」)」、2020年(第30回)「福岡(モノクロver)」。


チャン・リュル監督

監督は映画祭を通じて繰り返しこの街を訪れるうちに愛着を抱き、福岡の映画人たちとの関わりを深めるなかで、福岡を舞台とした映画づくりのプロジェクトが本格化。2018年3月25日より、撮影が行われました。(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/403350/)


左からパク・ソダム、ユン・ジェムン、クォン・へヒョ

キャストは、本作撮影後、アカデミー賞作品賞をはじめ世界の映画史を塗り替えた韓国映画「パラサイト半地下の家族」で娘のギジョン役を演じた女優、パク・ソダムをはじめ(♪ジェシカー、ウェドンタール、イリノイシカゴ!https://youtu.be/4Auoyzf_Quk)、「冬のソナタ」や「新感染半島」、ホン・サンス作品でおなじみの名優クォン・へヒョ、そして「グエムル漢江の怪物」「母なる証明」や「アイリス」などで好演を見せたユン・ジェムンという、いずれも韓国を代表する俳優3人が結集。対する福岡からは、地元を拠点に活動する女優・山本由貴さんが重要な役回りで出演。映画祭関係者もエキストラとして多数出演されています。


屋根裏貘のあの席だ…!

撮影は、福岡フィルムコミッションの協力のもと敢行。大名エリアの「入江書店」「喫茶花坂」をはじめとして、水鏡天満宮横のうまかもん通り、屋根裏貘、キャナルシティそばの水車橋、うどんの名店「みやけうどん」など、地元民としても違和感のない福岡ならではのスポットが多数登場します(ロケ地にまつわる情報は、こちらの記事に詳しい)。劇中で象徴的にそびえ立つ天神のNTT電波塔や居酒屋「酒房 野菊」などは、映画を通じて再発見された、この街の新たな風景といえます。


フィルムコミッションご担当者による手づくりのロケ地マップ(一部)。愛おしい…!

なお、本作に続いて監督は、2020年1月に福岡県柳川市を舞台にした映画「柳川」も既に撮影を終了させています(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/578108/)。しかしコロナ禍によって制作作業は中断しており(色補正を北京で、音響を台湾で作業を行っている https://youtu.be/pcDyBfIvT1k)、公開についての続報が待たれます。

「ただそこにいる」ことが演技となり、映画になった。 山本由貴さん インタビュー

ここからは、本作に出演した女優・山本由貴さんに撮影当時の様子や作品、監督のことについてお話をお聞きしていきます。

Q、ご出演のきっかけは?

A、2017年のアジアフォーカス福岡国際映画祭での、監督との出会いがきっかけでした。同年の映画祭には監督は「春の夢 (2016)」で、私は「お伝さん~久留米かすり物語 (2017)」という映画でそれぞれ参加しており、その交流パーティの現場で、監督が私に目を留めてくださっていたらしいんです。その後、監督が福岡を舞台にした映画の撮影を本格的に検討されはじめた際に、『あの娘いたよね』と話にあがったのを、監督と10年来のお付き合いがある本作のプロデューサー、西谷郁さんが繋いでくださったことから始まりました。


アジアフォーカス福岡国際映画祭2017年度オープニングセレモニー(お二人を探してみましょう!)

Q、作品ではパク・ソダムさんをはじめとする3名の世界的俳優と並んで、とても重要な役を演じられました。

A、そもそも私がお話をいただいたときには、古本屋さんの孫娘役として、ソダムさんたち一同が入ってくるお店にただ「いて欲しい」ということだけ、お聞きしていました。全容も分からぬままだったので、はじめは『はい…』という具合だったのですが、プロデューサーの西谷さんが『監督は事前に脚本を決め込まず、現場でストーリーを編んでいく人なので、由貴さん毎日現場に来てたら出演、増えます』と言うんです。そう言われてしまったら、私も『毎日来ます』となるわけで(笑)。

福岡での撮影初日は私の出番はありませんでしたが、見学がてら現場へお邪魔してみると、監督一同『由貴さんが来た!』とざわついて。『今日は由貴さんの出番無いのに』『良いんですまずは現場見てみたかったし』『じゃちなみに由貴さん…、明日も来ますか?』という具合で応えていくうちに、出番がすごく増えました。

Q、監督は脚本を用意されない、ということですが、実際のところ、現場ではどんな様子だったのですか?

A、本当に…なんですけど、私は現場では台本どころか、何ももらっていないんです(笑)。主演の3名と韓国スタッフの方たちだけは、ぺらっと数枚の“プリント”を持っていたんですけど、日本側はスタッフでさえも誰も何も持っていません。どうもあの”プリント”に大まかな設定や流れが記してあるらしい…と気にはなりつつも、まぁ自分も韓国語を読めるでもなし、良いか、と割り切って。

私がはじめに登場する書店のシーンも、台詞は決まっておらず、ただ「こういう内容で答えてほしい」と指示されるだけ。だからといってさすがに即興で演じるのは不安なので、通訳さんを介して、こう答えようと思う、と監督に提案すると「うん、それでOK」という具合で、さっくりカメラが回り始める。本当にその場でどんどん作っていく。こうでなくては、というこだわりが全然無い現場でした。

Q、世界の巨匠監督にこの言葉は失礼かもしれませんが、かなり場当たり的な…

A、場当たり的でした(笑)。うどん屋さんで3人に再会するシーンも、はじめ『由貴さんこのあとお時間ある?うどん屋さんに行くんだけど』と言うからお昼かな、と思って同行したら、『じゃあ、あそこでうどん食べててください、3人があちらから入ってきますんで』と撮影が始まる。

Q、すごいですね…、あのうどん屋さんのシーンは映画のなかでも意味のある、重要なシーンです。

A、『男性二人がやってきたあと、ソダムさんがスマホで君の写真を撮ろうとするから、由貴さんはただそのレンズを見てくれ』と言うんです。私もなぜカメラを向けられるのか、とか、どんな気持ちでそちらを見れば良いか、と聞きたいことはたくさんある。ただ、チャン・リュル監督の瞳には、それを言わせない力がある(笑)。
こうなんですよ、と言われると、ああそうですよねわかりました、と不思議な説得力で、引き受けさせられてしまう。

ただ、このレンズを見返す感情についてお尋ねしたときに監督から、『普段誰かと話すときも、ひとつの感情だけでその人の目を見ることはないでしょう?』と言われたのは、不思議なほどしっくりくる感覚がありました。

Q、撮影では、何テイクか撮られるんですか?

A、本当に少ないんです。何ならほとんどがワンテイクでOKが出ちゃう。ただ私は数日間ずっと現場に密着していたから分かるんですが、完成した映画には、ほぼボツになった場面が無いんですよ。撮ったシーンはほとんど全て物語に組み込まれている。まるで計算通りに撮られたように見えるんですよね。

Q、撮影中に、監督にはゴール地点が見えている感じでしたか?

A、現場ではずっと『どうしようかなぁ…』と言っていました(笑)。映画を締めくくるラストカットでさえも、ソウルでの撮影初日に出演予定のなかったあるキャストが、たまたま近くにいたのでと顔を出してくれたのをひとまず撮っておいたシーンだった、というほどです。あのラストは、本当に「ただ撮っていた」素材だった。ただその後に福岡で撮影をすすめるなかで「あ、あれがラストでいける」と思われたそうです。

Q、そうなると、作品のなかで象徴的に登場する天神ど真ん中のNTT電波塔の意味や、ソダムとユキによる“ある場面”(ぜひ、劇中でご覧ください)についても、その狙いを指示されることは…

A、ありません。(笑)なにせ、そのシーンもまた前日の『明日来ますか?』から決まったくらいなので。当日、あの場面に至るまでの一連の流れは指示されても、なぜ私がソダムさんとその行為をするのかについては、少しも説明はありませんでした。

間違いなくここで一番驚いたのは、ソダムさんだったと思います。なにせ彼女の手元には、大まかとはいえ設定や流れが記された例の“プリント”があったのに、いきなり当日来れることになった私と、映画のハイライトになるほど意味を持つ、特別なアクションを突然演じることになったからです。

ソダムさんが通訳さんとともに私のもとへやってきて、“プリント”を指差しながら『このシーンについて、あなたはどう思う…?』と問われたので、『申し訳ないけど、私も分からない。そもそも私はあなたたちが持っているその“プリント”も持っていないの』と答えると、ソダムさんもさすがに『…そうなの!?』と驚いた様子でした(笑)。そこから、ソダムさんと私で解釈を交換しながら、2人なりにこの場面を理解して、じゃやりますか、と腹を決めていった感じです。ただ、さすがに不思議な場面なので、あのシーンだけはカメラマンさんやスタッフもどう撮るか迷われたのか、珍しく結構な数のテイクを重ねました。

だけどやっぱり、これほどむずかしい場面でも最終的に飄々と演じきったソダムさんは、さすがすごいなあ、と思いました。

Q、劇中の、日本語や韓国語、中国語と「異なる言語を話しているのに、不思議と意思疎通ができている」演出も印象的です。監督が2016年に発表した「春の夢」にも同様の演出が見つけられます。

A、監督は『言葉が違っても、ほんとは通じてるんだよね』ということを、ずっと仰っていました。想像力とか、相手を思う気持ち、相手の文化を尊重する気持ち。そういう気持ちが根底にあるなら伝わるし、唐突に思えるソダムとユキによる例のアクションも、不思議は無いんじゃないか、と。

Q、福岡市民にはお馴染みの風景が次々と登場します。鑑賞後に街へ出ると、まるで夢の続きのような感覚を覚えます。

A、現場では監督がみんなを連れて散歩して、事前のロケハンに無い場所でも「よしっ、撮ろう」といきなりカメラを構え始める感じだったので、その度にフィルムコミッションの方たちが超速であちこちへ調整連絡をして、頑張ってらっしゃいました。(笑)

Q、本作にご出演されたことで、キャリアやご自身に変化はありましたか?

A、コロナなどの影響もあって、いまだに日本・韓国とも、ほとんど上映されていないのは本当に残念ですが、韓国の方からはSNSでメッセージをいただくこともありました。

私自身におきた変化としては、とにかくすごく楽になりました。お芝居するときも、人と接する時も、それまでどうしてあんなに力んでいたんだろう、と思うようになった。ちゃんとブレずに、ただそこにいること。これで良いし、これが良いんじゃないかって。なんだか、許してもらえたような感覚があります。

Q、また監督とお仕事ができると、良いですね。

A、監督からは会うたびにずっと、私の故郷である「八女」で映画を撮りたい、と仰ってもらっていて。はじめてお会いしたときの自己紹介で私が八女出身で、お米づくりもやっていると話したことが印象に残ったみたいです。『僕は滅多に地名を覚えられないけど』と仰りながらも「八女」のことは忘れていないようでした。「八人の女(八女)」というところにもインスピレーションを得られたのかもしれません。
(筆者註:八女のフィルムコミッションの方、チャンスですよ!)

さぁ、映画「福岡 Fukuoka」を見ようではありませんか。

さて、ここまでみっちりとご紹介してきた映画「福岡 Fukuoka」。

福岡市民の方なら絶対に見逃して欲しくない作品ですが、冒頭にも紹介した通り、日本では劇場配給が未定のため、今回のような企画上映での鑑賞機会を逃すと、次はいつ見られるか本当に分かりません。
2月21日まで、下記にご紹介する2つのチャンスを逃さずに、ぜひご覧になってみてください!

【 日韓コラボ映画特集 】

映画「福岡」を含む、日本で撮影された韓国インディペンデント映画作品5本を日替わりで上映する特別企画。

① 劇場公開

2021年1月29日(金) KBCシネマ
15:20~本編上映
16:50~17:50 山本由貴さん&西谷郁プロデューサーによるトークイベント
URL: https://kbc-cinema.com/news/information/6516.html
※1/30~2/5 名古屋 シネマスコーレ 、2/6~2/12 横浜 シネマ・ジャック&ベティ へ巡回上映。

② オンライン配信

URL: https://vimeo.com/ondemand/koreajapan/ 
※vimeo内にて「日韓コラボ映画特集」で検索!
期間: ~2021年2月21日(日)までの期間限定
内容: 映画「福岡」を含む「日韓コラボ映画特集」の5作品がお支払日より30日間見放題(2/21に支払われた方は3/22まで視聴可能)
料金: 2,900円(5作品/「福岡」「大観覧車」「でんげい 私たちの青春」「ひと夏のファンタジア」「デッドエンドの思い出」)←お得です

***

【参考】
最後に、本文内で紹介しきれなかった本作にまつわる記事や、監督の過去作配信チャネルなどを以下に参照しておきます。作品をより深く楽しむ一助として、ぜひご覧になってみてください。

⚫映画「春の夢 (2016) 」オンデマンドで鑑賞可(有料)
(videomarket) https://www.videomarket.jp/title/099408
(dTV) https://pc.video.dmkt-sp.jp/ti/10022270

⚫シティ情報ふくおかナビ:撮影現場でのチャン・リュル監督インタビュー&現場レポート
https://www.fukuoka-navi.jp/9359

⚫アジアフォーカス福岡国際映画祭(2019年度)
監督インタビュー http://www.focus-on-asia.com/interview/6686/
上映後Q&Aレポート① http://www.focus-on-asia.com/interview/6770/
上映後Q&Aレポート② http://www.focus-on-asia.com/interview/6772/

⚫韓国映画ライター・成川彩さんによるご紹介記事
https://globe.asahi.com/article/12955223
http://world.kbs.co.kr/service/contents_view.htm?lang=j&menu_cate=culture&board_seq=392509

⚫「日韓コラボ映画特集」 オンライン交流会 『福岡』 x 『でんげい』
チャン・リュル監督、山本由貴さん、西谷郁プロデューサーらも出演したオンライントークです。
https://www.youtube.com/watch?v=GiMr-CQPLBQ

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映画ライター
三好剛平
1983年福岡生まれの文化ホリック社会人。三声舎 代表。企業や自治体の事業・広報にまつわる企画ディレクションをはじめ、映画や美術など文化系プロジェクトの企画運営を多数手がける。LOVEFMラジオ「明治産業presents: Our Culture, Our View」製作企画・出演。その他メディア出演や司会、コラム執筆も。

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