川端商店街

歴史から生まれる「福岡」の魅力

福岡を代表する川端通商店街が大盛況の理由

「福岡の商店街といえば、川端と新天町!」地元・福岡人ならそう思い浮かべる人も多いでしょう。特に川端通商店街は、博多の祭りの舞台でもあり、観光スポットとしてもなじみの深い商店街。実は、賑わいを創出するべく、さまざまなことにトライしているのです。今回はその成功の裏にある想いと取組をレポートします。

博多を代表する老舗の商店街「川端通商店街」とは

福岡市地下鉄・中洲川端駅の5番出口を出ると、仏壇店に呉服店、博多人形店や博多提灯店など昔ながらの日本を感じさせる老舗、洋服や靴などのショップ、飲食店など140店舗が軒を連ねる「川端通商店街」に降り立ちます。

川端中央商店街と上川端商店街の2つの商店街からなり、140年以上の歴史がある老舗の商店街は、福岡市民にとって、歴史ある「博多」の情緒を今でも感じることができる400mのストリート

老舗があるだけでなく、博多の祭や風物詩の多くが、この商店街で展開されるのです。
ちなみに、この「川端通商店街」はよく「川端商店街」とも言われますが、正確には「通り」が入った「川端通商店街」が正式名称です。博多の方々はよく「中洲川端のあそこ」や「川端商店街の」「川端の」「中洲の」などと呼んでいますので実は正式名称を知る人の方が少ないかもしれません。2つの商店街の名前から想像すると「川端商店街」となってしまいそうですが、正しくは「川端通商店街(かわばたどおりしょうてんがい)」なんです。


博多座がある明治通り側から商店街へ。大きなバナーが目をひきます


櫛田神社、キャナルシティ博多側から商店街へ

福岡市は那珂川を挟んで東を「商人の町・博多」、西を「武士の町・福岡」と表現し、双子都市として発展してきました。

12世紀ころ、博多は中国 (日宋) 貿易の中心となり、商店街に隣接する櫛田神社界隈は日本で最古のチャイナタウンがあり、隆盛を誇ったそう。

中世博多は当時の世界の中でも、富が集中した場所だったのです。

博多駅から中洲川端エリアにかけて寺社仏閣が多いのは、中国から戻った僧がまず博多で寺社を建立し、中国出身者も含めた博多の商人が物心両面でサポートしたという背景もあるのです。


5月は昔の博多どんたくの写真がバナーに掲示されていました


6月4日からは博多祗園山笠のバナーがズラリ。100年以上前のシーンも飾られています

私にとっても (多くの福岡市民にとっても)、川端通商店街は商人のまち・「博多」のまさにゲートウェーといえる場所なのです。

5月の「博多どんたく港まつり」ステージイベントも開催され、通常は7月1日から15日まで飾られる博多祇園山笠の飾り山は、商店街中ほどのぜんざい広場で一年中観ることができます。


ぜんざい広場が営業していないときでも観ることができる飾り山

六月博多座大歌舞伎の前の5月末には、歌舞伎役者の「船乗り込み」も開催され、年末の大売り出し「せいもん払い」で、一年の終わりを感じるなど、常に博多の四季を感じられる商店街なのです。


2019年5月末に開催された「船乗り込み」。中央に見えるのがぜんざい広場

個人的にも外国人旅行者向けの施策に関して調査に関わったので、大変思い入れがあります。

2016年12月に商店街の中で通行量を実施すると、1日平均1万2千人 (そのうち外国人が約1割)!その頃から引き続き、コロナ禍の前までは、毎日1万人以上が行き交い、賑わいをみせていました。

これだけの集客を誇る要因としては、中洲川端駅と大規模商業施設・キャナルシティ博多、櫛田神社を結ぶ通り道であることも挙げられます。

そんな立地、アクセスの良さだけでは、常に集客ができるはずはありません。その秘密はなんでしょうか。

常に賑わいがある「川端通商店街」の秘訣はライバル関係にある?

先ほど、川端中央商店街と上川端商店街の2つの商店街が一つになって「川端通商店街を形成している」という紹介をしましたが、この2つの商店街地区は、博多祇園山笠では別の流 (ながれ) に属し、真剣に競い合うライバルでもあります。

近年では各々の組合で取組をすることも多かったそうですが、2010年に11月の恒例行事「せいもん払い」で両商店街共通でくじを実施したことから、協力がスタート。
 
当時から今まで若手のリーダーとして支えてきた川端中央商店街振興組合の理事・吉川和毅さんと上川端商店街振興組合専務理事・開発部長の渡辺淳一郎さんに、これまでの果敢な挑戦についておききしました。


川端中央商店街の吉川和毅さん。「みどりや仏壇店」代表

吉川さん

私たちの商店街は、福岡市を中心に、活性化への協力、サポート、補助金や助成金の活用など提案をしてくれます。

ありがたいことに、商店街側では反対する方はほとんどいなくて、『賑わうならやっていいよ』『自分も出店など参加するよ』と言ってくれます。

 

上川端商店街振興組合専務理事・開発部長の渡辺淳一郎さん 「子供服jay’s」代表

渡辺さん

商店街をあげての取組、施策のときは説明書をもって、一軒一軒説明にまわります。そうしないと取組の主旨が伝わりにくいし、協力も得られにくい。

(上川端商店街は)軒数も多くて大変ですが、『人が集まるきっかけづくりをして、賑わいがあれば、店舗のやりがいも増えて、売上もあがってくる』という好循環が生まれます。

ひいては自分の店舗にも返ってきますので、まずは賑わいのきっかけ作りをがんばってやっています。

2012年10月に開催された第32回国際泌尿器科学会総会(SIU)のアフターコンベンションパーティー・「SIUナイト」は、この商店街を中心に縁日のような出店や各店舗が和のグルメを提供、櫛田神社や商店街でステージイベントもあり、全国的に注目を集めました。

Q:93カ国約2800名、そのうち海外1700名の研究者が、博多の魅力、地元の人とのふれあいを体験し、満足度も非常に高いものに。決定や準備など大変ではなかったですか。

渡辺さん

学会のパーティーについては、賑わいを創出でき、しかも資金を準備する必要はないので、『場所を貸している』という感覚ですね。道路使用許可申請は商店街から行いますが、そんなに大変なことはないかな。

Q:2015年からは、ソフトバンクホークスのパブリックビューイングを商店街で行いました。

渡辺さん

これは不定期に行っていた飲み会の席で『なんかやろうよ』ということでアイデアが持ち上がりました。いいと思ったことはどんどんやっていこうという姿勢です。

私(帆足)は、2016年から2017年にかけてお二人に協力いただき、通行量調査、店舗のアンケート、外国人旅行者アンケート調査を実施。
2018年に①福岡市の無料無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」の整備、②日本語、英語・韓国語・繁体字・簡体字のホームページ、③多言語での案内看板4台の設置、④各国の好みに合わせた英語・韓国語・繁体字・簡体字MAP入の冊子の4つの施策の制作に関わらせていただきました。

Q:外国人旅行者向け施策も一気にすすめられました。

渡辺さん


2018年設置当時。看板についたQRコードからWi-Fi、ホームページへとぶように設定

コロナ前は、本当に外国人旅行者も多く行き来し、売上の多くを占めている店もありました。国や県、市の補助金で大半をまかなうことができ、いっきに整備をすすめました。

このときから2つの商店街の呼称を『川端通商店街』として、ホームページやガイドマップに掲載し、わかりやすく統一。4つある看板の出し入れなどは近くの店舗の協力を得て毎日行っています。
川端通商店街ホームページ 


ガイドマップは適宜情報内容を更新。4つの案内看板は近くのエリアを紹介

Q:2017年からは「川端夜祭」をスタート。商店街全体が縁日のように賑わいました。

吉川さん

第1回は、2017年の11月、福岡での日本天文学会の研究者のアフターパーティーと重ねて開催しました。福岡市活性化事業として補助金が3年出るようになっていましたので、テーブルや備品、バナーなどを準備して、後にできるだけ手出ししなくていいように。

コロナ前まで半年に1回程度、5回まで開催しましたね。営業時間を延長し、ステージイベントや各店舗からのフード、商店街だけではなくて、一般から募集した雑貨やアクセサリー、古本などのマルシェも人気でした。

Q:今年2021年3月からプレミアム付商品券「博多よかぺい」を販売されていますね。キャッシュレス、そして誘客促進の取組として手応えはいかがですか。

渡辺さん

本商店街には、さきほどお話したように実証実験や商店街の感染症対策やテイクアウト、デリバリーなどの支援事業の話がよく持ち込まれています。

プレミアム付商品券の販売は、福岡県、福岡市が支援する「地域商品券による地域経済活性化支援事業」を通じた取り組みです。

我々は店舗への呼びかけを行って、事務局が説明、契約をしていきます。商店街周辺の店舗も含めて、現在60店舗が加盟、思ったより反応がよかったですね。

5,000円払うと6,000円分購入できるお得な商品券。差額は福岡県と福岡市からあわせて20%の補助金が出ていますので、それでまかなっています。※利用は2021年6月30日まで

今回は最初のキャッシュレスの商品券ですが、今後もこういう取組は増えてくると思います。

 

これからの川端通商店街

実にさまざまな取組を率先してやってこられたお二人に、商店街の今後についておききしました。

渡辺さん

自分たちなりに考えて、汗をかいて実施していますが、前にも言ったように、商店街全体にお客様がこないと始まらないし、一つ一つの店があっての商店街。

まちがひとつになって盛り上がることができるように、現場の声もききながら、若い人も集まるような仕掛けをしていきたいですね。山笠のように、夜祭とかイベントやキャンペーンもひとつになって盛り上がれたらと思います。

確かに賑わいはあるように見えますが、ここで次の手を打っておかないと先がないのではないかという危機感も持っています。商店街に関わる7割くらいの方を味方にして、進んでいきたいですね。


ユニークな博多土産も揃う松田ネーム刺繍店

吉川さん

最近は、飲食店の出店が多いですが、物販の店も増えてほしい。そして、ナショナルチェーンの店舗が集まりすぎると大型の商業施設の店舗となんら変わらなくなってくるので、この商店街ならではの魅力をもっと発信していきたいですね。
 
商店街や他地域との連携も面白いと考えています。「博多よかぺい」は、当初「川端よかぺい」とのネーミングも考えていましたが、中洲や御供所地区、あるいは吉塚市場と一緒にするなど博多エリア全域で実施して、地域通貨みたいになるといいなとか。

福岡市東区の箱崎商店街と「対決しよう」とのアイデアも盛り上がりました。対決でなくても、例えば今週は川端通商店街でイベントがありますよ、翌週は別の商店街で◯◯がありますなど福岡市全体でもりあがっていきたい。
 
福岡市に提案したのは、川端夜祭のようなイベントに出店したい事業者を、福岡市がまとめて募集・受付して、イベントをする商店街に紹介すると全体で活性化するのではないでしょうか。
 
2024年には、福岡市地下鉄の延伸で、福岡市の南西部から中洲川端駅を通過しなくても博多駅に行くことができるようになります。

商店街の人通りの変化もあると思いますが、この商店街を目指してきてくれるなにかをハード、ソフトで備えていこうと考えています。

 

【取材を終えて】

専門店も多い川端通商店街では、あらゆる業種の店舗が揃っていて、商品やメニューの製造過程や背景をきくなど、まるで「まちあるきツアー」の感覚で、散策できるのが魅力だと改めて感じました。

そのうえ川端通商店街の根底には、博多祇園山笠で培われた連帯が根付いています。

「川端夜祭のときは、(商店街とは関係ない) 自分の山笠の流(ながれ) の若手がテーブルを出してくれるんですよ」と話されたときに、川端通商店街ならではの強みがあると確信しました。
 
福岡市や企業からのこの商店街への新しいツールや補助金、実証実験などの提案は、多岐にわたり、件数も多いそう。その内容を理解し、意思決定を調整、申請などの手続きを整えるだけでも大変で、さらに商店街全体への周知や事業の実施に膨大な時間と労力がかかっているはず。

それなのに「賑わいを作るために」「まちを盛り上げるために」と楽しそうに東奔西走しているお二人をみるにつけ、アイデアマンで、みなで盛り上がろうとする博多商人のDNAを感じます。
 
2020年からある実証実験により、AIで通行している人の性別や年齢を読み取り、分析できるそうです。熱い感性にマーケティングを重ねて、さらに人々をひきつける魅力的なまちに。

川端通商店街は今後も発展を続けることでしょう。次の機会にじっくり楽しんでみてください。
 
■川端通商店街 http://kawabatadori.com/
アクセス:福岡市営地下鉄「中洲川端駅」徒歩0分

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編集者
帆足 千恵
福岡のタウン情報誌の編集者として1990年代から海外30カ国、60エリアを取材し、世界の旅行情報を発信。2001年より外国人旅行者向けの編集制作や企画、調査、マーケティング、プロモーションを行い、九州インバウンドのパイオニア的な存在。2020年4月 海外旅行情報サイトを公開予定。

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