【福岡の経済・ビジネス事情】

ポストコロナ時代へ舵を切った、 日本、そして福岡のホテル・旅館事情

6月21日に『ザ・リッツ・カールトン福岡』がオープンし、8月4日には『ザ ロイヤルパーク キャンバス 福岡中洲』が営業を開始します。コロナ禍で大打撃を受けたホテル・旅館業界は、いま新たなステージへ向けて動き始めました。これまでの歩みも踏まえながら、今後の展望を見ていきましょう。

いま、日本にあるホテル・旅館の施設数をご存じですか?

厚生労働省が2023年1月26日に発表した『令和3年度衛生行政報告例の概況』によると、2022年3月末時点における日本のホテル・旅館は、5万523施設だった。
昨今のコロナ禍において、ホテル・旅館業界は大打撃を被り、前年度比で4割減の売上規模となった。

 

いま、ホテル・旅館業界は回復基調に向けて動き出している。
観光庁が2023年2月28日に発表した『宿泊旅行統計調査(2022年速報値)』によると、2022年における全国の延べ宿泊者数は前年比42.9%増の4億5,397万人泊だった。

 

この数字は、コロナ禍前の2019年比で8割弱の水準まで回復している。
同調査によると、日本人宿泊客は順調に回復している半面、水際対策でほぼ皆無となった外国人延べ宿泊者数は急増しているものの、本格的な回復はこれからだ。

 

 

出典)厚生労働省『令和3年度衛生行政報告例の概況』

 

 

出典)観光庁『宿泊旅行統計調査(令和4年:速報値)』


福岡市のホテル・旅館は最近6年で施設2.8倍、客室1.6倍

 

 

 

福岡市のホテル・旅館の施設数については、『福岡市の観光・MICE2022年版(福岡市観光統計)』によると、2021年12月末で549施設となっている。

福岡市のホテル・旅館は、2016年以降の6年間で大幅に急増している。

2021年には2016年比で施設数は2.79倍、客室数は1.55倍、定員数で1.94倍に増えた。

 

なぜ、福岡市内のホテル・旅館の施設数・客室数・定員数が急増しているのか?
この点について、ホテル業界を研究して地元のホテル事情にも詳しい国際貢献専門大学校の鎌矢和人氏は、次のように解説する。

 

「新型コロナウイルス発生前の福岡市においては、インバウンドツーリズムの飛躍的な成長によってホテル不足に拍車が掛かり、建設ラッシュに沸きました。2014年~2019年における福岡市のホテル客室稼働率は、5年連続 80%前後という高稼働率でした。2017年~2020年に増加した福岡市のホテル・旅館の客室数の大半は、東アジアからのインバウンドツーリズムの需要を見込んだ都市型ビジネスホテルが中心になっています」

 

国際貢献専門大学校の鎌矢和人氏

 

ホテル・旅館の4割超が増収、今年度市場は3兆円台回復へ

大手企業調査会社の帝国データバンクは2022年10月26日、全国のホテル・旅館業のうち直近で明らかになった約800社の業績を基に2022年度のホテル・旅館業の売上規模が前年同期比で1割増の3兆円台に回復するとの予想を発表した。
同調査によると、4割超が増収基調であり、減収はコロナ禍前の2019年度以来3年ぶりに1割を下回っていた。

 

今回の回復要因について、同社では、「今年度に入って県民割やブロック割などの自治体主導による宿泊支援で観光需要が持ち直しつつある」とみる。

2022年10月からの新型コロナウイルスの水際対策の大幅緩和に加えて、2023年1月からGo To トラベル以来となる全国旅行支援もスタート。同社では、「ホテル・旅館業界は総じて、業況悪化が底打ちし回復基調に転じている」とする。

 

 

出典)帝国データバンク『旅館・ホテル業界』 動向調査(2022年度業績見通し)

 

ホテル・旅館の歴史は1300年余、世界最古は日本にあった

画像提供:西山温泉『慶雲館』

さまざまな分野での〝世界一〟を認定する『ギネスワールドレコーズ(ギネス世界記録)』。
同記録で「世界で最も古い歴史を持つ宿」に登録されている宿泊施設は、日本一人口の少ない町である山梨県早川町にたたずむ西山温泉『慶雲館』だ。
藤原鎌足の息子である藤原真人(定恵)が、西暦705年(慶雲2年)に開湯して今日、観光旅館として営業を続ける。
屋号の慶雲は、和暦で最初の元号である大化から数えて5番目の元号だ。同湯には、武田信玄や徳川家康らも訪れている

 

一方、日本で初めてのホテルは、1860年に横浜で誕生した『横浜ホテル』だ。
前年の横浜港開港で外国人居留地が設けられたこともあり、オランダ人の元船長フフナーゲルが、日本家屋を改修してホテルとしての営業を始めた。

 

『ホテル(hotel)』の語源自体は、ラテン語の『ホスペス(hospes)』に由来する。
中世ヨーロッパで十字軍兵士や旅人向けの宿泊施設が、ホスペス(またはホスピス)と呼ばれていた。
時代が下ると、『ホスピタリス』や『ホスピターレ』という言葉が生まれた。
そして、「おもてなし」や「客人の保護」という意味合いをもつホスピタリティとなり、派生してホテルという言葉が生まれたそうだ。

 

 

なお、ホスピタリスは『病院(hospital)』の語源でもある。

つまり、昔は、ホテルも病院もホスペスという同じ施設だった。

昨今のコロナ禍でホテルを宿泊療養施設として転用したのは、ある意味で〝先祖返り〟したともいえる。

 

 

戦前、リンドバーグの来福時から始まる福岡のホテル史

『リンドバーグ通り』掲示板(福岡市東区名島1-1-24)

大西洋単独無着陸飛行に成功して「翼よ、あれがパリの灯だ!」と叫んだとされるチャールズ・リンドバーグが福岡の地に降り立ったのは、1931年9月17日のことだった。
そして、リンドバーグ夫妻は、福岡市・呉服町角に開業して日の浅い共進亭ホテルに投宿した。

 

戦時中の福岡大空襲で呉服町一帯は焼け野原となった。
戦後、1953年に博多帝国ホテルが同地に誕生している。
1969年4月、福岡市内初の本格的な高級ホテルとして西鉄グランドホテルが開業した。

 

バブル経済の到来と共に福岡市内でもシティホテルの建設が本格化していく。
1989年にソラリア西鉄ホテル、ホテル日航福岡、日本初のデザイナーズホテルであるホテルイル・パラッツォが誕生した。
バブル崩壊後も福岡市は、〝日本で一番元気な都市〟といわれていた。
事実、1992年博多エクセルホテル東急、1995年シーホークホテル&リゾート(現ヒルトン福岡シーホークホテル)、1996年グランドハイアット福岡、1999年ホテルオークラ福岡が相次いで開業している。

 

 

21世紀を迎えると、福岡市内のホテルでは供給過多の状況が続いた。

その後2011年の九州新幹線鹿児島ルートの全線開業があり、さらに訪日外国人の急増もあってホテルの建設ラッシュが起きた。

 

 

福岡市はハイクオリティホテル建設促進制度で牽引を図る

ラグビーワールドカップ、東京オリンピック、世界水泳……。
2019年以降に国際的なスポーツイベントの開催を控えた当時、福岡市に質の高いホテルの供給が不十分だという見方もあった。
このため、福岡市では2016年12月、ハイクオリティホテル建設促進制度』を独自に創設した。

 

同制度の対象は2028年末までに完成する施設であり、下記の3要件を満たすことを求めた。
◎一定 (1/4) 以上のゆとりある客室(30㎡超)確保
◎ハイクオリティなホテル施設
◎魅力あるデザイン性に優れたホテル

 

制度としてのインセンティブは、従来の評価に加えて最大50%の容積率を緩和する。
都心部機能更新型地区計画制度を活用する場合、さらに50%の緩和も可能だ。

 

福岡市のハイクオリティホテル建設促進制度の第1号として2019年9月22日に開業したのが、『都ホテル博多』だ。
博多駅筑紫口から徒歩1分の立地にある同ホテルは、緑豊かな外観に屋上から白糸の滝をイメージした高さ8メートルの人工滝が流れ落ちる。全室30平方メートル超で、内装や設備に福岡・博多の伝統を取り入れ、博多織をモチーフにした絨毯や小石原焼の湯飲みなどを備える。

 

2019 年9月25日、JR九州ホテルズの宿泊型ホテルのとして最上位ブランドである『THE BLOSSOM』として誕生したのが、『THE BLOSSOM HAKATA Premier』だ。
福岡市のハイクオリティホテル建設促進制度の認定を受けている同ホテルでは、客室の半数以上が 30 平方メートル超となっている。和のテイストを取り入れた大浴場をはじめ、日本や博多の文化を感じる上質な空間デザインを特徴とする。

 

 

天神ビッグバンの〝西のゲート〟となる福岡大名ガーデンシティにそびえ建つ高層タワーに入居するのが『ザ・リッツ・カールトン福岡』だ。

九州初進出の同ホテルも福岡市のハイクオリティホテル建設促進制度の認定を受けており、高層タワーの19階~23階に全室50平方メートル超のゲストルーム147室とスイートルーム20室を設ける。

博多織からのインスピレーションで糸を紡ぎ “織る “という発想でホテル全体を繋ぐストーリーを形づくって6月21日にオープンする。

 

 

引用:福岡市独自のハイクオリティホテル建設促進制度について【ホテル誘導イメージ】

 

 

これから考える、福岡のホテルの〝未来〟と〝可能性〟

福岡市・中洲の北部、昭和通りと那珂川に面していた明治安田生命福岡ビル跡地。
同地の14階建て複合施設内に入居する『ザ ロイヤルパーク キャンバス 福岡中洲』は、8月4日に開業する。
同ホテルはロイヤルパークホテルズのプレミアム宿泊主体型ホテルであり、ライフスタイルホテルである『キャンバス』ラインとしては、九州で初めてのオープンとなる。

 

今年、ザ・リッツ・カールトン福岡、ザ ロイヤルパーク キャンバス福岡中洲という九州初出店のホテルが福岡の地に登場する。
今後、都心開発が続く福岡市では、福岡ビルなどの跡地での福ビル街区建替プロジェクト、イムズ跡地での(仮称)天神 1-7 計画、博多駅線路上空での博多駅空中都市プロジェクトでは、オフィスビルにホテルが入居する〝複合型〟も相次いで誕生していく。

 

一連の動向について、鎌矢氏は次のような見解を示す。
「ホテルは、もともと施設と運営が一緒という〝所有直営方式〟でした。その後、施設の所有・運営・経営を分けて、ホテル運営を専門会社に委託するリスク分散型が登場してきました。そうすることにより、得意な役割を分担することで、質の高いパフォーマンスが期待できます」「昨今の都心部にみられるオフィスビルとホテルとの〝複合型〟は、リスク分散型の一つの形態だと考えています」

 

新型コロナウイルス感染症の出現は、各産業界に大打撃を与える一方、オンライン化やリモート化などの促進で人々の働き方も生活そのものにも大きな変化をもたらした。

そして、ビジネススタイル自体においても新たな潮流が起きつつある。

こうした状況下、〝ホテル〟という施設・場や機能・役割などについても戦略的に見直していくことで新たな可能性や付加価値を見出せるものと考えられる。

 

 

福岡市における主な新規開業ホテルおよび計画中ホテル

参照サイト

厚生労働省『令和3年度衛生行政報告例の概況』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/21/dl/gaikyo.pdf
観光庁『宿泊旅行統計調査(令和4年・年間値:速報値) 』
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001588924.pdf
福岡市の観光・MICE 2022年版(福岡市観光統計)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/96122/1/kankoutoukei2022.pdf?20220721162621
福岡市の観光・MICE 2018年版(平成28年福岡市観光統計)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/57115/1/fukuokashikankoutoukeihonpen.pdf?20180410133259
慶雲館について
https://www.keiunkan.co.jp/overview/
世界最古のホテル(旅館)は日本にある!業界人は必見の世界と国内のホテルの歴史
https://www.teramoto.co.jp/columns/11552/
インバウンドツーリズムとホテルの今後-福岡市のホテルを中心に-
https://urc.or.jp/wp-content/uploads/2017/03/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%BB%8A%E5%BE%8C.pdf
ホテル・旅館の4割超が「増収」へ 2022年度市場は3兆円台回復予想、「観光需要回復」に期待感高まるも、人手不足など課題『ホテル・旅館業界』動向調査(2022年度業績見通し)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000555.000043465.html
三井住友トラスト不動産・このまちアーカイブス「福岡・博多」
https://smtrc.jp/town-archives/city/fukuoka/p06.html
にしてつWebミュージアム「大名2丁目6番地の変遷」
https://www.nnr.co.jp/museum/daimyo2023/index.html
福岡市独⾃の 『ハイクオリティホテル建設促進制度』を創設します!
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/66394/1/h28.12high_quality_hotel.pdf?20191008171144
ザ・リッツ・カールトン福岡 2023年6月21日開業決定~ザ・リッツ・カールトンが九州初上陸~
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2023/20230228/

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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