75歳以上のばあちゃんたちに「生きがい」と「収入」を与えることを目的に事業を展開する会社が、福岡県うきは市にあります。会社名は「うきはの宝」。代表取締役を務める大熊充さん(みっちゃん)は、きむ兄が福岡に移住してから最も仲良くなった「マブダチ」なんです。
うきはの宝株式会社代表・大熊充さん。「みっちゃん」の愛称で親しまれている
今回はみっちゃんがうきはの宝を立ち上げたキッカケ、そして2021年春に行った「ばあちゃん食堂の万能まぶし」のクラウドファンディングで、430万円以上の支援を集めた成功の秘訣など、ビジネスにつながる話をたくさんうかがいます。
地方の田舎が「じいちゃん・ばあちゃんばかりになる」ことに感じた危機感
テレビやラジオをはじめ、様々なメディアで紹介されているうきはの宝。みっちゃんはなぜ、この会社を立ち上げようと思ったのでしょうか?
みっちゃん
孤立の問題は僕がボランティアで足を運べばいいけど、お金を配るのはさすがにできない。それなら、ばあちゃんたちと一緒に稼げる会社を作ればいいと思い、うきはの宝を立ち上げました。
僕が住んでいるうきは市は、人口の高齢化率が全国平均より高いんです。約20年後に、うきはの人口が半分近くになるという推測も出ています。それを聞いただけで、僕はぞっとしました。介護だけでなく、地域の活動も老人が老人を支える構造になっていく。
地域の集まりや会議でも老人が老人のことを話し合っているんです。こうした現実を見ると、若い人がうきはから離れてしまうのは当然だなと。だから、ばあちゃんたちを軸にして若い人たちも一緒に働ける仕組みを作ろうと思ったんです。
現場の声から生まれたアイデアを商品化!ばあちゃん食堂の「万能まぶし」
うきはの宝のメイン事業は「ばあちゃん食堂」。どのようにビジネスモデルを構築していったのでしょうか?
みっちゃん
しかし、ばあちゃん食堂のオープン直前(2020年春)に1回目の緊急事態宣言が出てしまい、食堂が開けない事態になってしまいました。食堂でばあちゃんとお客さんとの接点を作り、食堂を知ってもらうことで、ばあちゃんたちが作る新商品の通信販売につなげていこうと思っていたので、さてどうしたものかと。次の施策を考えないといけませんでした。
万能まぶしが生まれたキッカケは、食堂で働く予定だったばあちゃんたちのアイデアでした。
みっちゃん
そのことを知ったほかのばあちゃんが後日、「出汁を取った後のカツオ節で作ってみたよ」と、佃煮とも取れるようなふりかけを持って来てくれたんです。実際に食べてみると、これが美味しかったんですよ。ばあちゃんたちの「もったいない精神」から生まれる商品は面白いなと思い、本格的に商品開発に乗り出しました。
先輩起業家の後押しでクラウドファンディングに挑戦
このときはまだ、作った商品をクラファンで展開するつもりなかったというみっちゃん。しかし、ある人物の猛烈な応援と後押しによって、ばあちゃんたちの商品が日の目を見ることになります。
みっちゃん
九州パンケーキの販売など様々な事業を展開する村岡さん
そこからきちんと市場に販売するため、試行錯誤の日々が続きました。最初にばあちゃんが持ってきたふりかけは水分を多く含んでいるので消費期限が短く、商品として成り立たちません。そこで、弊社の商品開発メンバーたちと一緒に商品をブラッシュアップしていきました。
試行錯誤の末、最終的にふりかけを乾燥させて粉末状にし、どんな料理にでも合う無添加・国産素材の万能調味料として完成させました。商品名も「ふりかけ」でなく、どんな料理にもまぶせる「万能まぶし」という名称として発表することにしました。村岡さんの後押しがなければ、このような商品にはならなかったと思います。
万能まぶしのMakuakeページ
「万能まぶし」多くの人に支持されたワケとは?
2021年春にMakuakeで発表された「ばあちゃん食堂の万能まぶし」は573人のサポーター、応援購入総額430万円以上の支援が集まりました。なぜここまで圧倒的支援が生まれたのでしょうか。みっちゃんはこのように分析します。
みっちゃん
「年老いたばあちゃんたちを働かせるなんて」という意見もあります。しかし、体が動くうちは働きたいというばあちゃんも多いですし、なにより職場に行けば、ほかのばあちゃんもいるので、ばあちゃんたちの孤立化も防げます。さらには働くことで収入を得られます。いいことづくしだと思いますよ。
単純に「ばあちゃんたちが作った万能まぶしを食べてみたい」という消費者が多かったのもあると思います。消費者にはそれぞれ「自分のばあちゃん像」があって、懐かしさというかノスタルジックな気分にひたれる。今回、Makuakeで購入してくださった方の年齢層は若い方から高齢者の方で幅広いんです。みなさん、それぞれのばあちゃん像を思い浮かべながら万能まぶしを食べてくださったと思います。私たちも商品ストーリーを作りましたが、購入してくださる方それぞれがストーリーを持っていて、それぞれのばあちゃんを勝手に思い出しているんですね。
広報・宣伝活動も、度が過ぎるほど力を入れました。講演や取材依頼もできるだけ受けましたし、TwitterやFacebookなどのSNSにも息をするようにたくさん投稿しました。特にTwitterは「いつ仕事しているの!?」とツッコまれるほど、朝から晩まで投稿していましたね笑。みなさんの目に見える機会をとにかく多くしようと思ったんです。
フォロワー1万を超えるみっちゃんのTwitter。発信力は抜群
▶大熊充さんのTwitterはこちら
働くことが生き甲斐に!ばあちゃんたちがイキイキ働いている現場
Makuakeでの応援購入分に加え、自社の通販サイトで予約購入も進めている万能まぶし。これだけ商品が売れると、ばあちゃんたちが忙しく働く様子が目に浮かびますが、ばあちゃんたちにはなにか変化があったのでしょうか。
みっちゃん
そんなばあちゃんたちに食堂で働いてもらい、お客さんと会話してくれればいいけど、コロナ感染予防の観点からそれは難しい。だけど、いまは感染対策をしながら、万能まぶしをはじめとした加工品をばあちゃん同士で作る。手を動かしながら楽しく会話をするので、「来るのが楽しみ。それで賃金がもらえるなんて最高だよ」と言ってくれるばあちゃんもいます。
足の状態が良くなくて、杖をついてくるばあちゃんもいます。でも、仕事をするときは杖を置いて、立って仕事をしているんです。足の痛みもあると思うけど、痛みよりも目の前にある仕事を優先して、そのばあちゃんはだんだんと足取りが軽くなっているんです。やることがあるのは、幸せなことだと思いましたね。
クラウドファンディング成功のコツは「良い商品作り」
今回の記事を読んで「自分もクラファンに挑戦してみようかな…」と思ったフクリパ読者の方もいると思います。クラファンに挑戦する上で押さえておくべきポイントを、みっちゃんに聞きました。
みっちゃん
いい商品ができたら、商品の魅力を伝える写真や、商品への思いを込めた熱量の高い文章を載せていきます。相手に「伝える」のではなく、「伝わる」写真や文章を載せることが大切です。これは主観的なチェックでは判断できないことが殆どなので、客観的な第三者目線がチェックしてもらうといいと思います。
商品が良ければ、新たな取引先に商品を卸すことも可能ですし、問い合わせもたくさん来て新しい販路開拓の機会になります。だから、まずは消費者に喜んでもらえる商品作りを心がけてください。
私たちもたくさんの商品を作ってきましたが、商品化しているのはほんの一部です。ものすごいスピードでトライ&エラーを繰り返しています。
テストマーケティングとして商品を売ることができる、クラファンのメリット
ばあちゃんたちの生きがいと収入を生むためにクラファンという選択肢を選んだみっちゃん。今後もクラファンを利用するのか、展望を聞いてみました。
みっちゃん
ジーバースイーツはフルーツ王国うきは市ならではのスイーツのほか、酒粕や赤じそを使ったジェラートも展開していく予定です。あくまでもコンセプトは「ばあちゃんのアイデアから生まれた商品」。これは大切にしていきたいですね。
僕たちは2ヶ月に1回はMakuakeで商品を発表しようと思っていて、すでに数回分のプロジェクトの商品開発は終わっています。なぜそこまでクラファンを使うかというと、テストマーケティングとして商品を売ることができるから。商品を作って生産ラインにのせる前に商品の評価を知れるのは、経営判断としても良いことだと思っています。
ばあちゃんたちの働く場を全国に作っていく!
最後にうきはの宝の代表としての、今後の展望を聞きました。
みっちゃん
会社を立ち上げて2年ほどですが、事業の成長速度も速くなってきました。商品を製造する機械を導入できたし、働くばあちゃんたちも増えてきました。このビジネスモデルは全国に展開できると思っているので、全国にばあちゃん食堂を展開して、ばあちゃんたちの働く場をもっと増やしていきます。
全国に広がれ!九州の魅力的な商品
みっちゃんにお話を聞いてみると、クラファンには成功するべき秘訣やコツがあることを改めて感じました。きむ兄も実はクラファンのテキストを書いたりレイアウトのアドバイスをしたりしているので、共感する部分もたくさんありました。
九州には魅力的な食べ物や素材がたくさんあります。それらを活かして新しい商品を作り、クラファンで発表して応援してもらう。九州のいいモノが全国のみなさんにもっと広まればいいなと切に願うきむ兄でございます。
2021年8月、友人女性とともに宮崎旅行をしたみっちゃんときむ兄