福岡映画#08 「点と線」

香椎が舞台の松本清張の代表作 映画「点と線」。完全犯罪は、なぜ破綻したのか? 

福岡を舞台に撮影された良質映画を紹介する「福岡映画」。第8回目は「点と線」をご紹介します。日本ミステリー史に名を残す松本清張の同名小説を1958年に映画化した本作、現代の私たちはどう見るか? 筆者は“準備と段取り”という観点から作品へ接近していきます。

“仕事”の質を左右するもの

まずは、筆者の話から。
一昨年前の転職を機に、勢いと愛想のパワープレイで押し切るようなそれまでの打合せスタイルを見直し始めました。
お客さんとの話し方やアジェンダづくりまで、さながら投球フォームを一から見直すような抜本改革。
自分にフィットするスタイルを模索するなかで、ほどなくひとつの真理めいたものを発見します。
どうやら大切なことは、この“準備と段取り”のなかにある、と

日々、真面目に働かれている本サイトの読者の皆様ならば「何を今更…」と呆れられそうなうえに、打ち合わせの本質は目の前のお相手との即興的なやりとりにあることも、異論はありません。
なのですが、その質と納得度を高める秘訣は、この準備と段取りにあるようだと思うわけです。
もっと言うならば、あらゆる“仕事”の質は、その場で起こり得る“不測の事態”をどれだけ事前に予測できているか、に懸かっているのではないかと。

さて、こんな話をするには理由があります。
今回紹介するのは、日本ミステリー史に名を刻んだ傑作小説「点と線」の実写映画。
アリバイ崩し不可能という“準備と段取り”の極点をいったはずの完全犯罪はなぜ破綻したか
映画を通じて見つけてみようと思います。

空前の傑作ミステリー小説「点と線」の映画版。

「点と線」
1958年/85分
監督 小林恒夫
原作 松本清張
出演 南廣、山形勲、高峰三枝子、加藤嘉、志村喬、堀雄二

福岡市香椎の海岸で発見された、男女の情死体。
役人と料亭の女による、ありふれた心中事件に見えた本件に疑問を抱いた2人の刑事。
執念深く捜査を進めるなかで徐々に明らかになるのは汚職がらみの複雑な背景と、容疑者が犯行時間に北海道にいたという鉄壁の不在証明(アリバイ)だった——。

原作は福岡にゆかりの深い芥川賞作家・松本清張の同名小説で、1957年から旅雑誌に連載され大ヒット。
日本文学史に残る“アリバイ(不在証明)もの推理小説”の傑作として高く評価されたばかりか、政治汚職を暴く社会派ミステリーとしても新風を吹き込み、当時の日本に一大推理小説ブームを巻き起こします

原作発表と間を空けることなく発表されたのが1958年の映画版となる本作。
監督を務めたのは小林恒夫。一見地味な作品に見えますがその実、職人的な監督術が冴え渡る、かなり“上手くて面白い”一本です。

まず上映時間85分というかなりの短尺にこの複雑なストーリーをおさめ、人間ドラマと謎解きの快感を併走させきった見事な手際と構成力。
加えて、線路信号や蟹など、さりげないモチーフを使って画面に不穏さと緊張感をグラフィカルに織り込む映像演出。
当時の映画業界が共有していた演出リテラシーの高さに圧倒されるうえに、こんな水準の作品が当時は年間500本以上ものハイペースで量産されていたのか…と、改めて感慨を覚えさせられます。

完璧な準備と段取り。それを阻む“不測の事態”。


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本作の見どころとなるのは、何と言っても容疑者のアリバイ崩しです。

東京駅で列車がすれ違うまでのわずか4分間、そして国鉄と西鉄2つの香椎駅のあいだを歩む「せいぜい6分間」に散りばめられた、様々な人物による目撃証言。
この短い数分間のうちに犯人は、誰に・どう目を向けさせるかを巧みに誘導する、圧倒的な段取り力を見せます
列車の到着する時間帯や、目撃者の思い込みまで利用する周到さ。加えて自らの不在証明を裏打ちするために計画された、日本全土の交通網を用いた壮大なタイム・トリック。これからご覧になる皆さんを前に詳しくは書けませんが、なるほどこの犯人の段取り力はかなりのものです。


JR香椎駅構内。作品鑑賞後には「香椎」と見るだけでも心がザワつきます

そうは言っても、罪は必ず暴かれるもの。刑事たちによる執念の捜査が一歩また一歩と真相ににじみ寄る。
そうしてついに迎える最期、計画破綻の決定打となるのは、人が人であるがゆえの“不測の事態”でした。

いくら“準備と段取り”を重ねようとも、目の前の「人」を完全に操縦できるような全能感に溺れてはならない。
ぜひその顛末は、映画を通じて皆さん自身でご覧いただきたいものです。

映画には、福岡県の香椎地区が非常に重要な場所として登場します。

ふたりの情死体が発見される香椎浜。そして鉄壁のアリバイの現場となる国鉄香椎駅と西鉄香椎駅。
電車を降り立った女に「ずいぶんさみしいところね」とつぶやかれたこの街も、今では繁華街としての賑わいを増して、その表情を変えています
香椎浜へ直行させて殺害するはずだった犯人の目論見も、今の香椎の街なら「ちょっとあのお店にも寄ってみたいわ」なんて不測の心移りに阻まれたかもしれません。


旧国鉄、現在のJR香椎駅。かなり面構えが変わりました


こちらは西鉄香椎駅。こちらも高架になっていたりと、ずいぶん表情を変えています


西鉄香椎駅東口の壁面には原作の初盤で香椎が紹介された本文を掲出


西鉄香椎駅の西口には、通称「清張桜」と呼ばれる桜と記念碑も

最後に、もうひとつ。
今回このタイミングで本作の紹介を企画したのは、原作者・松本清張の生誕111周年となる12月21日に際しての鑑賞を勧める”段取り”のはずでした。しかし入稿前の最後の確認にと、先ほど改めて清張の誕生日のことを調べてみれば、なんと「1909年12月21日とされるが、2月12日ともされる。」とある。いわく清張の両親が出生地の広島で届出を出し損ねたまま、転居先の小倉で約1年遅れで提出した可能性があり、真相はまだ未解明とのこと。
ここにもまたひとつ、人が人であるがゆえの“不測の事態”と、ミステリー。

筆者もまた、完璧な仕事の完遂にはまだ遠いようです。

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映画ライター
三好剛平
1983年福岡生まれの文化ホリック社会人。三声舎 代表。企業や自治体の事業・広報にまつわる企画ディレクションをはじめ、映画や美術など文化系プロジェクトの企画運営を多数手がける。LOVEFMラジオ「明治産業presents: Our Culture, Our View」製作企画・出演。その他メディア出演や司会、コラム執筆も。

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