【謎解き !フクリパ】

豚バラも〝やきとり〟なのはなぜ!?大都市のやきとり店率で1位の福岡の”やきとり”文化を味わおう

〝食のおいしい都市〟として評判の福岡市において、代表的な食べ物の一つである『やきとり』は鶏肉や鶏皮だけでなく、豚バラも人気です。 なぜ、福岡のやきとり店は鶏だけでなく、豚や牛、魚、野菜などバラエティー豊かなのでしょうか。今回、東京と一味違う福岡の〝おいしい〟食文化の謎に迫ります。

福岡市はやきとり店率で大都市1位、九州は〝やきとり〟アイランド

福岡市内のやきとり店は、福岡市情報サイト『Fukuoka Facts』によると521軒あり、人口10万人あたり店舗数32.3は21大都市で第1位だ。
家庭の鶏肉支出金額2万1,151円も全国の主要52都市中で第1位になっている。
福岡で鶏をよく食べるようになった起源は江戸時代までさかのぼり、福岡藩が財源確保で鶏卵生産を奨励したことが大きかった。

全国のやきとり店数は、Webサイト『都道府県別統計とランキングで見る県民性』によると1万5,325軒あり、人口10万人あたり12.14軒だ。
都道府県別で最も多いのは福岡県の27.48軒だった。
続く第2位は佐賀県24.14軒であり、第3位長崎県22.16軒、第4位宮崎県21.40軒、第5位大分県20.36軒だった。
上位5県をすべて九州各県で占めており、九州は『〝やきとり〟アイランド』の観がある。


出典)『FukuokaFacts』

東京の焼き鳥店vs.福岡・九州のやきとり店

今日、鶏肉を串に刺して焼いた料理を焼き鳥とする地域がある一方、鶏や豚、牛を区別せずにやきとりとして扱う土地も存在する。

前者は主に東京圏だ。東京圏において終戦後、大衆的な食べ物として人気だった豚肉や牛肉、その内臓などを用いた焼き料理は今日、『やきとん』や『牛串』となり、それぞれ専門店が存在する。

後者は福岡をはじめとする地方部に多い。北海道の『室蘭やきとり』でのメイン食材は、豚肩ロースだ。
また、埼玉県東松山市でも《やきとり=豚肉》として定着しており、人気テレビ番組『秘密のケンミンSHOW』は2021年5月28日、「焼き鳥は豚?ホルモンも豚!埼玉県民、豚好きすぎ! ここがオモロイ!」を放送した。

この点について、全国のやきとり店主らの集まりである『全国やきとり連絡協議会』では、「《やきとり⦆の出自から、《とり⦆という言葉があっても、牛や豚の内臓が含まれていることに何の不思議もない」とした上で、「『やきとり』の素材は、《鳥肉や鳥・牛・豚などの内臓》と定義したい」としている。

つまり、焼いたものを手に取って食べる物が、やきとりという考えだ。
 
 
画像提供)福岡市 

平安貴族も食していた!? 意外なやきとり史

やきとりの歴史は、900年余り前の平安時代後期までさかのぼる。
摂関家における儀式饗宴を記した献立に鳥焼物というメニューが記されていた。
当時、山鳥やヒバリ、キジ、 シギなどを食材に串焼きで調理しており、焼き鳥の原型といえる。

江戸時代以前の焼き鳥は、近代以降のやきとりと全く違うものだった。
江戸期の焼き鳥は小鳥を中心としたものだったのに対して、肉食を許された近代以降は鳥や豚、牛などを串焼きにして食べるやきとりになった。

そして、鶏肉が高価な食材だった昭和初期には、鶏肉を用いた高級焼き鳥店も登場したそうだ。
戦前にあまり食べていなかった豚や牛などの内臓を焼いたメニューがやきとりとして普及したのは、終戦後のことだった。

食糧難だった当時、闇市に登場した屋台において、鶏だけでなく豚や牛などのモツ串焼きが並んだことも大きかった。
戦後の高度経済成長と共に東京では、モツ串に代表される焼き料理は、やきとん店や牛串店へ枝分かれした。

一方、福岡・博多では、串焼き屋台からやきとり店が発展した経緯もあり、やきとり店の店頭に鶏だけでなく、豚や牛、魚、野菜など幅広いバラエティーに富んだメニューが並ぶ一方、福岡・博多においてやきとんや牛串の専門店を見掛けることは少ない。

つまり、東京では鶏肉を用いた焼き鳥に対して、福岡をはじめ先述の地域においては鶏や豚、牛、魚、野菜などを取り扱うバラエティー豊かなやきとりになったという見方ができる。


 画像提供)福岡県観光連盟

【謎】なぜ東京の『焼き鳥』と福岡の『やきとり』は違うのか?

東京の焼き鳥vs.福岡のやきとりという違いの本質は、何によるものだろうか?
この点について、中村調理製菓専門学校の中村哲校長は、背景となる食文化も踏まえながら、次のように考える。


中村調理製菓専門学校の中村哲校長

中村哲校長
 

以前から東京(江戸)と福岡(博多)における食文化の違いを面白く感じていました。

たしかに東京の焼鳥店では、「鶏肉しか使ってはいけない」という感覚があるような気がします。
また、東京のすし店では、握りがメインであり、いろいろなつまみで酒をたくさん飲むのは無作法という雰囲気があります。
同じく東京のそば屋でもそばがメインであり、そばができあがるまでの間に天ぷらや板わさなどをさかなに酒を少しだけ飲むのが粋とされています。

すしをはじめ、そばや焼き鳥に代表される江戸前の食文化では、粋であることを尊ぶ傾向がみられます。
粋とは、ある意味で瘦せ我慢であり、食に対するストイックな姿勢ともいえます。

一方で古来、国内外との交流が活発だった博多では、南国のラテン的な気質もあって、来訪者らを存分におもてなしていくという風土がみられます。
食の面においても形式にこだわらず、彼らが喜ぶことを率先してやっていく姿勢となって表れており、いろいろなものを〝楽しくおいしく〟味わうという独自の食文化を育んだと考えます。

福岡・博多の食文化は、江戸前を基本にしながらも、楽しくおいしく味わうことを追求していった結果、東京の食文化と異なり、独自の食文化として発展したのでないでしょうか。 


 

【謎】なぜ、福岡は〝食のおいしい都市〟になったのか?

東京の焼き鳥店と福岡のやきとり店との違いなども踏まえた上で福岡における〝おいしい食〟の秘密は、どこにあるのか? 
この謎について、中村校長は、次のような見解を示す。

中村哲校長
 


ミシュランの三つ星を獲得した京都の料亭主らを福岡市内のすし店へ案内したところ、「とても楽しい。博多らしい」という声を数多くいただきました。
また、世界のミシュラン三つ星レストランを食べ歩く韓国人のブロガーが語った「博多の食には、江戸前と違って格好をつけず、活気のある楽しい雰囲気が良い」という言葉が印象的でした。

一方、アメリカのエリート調理学校で学ぶ外国人学生らをやきとり店『八兵衛』に連れて行ったところ、鶏肉の焼き鳥をはじめ、豚バラや牛肉の串焼き、さらにポテトサラダなどのメニューに彼らは狂喜していました。

福岡・博多には、粋や格式にこだわらず、楽しくおいしく味わうことを尊重する、おおらかな考え方が根づいています。
だからこそ、かつて日本人が忌み嫌っていたもつを用いたもつ鍋が誕生し、個性豊かなうどん居酒屋が人気になっていると考えます。
南国でラテン的だと一見、いいかげんなイメージを持たれるものの、福岡・博多の食においては、いいかげんが〝良い加減〟という絶妙な塩梅になっているように感じています。

百聞は〝一食〟に如かず。福岡・博多のおいしい食文化を味わう

近年、福岡市は〝食のおいしい都市〟としても注目を集める。
福岡の〝食〟を代表するメニューの一つであるやきとりは、〝楽しくおいしく〟味わっていく独自の食文化に育まれた人気グルメだ、
長年、地元で愛されてきたモノやコトが、地域外の人々にも評価を得ることは、地域住民にとっても大きな誇りだ。
その一方で福岡の〝食〟に関して、「食としてのブランディングやストリーも含めた情報発信が不十分」という指摘もある。
今後、食分野における戦略的な取り組みが求められると考える。
まずは東京と〝一味〟違う福岡・博多の〝楽しくおいしい〟食文化を象徴する、バラエティー豊かなやきとり店へ足を運んで存分に堪能されてみてはいかがだろうか。
 

 
参照サイト

Fukuoka Factsもはや鶏なしでは生きていけない!? -鶏肉の購入量・支出金額と焼き鳥店の数
都道府県別統計とランキングで見る県民性 ~都道府県別焼鳥店店舗数~

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編集者兼ライター
近藤 益弘
1966年、八女市生まれ。福大卒。地域経済誌『ふくおか経済』を経て、ビジネス情報誌『フォー・ネット』編集・発行のフォーネット社設立に参画。その後、ビジネス誌『東経ビジネス』、パブリック・アクセス誌『フォーラム福岡』の編集・制作に携わる。現在、『ふくおか人物図鑑』サイトを開設・運営する。

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