コテンリレー #012

面白法人カヤック広報・梶さん×COTEN広報・下西さんに聞く!ポスト資本主義的「広報の可能性」

COTEN RADIO(以下:コテンラジオ)で大人気の「株式会社COTEN(以下:コテン)」についてお届けするコテンリレー。今回は、ポスト資本主義を掲げるコテンの広報・下西さんと、コテンラジオでもポスト資本主義の1つとして紹介された「地域資本主義」を掲げる面白法人カヤックの広報・梶さんに「ポスト資本主義での広報のあり方」について対談していただきました。

コテンが目指す「ポスト資本主義」下の広報とは

 
今回のコテンリレーは、ゲストをお迎えしての特別バージョン!ポスト資本主義を掲げるコテンの広報・下西さんと、以前から「地域資本主義」をミッションとして活動している「面白法人カヤック」の広報・梶陽子さんに、「ポスト資本主義での広報のあり方」について対談していただきました。
 
下西

コテンがポスト資本主義経営に舵を切ると決めて以来、ポスト資本主義における広報のあり方を模索してきました。「ポスト資本主義」を掲げ、みんなが「価値」だと感じるものを、「お金」という資本主義的価値から「みんなが幸せになること」にずらしていきませんか、と提唱している会社が、自社の考えや事業だけを広報していくことへに違和感を覚えていたんです。

「鎌倉資本主義」を掲げ、鎌倉に根ざした取り組みを数多くされているカヤックさんの広報は、もはや「カヤック」の広報ではなく「街」の広報であり、そこにヒントがあるのではと思っていました。

また、カヤックさんは八女市でも事業をされており、福岡とも繋がりがあるな、と。

 

 
梶さんプロフィール



株式会社ファーストリテイリング、ユニクロ店長を経て、アタッシュ・ド・プレスに。その後、ユニクロの商品広報、新規国PR担当、CSR広報などを経てニューヨークに1年滞在(NewsPicksのNY現地記者として活動)。帰国後、ジーユーのPRを担当。カヤックに初転職。広報部長として「うんこからまちづくりまで」幅広い企画・制作を担う面白プロデュース事業部や、コミュニティ通貨「まちのコイン」などのサービスを提供するちいき資本主義事業部を担当。

 
▶コテンが掲げる「ポスト資本主義」についてはこちらをどうぞ!
 
https://fukuoka-leapup.jp/biz/202201.421
 
 
 

面白法人カヤックと福岡での活動について

 
まずは面白法人カヤックさんについて、そして福岡での取り組みについて教えてください。
 

カヤックの事業内容は「日本的面白コンテンツ事業」。『うんこからまちづくりまで』と言われるように、広告制作からゲーム開発、地方創生と幅広い事業を展開しています。また、eスポーツ、冠婚葬祭、林業、不動産など多様なグループ会社を有しています。


 
 
グループ企業の一つ、福岡県八女市にある林業・木材加工業などの地域商社「八女流」。現在従業員募集中とのこと。https://yameryu.jp/
 
 
 日清食品の「カップニャードル」や野田クリスタルさんと共同で「スーパー野田ゲーPARTY」の開発を行ってる面白プロデュース事業
 
WEB制作やアプリ企画などがメイン事業でありながら、ただの制作会社ではなく、「鎌倉」という地域にしっかりと溶け込まれている様子がよく取り上げられています。
保育園やまちの大学、誰でも通える社員食堂なども運営されており、会社そのものが街の運営のような側面を持っているようにも見えます。
 

そうですね。2002年から鎌倉に本社を置くカヤックでは、従来の資本主義の指標だけでは測りきれない、地域ならではの豊かな自然やコミュニティを資本と捉えて、持続可能な成長を実現する。そんな「地域資本主義」の考え方を提唱しています
この「地域資本主義」で大切な「地域」には
〇地域環境資本(自然や文化)
〇地域社会資本(人と人のつながり)
〇地域経済資本(財政や生産性)
という3つの「地域資本」があると考えています。
 

 
そもそもカヤックは、大学の同級生だった代表3人が、「一緒に起業しよう」から始まり、次に「起業するなら鎌倉でしよう」と場所が決まった会社です。何をするかはあとから決まったと聞いています。
つまり、我々自体が「誰と仕事をするのか」という地域社会資本を一番に考えているんです。
 
もちろん経済資本がないと幸せは感じられないですが、その手前に、環境資本と社会資本があることで、幸せを感じやすくなるのではないかと思います。
 
 
こうした地域資本主義の事例として、八女での取り組みをご紹介しますね。
 
西鉄バス福島停留所にあるコミュニティーライブラリー併設の「つながるバス停」なるものをやっておりまして、バスを待つ間に、置いている本を自由に読むことができます。さらに読みかけの場合自分のオリジナルのしおりを挟むことができるので、同じバス停を利用する人たちがつながっているという緩やかなコミュニティが形成されています。
 
また、弊社では「まちのコイン」というコミュニティ通貨を16地域でやっているのですが、八女市でも「ロマン」という通貨を導入いただいています。この停留所では八女農業高校の生徒さんが収穫したお茶をロマンで飲むこともできるんです。


 
◆八女のまちコイン(ロマン)とは?

八女市には、日本一と言われる八女の玉露のほか、様々な伝統工芸があり、市内には重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に選定される白壁の町並みがあります。「まちのコイン」活用にあたり八女市の住民とのワークショップや市役所と議論を重ね、八女固有の資源や伝統文化、新しい取り組みを八女市内外の人に広く伝え、賑わいにつなげたいとの想いから「大自然や歴史、伝統をつないでにぎわうまち八女」を活動のテーマに設定されています。
 

つながるバス停のロマンで飲めるカフェコーナー。バスを待つ間、本を読みながら、八女茶を飲むことができる。

 
下西

コテンラジオを収録している「いいかねパレット」(福岡県田川市)では、カヤックさんが主催されている、鎌倉エリアの企業でブレストして事業化に繋げていく「カマコン」を参考にして「パレコン」を開催したと聞いています。

 

カマコンは、弊社の柳澤を中心に鎌倉の有志で集まる地域コミュニティです。誰かが出してきた課題や悩みに対してみんなで考えて、ブレストによってアイデアを沢山出して、その人にプレゼントする。そして、そのアイデアをいいなと思い手伝いたいと思った人は名刺を渡す、という流れで毎月開催しています。課題を自分たちで解決する策を考えて、それを一緒にやってくれそうな企業に仕事としてお声がけをするという流れではなく、街にいいことができる企画や幸せを感じられることをみんなで持ち寄って考えて、ブレストがきっかけで仕事になっていきます
カヤックが「地域資本主義」に気づくきっかけも、この取り組みから生まれました。


 
経済資本を優先してしまうと後回しにされがちな課題も、環境資本と社会資本をともにする人たちの中から出た発想になると「じゃあやりましょう」となる。まさにカマコンは、そうした鎌倉ならではの事業がたくさん生まれる場所になっているようです。

そして同じ考え方を、ローカルに転用した形のひとつが、先の八女の事例なのだと思います。
 
 
 

社会と会社をつなぐ、広報の可能性

 
下西

カヤックさんはもともと地域を向いて多様性のある事業を組み立ててこられてますよね。それを広報することはもう会社の広報の枠を超えていると思うんです。地域と会社の境目がないというか。
 
コテンも歴史のデータベース開発に取り組むにあたり、まずは「歴史」自体を広報しよう、とコテンラジオを始めました。ですから、ヤンヤンさんの肩書は長い間「広報」だったんですよ。その後に、企業広報として私が参画しました。
 
投資家さんたちや、COTEN CREWのみなさん、そして働くメンバーも、コテンラジオからコテンに出会っています。そう言った意味では「広報活動」としてすごく成功しているんです。
ただそこが上手くいったからこそ「コテンラジオ」から抜け出せないジレンマを感じていますし、それに加えて「ポスト資本主義」を掲げる企業として、自社を直接的に広報するのではない広報のあり方を模索しているところでもあります。
 
その辺り、「地域資本主義」を掲げるカヤックさんが自社よりも「地域」を主役として取り組まれた広報の事例ってあったりするんでしょうか。

 
 

たくさんありますが、私が自分で見つけてきた地域課題の解決につながるまちのコインの広報に関する事例を紹介しますね。

鎌倉に、「アルペなんみんセンター」という難民シェルターが誕生しました。日本では難民申請者の0.4%しか難民認定されず、多くの外国人の方が認定を待つ間、就労できず社会から断絶されつらい状況にあります。
 
そんな中、シェルターにいる外国人がまちのコインを使い始め、地域の人と交流ができるようになった、という話がありました。これはと思いすぐに自分で会いに行って話を聞いて、それからメディアにも『まちのコインが仮放免の難民支援につながっているんです!』と取材誘致をしました。おかげさまで、NHK「おはよう日本」や朝日新聞などで取材をいただきました。その後も、難民認定を待つスリランカの方がカレーを作るイベント『なんみんカフェ』を私と国際協力NGOの一般社団法人JLMMと一緒に企画し、取材誘致しました。
 
実際にお金を稼ぐことはもちろんできませんが、自分の作ったカレーのお礼に、お客様からまちのコインをもらう。この経験は、お金を稼ぐことが偉いというような資本主義の中で、本来のお金の役割は、物々交換のツールであったことに気付かされました。スリランカの方にとっても、自分の能力が認められて喜んでもらったこと、そしてセンターからもらったコインで別の人に何かを交換してプレゼントできたという経験が、生きる喜びにつながったと話してくれたんです。こちらもNHKや朝日新聞、共同通信など多くのメディアにも取り上げていただき、まちのコインの認知度アップにも繋がり、また難民認定制度の課題に関しても発信できました。そして、記事をみた方がまちのコインのユーザーになる、ファンになるところまで繋げることができました。


 

なんみんカフェで母国スリランカのカレーを振る舞ったリヴィさん。日本でカレー屋さんを開くのが夢だという。
 
下西

素晴らしいですね…!企業の広報だと、企業主体の取り組みを発信して、企業情報を取り扱う記者さんに取り上げていただくのが一般的です。でもこの取り組みは、あくまで課題を抱える地域社会の人々が主役になっていて、一見すると企業の広報ではなく、地域の広報になっています。

そうすることによって、企業情報としてではなく地域情報として、「まちのコイン」の情報を届けたい地域の方にも取り組みを知っていただけ、その価値を理解していただける。結果的にしっかりサービスのターゲットを向いた企業としての広報活動にもなっています。この両立って凄まじく難しいですよね。これを絶妙なバランスで実現されている梶さんが本当にすごいです。

社会課題の解決に貢献しながらも、広報施策として成功することに広報の可能性を感じます。そして、この施策のきっかけになったのは、カヤックさんも想定していなかった、難民認定待ちの方の実体験というのもポイントですよね。ユーザーさんの声にこそ広報のヒントがあるんだな、と改めて思いました。

このカレーイベント、社外への認知拡大に寄与したことはもちろんですが、社内のロイヤリティ向上にも繋がったんじゃないですか?広報しなければ、難民認定待ちの方に喜ばれている、という事実は社員の方ですら知らなかったのでは、と思います。

 

梶さん(画面左)のお話に大興奮の下西さん(画面右)

そうですね。難民支援の企画は社内でもすごく反響があって、社会的な課題の解決に自分達のサービスが貢献でき、人の幸せに繋がっているのが、嬉しい、誇らしいというコメントをもらいましたね。


 
下西

自社の事業やサービスが社会にどう浸透しているのかを社内外に知らせていくことは、広報だからできることなのかもしれませんね。

 
確かに営業や開発に比べると、広報の立ち位置からだと、ユーザーの体験を聞いて広めていく、ということがフラットにやりやすいように思います。
 

広報は、会社と社会をつなぐ仕事だと考えています。

広報の仕事というと、ついテレビや新聞、WEBニュースといったメディアを相手に、企業情報を記事にしていただくことばかりに頭がいきがちです。でも広報は、まず自分たちの商品やサービスがユーザーにとってどう良いのか社会の声を聞いて、その声をもとに自社製品のことを伝えていく。それが、メディアの先にいるステークホルダーにとって意義ある発信になると思っています。


 
 
 

社会貢献と「株式会社」であることのバランス

 
専門でないと、広告と広報の違いは非常に曖昧に感じますが、広報というのは、目先の利益だけでなく、中長期的な視点をもってその商品・サービスを通して社会がどうなっていくかまでを考えているんですね。特にコテンさんもカヤックさんもその傾向が強いのではと思いました。
 

私たちは株式会社で株主の方もいるので、利益を上げ続けることは追求していかなければいけません。経済資本を否定もしていません。ただ、経済資本だけでは豊かになれないということは伝えていきたいと思っています。

社会貢献性の高い広報施策は、大企業であればCSRに分類されることが多いと思います。ただカヤックでは、CSR部がないのもありますが、CSR活動としてではなく、事業として推進することが重視されているんですよね。社会貢献を、事業として実現することが大切だと思っています。


 
下西

そこの考え方も、コテンと非常に似てますね。COTEN CREWというコテンに賛同していただいた法人・個人の方々に金銭的に支援していただく仕組みがあるのですが、よく「寄付と何が違うの?」と聞かれます。寄付というのは既存の考え方で、市場経済の外で行われる行為ですよね。私たちはこの金銭的支援を、市場経済上でやることに意味があると思っているんです。社会貢献性が高いけど、自分に直接的なリターンがあるわけではない事業に、市場経済の枠組みの中で、法人や個人がお金を出す。このことに意味があると思っています。

 
株式会社である以上、利益も追求していかなければならないので、このバランスが難しいのですが、両社に共通するのは、会社のミッションとしても、事業活動としても、「社会に貢献したい」という強い意志が貫かれていること。

その一端が、カヤックでいう「地域資本主義」、コテンでいう「ポスト資本主義」という考え方に現れています。
 
こうした事業を進めていく中での広報の立ち位置は、本来の資本主義ベースでないからこその試行錯誤も多々あるのではないかと感じました。それと同時に、二社が「資本主義」とは異なるからこそ、できている施策もあると思います。
 
下西

その側面もあるかもしれませんね。「ポスト資本主義」や「地域資本主義」を掲げているからこそ、社会貢献性の高い広報施策と会社を接続しやすく、社内で理解を得やすいとは思います。とはいえコテンもカヤックさんも『株式会社』である以上、社会貢献性だけでは会社の資産は使えないので、どうそこと自社のメリットを接続させるのか、には頭を悩ませています。

 

カヤックは鎌倉でやっているので、そもそも歴史もあってポテンシャルが高いのでうまくいってるんだろうと言われることもあります。ただ、経済資源的には「何もない」と思われる地域にも、環境や社会資本など、必ず何かがあるんです。

こうしたカヤックでの知見を活かして、他の地域でもその「何か」を、せっかくなら蚊帳の外から見るより中に入って一緒に何かやりたいと思っていて、「まちのコイン」もそのためのきっかけの1つと考えています。
 
簡単ではないけれど、どこかにその糸口はあるはずで、それを見つけていくのも広報の醍醐味ですよね。


 
 
規格外野菜や賞味期限の近い食品をまちのコインと交換できる「まちのもったいないマーケット」(鎌倉市)。食品ロス削減などに繋がっている。
 
 
 

広報からポスト資本主義的な価値を見せていこう

 
下西

鎌倉でない地域でもできるんだっていうことを、事業と広報を通じて見つけていくというのは素敵なお話ですね。企業広報という視点で見ても、『私たちの会社が社会貢献性の高い事業を展開するからこういう広報ができている』わけではない、というのは大切な視点だと思います。本来、事業やサービスとは社会と接続し、誰かにとって価値ある取り組みだからこそ、成り立っているはずですよね。その価値ある「何か」を見つけていく努力を怠らず、社内外に発信していくことは、結果として中長期的に見て自社にとっても非常に効果の高い広報活動に繋がっていくと思います。

そういうところから、ポスト資本主義的な広報というのは始まっていくのではと今日お話していて改めて思いました。

 

そうですね、広報の立ち位置だからこそ、始めていけることはたくさんありますし、広報から事業にフィードバックすることで、事業自体もより価値あるものに変えていける可能性も十分にあると思います。

最後に、カヤックでは一緒にこうした広報活動を推進していきたい方を募集していますので、興味がある方はぜひ弊社ホームページをご覧いただければと思います。


 
▶面白法人カヤックのホームページはこちら
 

出来上がったサービスを世の中に広める仕事が「広報」の仕事だと思われがちですが、カヤック・梶さんは、伝えるだけでなく、ユーザーやステークホルダーの声にヒントを得た事業推進のつなぎ役としても広報の立場を活かしていました。
 
事業を回しながらブラッシュアップしていくスタイルが増えている中で、検証や効果をしっかりと把握するためにも、広報の存在は絶大です。
 
そう考えると、同じ広報の立場にあっても「私の会社は社会資本に価値なんか置いてないもんな」と思ってしまうところ、自分の立ち位置を通じて「ユーザーの体験」を次のPDCAに反映する機能は十分担えるわけです。
 
こうやって、これからも、コテンとコテンクルーと、フクリパ読者の「体験」「声」をもとに、より多くの方に「読んでよかった」と思ってもらえる記事をお届けしていけたらいいなと思う編集部でした。
 

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フクリパ編集部
フクリパ・デスク(中の人)です。飛躍する街・福岡の 過去を知り、現在を理解し、未来を想像する、様々な情報をいち早くお届けします。「こんな記事が読みたい!」というリクエストは、各種SNSのメッセージにて承ります!

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