福岡本を斬る!3冊の書籍から見えてくる福岡の底力とこれから

5月20日に人口が160万人を突破した福岡市。人口増加率の高まりは、街の盛り上がりとしても確かに感じられます。さらにはこの数年、書籍や雑誌で相次いで「福岡本」が発行されるというフィーバーっぷり!前回のコラムで鮮烈なフクリパデビューを果たしてくれたコラムニスト・コメンテーターの林田暢明さんに、そんな「福岡本」について存分に書き綴って頂きました!

はじめに遺書的なものを

 コロナ自粛で自宅に引きこもってしまったまま「嗚呼ッ、いつの間に過ぎ去ったのだ、、、」と、仮に天寿を全うしたとしても、人生のうち80回ほどしか味わえないであろう春のうちの1回を無為の中に失ってしまったことを嘆いていた或る日、例のごとく、偉い人からメッセージが送られてきたのです。

「近年に刊行された福岡本3冊を、林田視点でバッサリ斬ってみてください!」

 この怖ろしく軽薄に綴られたメッセージの裏に潜む闇の魔力にお気づきだろうか、ポッター君。福岡本を3冊と言われたときに、すぐにタイトルが頭の中に思い浮かんだぼくは、その名を呼ぶのも憚られるという、地方創生界隈では闇の帝王と渾名される「あの人」の本が含まれていることに気づき、自分の運命の儚さに震えたのです。
 
ということでご要望のとおりタイトルは「福岡本を斬る!」と勇ましくしちゃっておりますが、この文章が手離れしたときに斬られて博多湾に浮かんでいるのは、ぼくの方かもしれませんので、先にご挨拶しておきたいと思います。
 
 これまでこのロクでもない人間を育んでくださった家族、両親、友人として接していただいた多くの皆様方のご厚情に感謝申し上げます。とても楽しい人生でした。サヨウナラ。

次に書評的なものを

 さて、遺書的なものも書いておきましたし、ここからはいつもどおり気楽に文章を綴っていきたいと思います。

 正直いってね、福岡本について斬る、なんてぇ文章はオラァ書きたくなかったんだよ、てやんでコンチキショー。というのも、いまや福岡のプレゼンスが上がり、日本中の皆さんが「福岡ってすごいな。勢いあるな」と、ある種、羨望の眼差しで見ているこの都市について、何を隠そうぼくはそんなに楽観的な見方をしていなかったからなのであります。

前提として国家観の話をしておきたいのですが、これまで、少なくとも20世紀までは、ぼくは世界中で最もドメスティックな国家はアメリカだったと考えています。なぜなら、アメリカ人はアメリカしか見てこなかったからです。そして世界で二番目にドメスティックな国家は日本で、日本人もまたアメリカ方面を注視し続けてきたわけです。良くも悪くも、音楽やスポーツなど、その影響は文化面に止まらず、政治的、経済的事象に関しても、日本はアメリカを模してきたということですね。実はこれと同じ構造が国内にもあって、東京しか見ていない東京人と、東京しか見ていない地方、という構図で、日本は全国津々浦々リトルトーキョーと化していくわけです。

けれども福岡はちょっと違ったんですね。福岡の人は福岡しか見ていなかった。ぼくが2005年に福岡市内で初めて起業したときに、「この街はなんてドメスティックなんだ!」と強烈に感じたのを覚えています。あんまり書くと市民の方にも石を投げられそうなのでこのあたりで止めておきますが、企画が持ち込まれた当初は、福岡本ってどうせ全部、福岡礼賛本なんでしょう?という印象でした。

 そんな斜め上から斬る気満々のぼくが、3冊それぞれを読んでみて、改めて福岡のポテンシャルに気付かされた部分、また、やっぱりここが足りないよね、と感じた部分を偉そうに纏めてシェアしていきたいと思います。

① 木下 斉(2018)『福岡市が地方最強の都市になった理由』PHP研究所


木下 斉『福岡市が地方最強の都市になった理由』PHP研究所 刊 

 ちなみに3冊を取り上げる順番は発行年順としていますので、それ以外に他意はないことを先に記しておきます。まずは、地方創生界隈のヴォルデモート卿、「狂犬」の異名を取る木下 斉 氏の著作。

 実は3人の著者の中で、ぼくは木下氏と最も交流が深いのですが、その出会いは数年前に遡ります。日本におけるNPOの雄、「育て上げネット」の工藤 啓 理事長のお誘いで、ある少年院を視察に行ったときに木下氏も参加されていたんですね。そのときに、工藤氏がこう言ったんですね。
 
 「この中で、社会的に大問題を起こす可能性が一番高いのはAさん。二番が木下くん。三番目が林田くんだね」
 
 すごい他己紹介ですよね。もう信じられない。そして実際、この視察の数ヶ月後に、誰もが知る有名人だったAさんはあるスキャンダルが発覚して、連日、メディアに取り上げられ社会的に封じ込められていったのを見て、ぼくは戦慄しました。
 
 問題児序列3位のぼくとしては、本当に、心の底から「木下くん、がんばれ!問題起こすなよ」と応援しています。
 
 さて、内容についてですが、この書籍が一番、特徴的だったんですけれども、それは実はこの本が「福岡本」ではなかったということです。全体としては、都市経営に関する長期競争戦略を題材に、福岡市をケーススタディとして、これから都市が進んでいくべき方向性を本質を浮き上がらせているという点において、噛みつかれるのが怖いというわけではなく(怖いけど)素直に感服しました。
 
 他の書籍の中で「福岡市はわずか8年で最強の都市になった」なんて書かれている箇所もあったんですけれども、そんなわけないだろうと思ってしまうんですね。ぼくもその界隈のはしくれとしていつも思うのですが、やはりそれぞれの地域は、歴史、時系列としての「縦糸」の部分と、その時代時代を結びつけている「横糸」(文化といってもいいかもしれない)が織り重なり、紡がれて、その美しい模様が浮かび上がっているわけです。
 
 そういう斬り口で見ると、この本のインプリケーションは大きく分けると二つあります。まず一つ目は、何か素晴らしいことがあって福岡が短期間で成長したわけではない、ということです。歴史という縦糸を、明治期以降から丁寧に掘り起こして、そこには渡辺 與八郎がいて、四島 一二三がいて、玄洋社があり頭山 満とその系譜の人材がいる。彼らが今の福岡の原型のようなものを創成していったときに、北九州と久留米という南北の工業地帯に福岡は挟み込まれていて、うまくプレゼンスを上げることができない。しかし、そういった「制約条件」があったからこそ、変動の時代に入ったときに、上手く次の時代にマッチしていくことができたというんですね。
 
 そして二つ目は、横糸の重要性です。隠岐の海士町で成功したからうちの町でもやろう、四国の神山町で上手くいったみたいだから取り入れよう、と政府の地方創生戦略を見ても「横展開」が一つのキーワードになっていますが、横糸だけでは織物にならないわけです。もちろん、他地域の成功体験を取り入れること自体は悪いことではないと思うんですが、その横糸は縦糸とマッチするのか、という視点が圧倒的に欠如している。木下氏は狂犬ですので「他所のマネすんじゃねぇ」と語気を強く書いていますが、その言葉の裏側にしっかり縦糸(時系列・歴史)が一本入っているところは流石です

木下 斉『福岡市が地方最強の都市になった理由』PHP研究所 刊 

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② 高島 宗一郎(2018)『福岡市を経営する』ダイヤモンド社


高島宗一郎 著 『福岡市を経営する』 ダイヤモンド社 刊

 次の一冊は、現職の福岡市長、高島 宗一郎 氏の著書です。「8年で最強の都市になった」と書いてあるのはこの本ですが、首長というのは、自治体という官僚機構のトップであると同時に、半分は政治家ですので、自らの治世をそう評価するのは理解できます。一方で、上で述べた縦糸の部分が描き切れていないので「アジアのリーダー都市になる」という主張も、
 
「なんだっけ?それ美味しいの?」
 
という観点から興味を持つ人はいても、いまいち腹落ちするところまでは至らないという点において、読み物としてやや薄い印象を受けました。全体のエフォートとして、福岡市をどう経営するかという話は半分で、残りの半分は政治家としての決意だったり、苦悩、苦労が描かれていて、地域づくりというよりは、むしろこれから政治の世界を目指す若者に手にとって欲しい一冊だと感じました。
 
 本書で重点として1つピックアップするならば、「目標とする基準を変えること(勝てない指標では戦わない:p.188)」という部分でしょう。都市の成長に関わる指標を、人口規模や経済成長であることから脱却しようという考えは、今後の都市の成長を考える上でポイントとなってきます。一時期、ブータンが国家のKGI(目標となる指標)を、GDPではなくGDH(Gross Domestic Happiness:国内総幸福量)に置いているということが持て囃された時期がありました。経済的成長を諦めざるを得ない小都市ではなく、160万人の人口を抱える福岡において、KGIの設定を変更することは、人口が増加傾向にあるアジアの諸都市と競争していく上では、実は欠かせない視点なのです。そして、福岡の経済規模ではない新しい指標は「リバブル(住みやすさ)」で「モデレート(ちょうどよい)」だと言い切っていますが、「アジアのリーダー都市」という飛び道具的概念よりも「リバブルシティ(住みやすい町)」の方が、(英単語の認知度は別として)福岡市民もそういう感覚を確実に持っていて、現実に即した政策であると言えます。

高島宗一郎 著 『福岡市を経営する』 ダイヤモンド社 刊

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③ 石丸 修平(2020)『超成長都市「福岡」の秘密』日本経済新聞出版社


『超成長都市「福岡」の秘密』石丸 修平著、日本経済新聞出版 刊

 3冊目は、FDC(福岡地域戦略推進協議会)で事務局長を務める石丸氏の著作です。本書こそが、ピュアな意味での「福岡本」と言っていいでしょう。もちろん、前述の高島市長の著作にも重複する部分はあるのですが、高島市政における重点施作である「MICE」(企業等の会議:Meeting、企業等の行う報奨・研修旅行:Incentive Travel、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 :Convention、展示会・見本市、イベント:Exhibition/Event)や「スタートアップ(起業)」など、数字としても成果が見えるものが網羅されています。
 
 こなた、木下氏が福岡経済の縦糸を重厚に明らかにしていたのに対し、かたや、本書は、福岡で今まさに起こっている現象(横糸)を幅広く展開しています。また、石丸氏の所属するFDCの特性でもあると思いますが、舞台を「福岡地域」と設定していて、福岡市のみならずその周辺の地域、大きくみると九州という括りでの連携にまで言及し、実際に活動している点において、しっかり横糸を紡いでいるという印象を抱きました。

『超成長都市「福岡」の秘密』石丸 修平著、日本経済新聞出版 刊

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3冊を統べて見えてくる福岡の底力

 それぞれ趣旨や性格が異なる3冊の書籍ですが、無理やりガッチャンこしてみると、福岡はソフトパワーを育むのに適している町なのだということがよく分かります。ハードパワー(ものづくり)中心だった時代、福岡市は他都市に遅れを取っていたと言っても過言ではないと思うんですね。それは、もともと市域が狭かったこと、鉄や石油化学など重厚長大産業の工場を作るには大きな河川がなく、必要な取水量を確保できなかったことなど、様々な制約がありました。
 
けれども、それゆえに第三次産業を中心にまさに「商都」として発展してきたし、そのことがハードパワーからソフトパワーへと経済構造が転換する中で、いち早く変貌を遂げることができるポテンシャルとなっていったわけです。
 
 また、ソフトパワーへの転換を図ろうとしたとき、それを支える人材輩出機能も備わっていました。これは明治期に九州大学を誘致した先人たちのお陰で、九州大学の存在がMICEを誘致する前提条件のようなものになっているし、「九大起業部」のようにスタートアップ施策にもつながっていきます。また、福岡大学を筆頭に、九州産業大学、西南学院大学など定員がボリューミーな大学が揃っていて、これらに通う学生たちが福岡の町にアルバイトとして労働力を供給してくれることが、「商都」福岡の産業を下支えしてきたことも見逃せません。
 
さらに住宅政策を見ても、福岡市は、もともと市域が狭かったこともあって居住地域が郊外に拡大していくということが起こりませんでした。現在、他の地方都市をみると、中心がスカスカになってしまい、郊外から都心に人を回帰させようと必死になってやっていますが、一度、広がってしまった市域は政策で一朝一夕に戻すことは困難です。ハウエバー、福岡市は最初から市域が狭くて広げられなかったので、いまや皆んなが羨む「コンパクトシティ」を体現できちゃっているのであります。
 
 こうしてみると、これでもかというほど縦糸と横糸が美しく紡ぎあいながら、福岡市が「リバブルシティ(住みやすい町)」として、かつ新しいことが起きていく町として発展しているのだということがよく分かります。

福岡が本当にグローバル都市になるには

 立ち向かっていかねばならない課題も、幾つか見えてきます。木下氏、石丸氏も触れていますが、福岡市一人勝ちの状況が続く中で、周辺都市が力を吸収され、疲弊していけばやがて福岡市の活力も削がれていくでしょう
 
例えば、地方都市の人口が少なくなりすぎて、公共施設の維持が難しくなってくると、当然、病院なども町から消えていくことになります。これはすでに起こり始めている現象ですが、持病・疾患を持つ高齢者は、より医療サービスが充実している都市部に転居していくことになります。しかし転入者に占める高齢者の割合が増加するということは、社会福祉のコストが増加して、やがては地方税などが上昇し、結果として「住みにくい」町になってしまうかもしれません。その意味では、福岡市の発展だけでなく周辺都市とのバランスも考えながら、どのラインが福岡にとっての「モデレート(ちょうど良い)」なのか、高い視座から考えておくことは必要でしょう
 
 もう一つ触れておきたいのは、冒頭に触れた「ドメスティック」についてです。これも良い方向に働いた点もあるんですね。石丸氏の著書に「東京を越えて世界とつながる(第5章)」とあるのですが、最初から東京の方を向いていなかったので、経済がグローバル化していく過程で、おそろしいほど自然に世界と向き合うことができたんだと思うんです。
 
 一方で、それが真のグローバルシティへと続く道かと言われると、そんなに簡単ではないと思うんですね。最初に「アメリカは世界で一番ドメスティックだ」と述べたんですけれども、一方で、アメリカが世界で最もグローバルな国家であるということは事実として認めざるを得ないんですね。それはなぜかというと、みんながアメリカにやってくるからです。別にラーメンやモツ鍋を食べにやってくるわけではありません。夢と希望を持ってやってくるんですね。
 
これは確か司馬遼太郎の『アメリカ素描』というエッセイ集の中に書いてあったと思うんですが、人生に失敗すると「しょうがねぇ、アメリカに行って再起を図るか」という若者が一定数、存在しているわけです。ところが、これは日本の若者に限ったことではないんですね。フランスの若者も、南アフリカの若者も、サウジアラビアの若者も、人生に失敗すると「仕方ねぇ、アメリカに行くか」と思う
 
これを司馬遼太郎は「人類は心のどこかにアメリカを持っている」と表現しました。トランプさんが無茶苦茶にしていますが、本質的には今も変わっていないと思います。
 
 日本の都市の中で、この種類の懐の深さをしっかり持っているのは、やっぱり東京しかないと思うんですね。出身国や出身地域、出身高校、出身大学で差別されることなく、実力でのし上がることができる世界。この点においては、やっぱり福岡はコンサバティブだなぁと感じているんですけれども、完全に「よそ者」である高島市長が誕生したことを見ても、少しずつ変わり始めている気がしています。
 
 これは偉い人たちだけでなく、一般の方々も含めてですが、旅行者に優しいというだけでなく、新しくコミュニティに入ってきた人たちを自分たちの一員として同質化していくというマインドへ転換できなければ、本当の意味でもアジアのリーダー都市にはなれないんじゃないのかなぁ、と期待を込めて強く思惟するのであります。

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カフェ&バー TAO オーナー、総務省地域力創造アドバイザー
林田暢明
清川にあるカフェ&バー TAOオーナー。日本銀行、政策シンクタンクを経て総務省地域力創造アドバイザー。プロジェクトマネジメント、ファシリテーションを活用した地域活性化の活動に従事し、北九州市立大学ビジネススクールで特任教授として教鞭を執る。近年はFBS「めんたいワイド(木曜レギュラー)」、TNC「CUBE」でコメンテーターを務めている。12月14日に初の著書「ねころん語」を出版。

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