コテンが目指す「ポスト資本主義」下の広報とは
今回のコテンリレーは、ゲストをお迎えしての特別バージョン!ポスト資本主義を掲げるコテンの広報・下西さんと、以前から「地域資本主義」をミッションとして活動している「面白法人カヤック」の広報・梶陽子さんに、「ポスト資本主義での広報のあり方」について対談していただきました。
下西
「鎌倉資本主義」を掲げ、鎌倉に根ざした取り組みを数多くされているカヤックさんの広報は、もはや「カヤック」の広報ではなく「街」の広報であり、そこにヒントがあるのではと思っていました。
また、カヤックさんは八女市でも事業をされており、福岡とも繋がりがあるな、と。
梶さんプロフィール
株式会社ファーストリテイリング、ユニクロ店長を経て、アタッシュ・ド・プレスに。その後、ユニクロの商品広報、新規国PR担当、CSR広報などを経てニューヨークに1年滞在(NewsPicksのNY現地記者として活動)。帰国後、ジーユーのPRを担当。カヤックに初転職。広報部長として「うんこからまちづくりまで」幅広い企画・制作を担う面白プロデュース事業部や、コミュニティ通貨「まちのコイン」などのサービスを提供するちいき資本主義事業部を担当。
▶コテンが掲げる「ポスト資本主義」についてはこちらをどうぞ!
https://fukuoka-leapup.jp/biz/202201.421
面白法人カヤックと福岡での活動について
まずは面白法人カヤックさんについて、そして福岡での取り組みについて教えてください。
梶
グループ企業の一つ、福岡県八女市にある林業・木材加工業などの地域商社「八女流」。現在従業員募集中とのこと。https://yameryu.jp/
日清食品の「カップニャードル」や野田クリスタルさんと共同で「スーパー野田ゲーPARTY」の開発を行ってる面白プロデュース事業
WEB制作やアプリ企画などがメイン事業でありながら、ただの制作会社ではなく、「鎌倉」という地域にしっかりと溶け込まれている様子がよく取り上げられています。
保育園やまちの大学、誰でも通える社員食堂なども運営されており、会社そのものが街の運営のような側面を持っているようにも見えます。
梶
この「地域資本主義」で大切な「地域」には
〇地域環境資本(自然や文化)
〇地域社会資本(人と人のつながり)
〇地域経済資本(財政や生産性)
という3つの「地域資本」があると考えています。
そもそもカヤックは、大学の同級生だった代表3人が、「一緒に起業しよう」から始まり、次に「起業するなら鎌倉でしよう」と場所が決まった会社です。何をするかはあとから決まったと聞いています。
つまり、我々自体が「誰と仕事をするのか」という地域社会資本を一番に考えているんです。
もちろん経済資本がないと幸せは感じられないですが、その手前に、環境資本と社会資本があることで、幸せを感じやすくなるのではないかと思います。
こうした地域資本主義の事例として、八女での取り組みをご紹介しますね。
西鉄バス福島停留所にあるコミュニティーライブラリー併設の「つながるバス停」なるものをやっておりまして、バスを待つ間に、置いている本を自由に読むことができます。さらに読みかけの場合自分のオリジナルのしおりを挟むことができるので、同じバス停を利用する人たちがつながっているという緩やかなコミュニティが形成されています。
また、弊社では「まちのコイン」というコミュニティ通貨を16地域でやっているのですが、八女市でも「ロマン」という通貨を導入いただいています。この停留所では八女農業高校の生徒さんが収穫したお茶をロマンで飲むこともできるんです。
◆八女のまちコイン(ロマン)とは?
つながるバス停のロマンで飲めるカフェコーナー。バスを待つ間、本を読みながら、八女茶を飲むことができる。
下西
梶
カヤックが「地域資本主義」に気づくきっかけも、この取り組みから生まれました。
経済資本を優先してしまうと後回しにされがちな課題も、環境資本と社会資本をともにする人たちの中から出た発想になると「じゃあやりましょう」となる。まさにカマコンは、そうした鎌倉ならではの事業がたくさん生まれる場所になっているようです。
そして同じ考え方を、ローカルに転用した形のひとつが、先の八女の事例なのだと思います。
社会と会社をつなぐ、広報の可能性
下西
コテンも歴史のデータベース開発に取り組むにあたり、まずは「歴史」自体を広報しよう、とコテンラジオを始めました。ですから、ヤンヤンさんの肩書は長い間「広報」だったんですよ。その後に、企業広報として私が参画しました。
投資家さんたちや、COTEN CREWのみなさん、そして働くメンバーも、コテンラジオからコテンに出会っています。そう言った意味では「広報活動」としてすごく成功しているんです。
ただそこが上手くいったからこそ「コテンラジオ」から抜け出せないジレンマを感じていますし、それに加えて「ポスト資本主義」を掲げる企業として、自社を直接的に広報するのではない広報のあり方を模索しているところでもあります。
その辺り、「地域資本主義」を掲げるカヤックさんが自社よりも「地域」を主役として取り組まれた広報の事例ってあったりするんでしょうか。
梶
鎌倉に、「アルペなんみんセンター」という難民シェルターが誕生しました。日本では難民申請者の0.4%しか難民認定されず、多くの外国人の方が認定を待つ間、就労できず社会から断絶されつらい状況にあります。
そんな中、シェルターにいる外国人がまちのコインを使い始め、地域の人と交流ができるようになった、という話がありました。これはと思いすぐに自分で会いに行って話を聞いて、それからメディアにも『まちのコインが仮放免の難民支援につながっているんです!』と取材誘致をしました。おかげさまで、NHK「おはよう日本」や朝日新聞などで取材をいただきました。その後も、難民認定を待つスリランカの方がカレーを作るイベント『なんみんカフェ』を私と国際協力NGOの一般社団法人JLMMと一緒に企画し、取材誘致しました。
実際にお金を稼ぐことはもちろんできませんが、自分の作ったカレーのお礼に、お客様からまちのコインをもらう。この経験は、お金を稼ぐことが偉いというような資本主義の中で、本来のお金の役割は、物々交換のツールであったことに気付かされました。スリランカの方にとっても、自分の能力が認められて喜んでもらったこと、そしてセンターからもらったコインで別の人に何かを交換してプレゼントできたという経験が、生きる喜びにつながったと話してくれたんです。こちらもNHKや朝日新聞、共同通信など多くのメディアにも取り上げていただき、まちのコインの認知度アップにも繋がり、また難民認定制度の課題に関しても発信できました。そして、記事をみた方がまちのコインのユーザーになる、ファンになるところまで繋げることができました。
なんみんカフェで母国スリランカのカレーを振る舞ったリヴィさん。日本でカレー屋さんを開くのが夢だという。
下西
そうすることによって、企業情報としてではなく地域情報として、「まちのコイン」の情報を届けたい地域の方にも取り組みを知っていただけ、その価値を理解していただける。結果的にしっかりサービスのターゲットを向いた企業としての広報活動にもなっています。この両立って凄まじく難しいですよね。これを絶妙なバランスで実現されている梶さんが本当にすごいです。
社会課題の解決に貢献しながらも、広報施策として成功することに広報の可能性を感じます。そして、この施策のきっかけになったのは、カヤックさんも想定していなかった、難民認定待ちの方の実体験というのもポイントですよね。ユーザーさんの声にこそ広報のヒントがあるんだな、と改めて思いました。
このカレーイベント、社外への認知拡大に寄与したことはもちろんですが、社内のロイヤリティ向上にも繋がったんじゃないですか?広報しなければ、難民認定待ちの方に喜ばれている、という事実は社員の方ですら知らなかったのでは、と思います。
梶さん(画面左)のお話に大興奮の下西さん(画面右)
梶
下西
確かに営業や開発に比べると、広報の立ち位置からだと、ユーザーの体験を聞いて広めていく、ということがフラットにやりやすいように思います。
梶
広報の仕事というと、ついテレビや新聞、WEBニュースといったメディアを相手に、企業情報を記事にしていただくことばかりに頭がいきがちです。でも広報は、まず自分たちの商品やサービスがユーザーにとってどう良いのか社会の声を聞いて、その声をもとに自社製品のことを伝えていく。それが、メディアの先にいるステークホルダーにとって意義ある発信になると思っています。
社会貢献と「株式会社」であることのバランス
専門でないと、広告と広報の違いは非常に曖昧に感じますが、広報というのは、目先の利益だけでなく、中長期的な視点をもってその商品・サービスを通して社会がどうなっていくかまでを考えているんですね。特にコテンさんもカヤックさんもその傾向が強いのではと思いました。
梶
社会貢献性の高い広報施策は、大企業であればCSRに分類されることが多いと思います。ただカヤックでは、CSR部がないのもありますが、CSR活動としてではなく、事業として推進することが重視されているんですよね。社会貢献を、事業として実現することが大切だと思っています。
下西
株式会社である以上、利益も追求していかなければならないので、このバランスが難しいのですが、両社に共通するのは、会社のミッションとしても、事業活動としても、「社会に貢献したい」という強い意志が貫かれていること。
その一端が、カヤックでいう「地域資本主義」、コテンでいう「ポスト資本主義」という考え方に現れています。
こうした事業を進めていく中での広報の立ち位置は、本来の資本主義ベースでないからこその試行錯誤も多々あるのではないかと感じました。それと同時に、二社が「資本主義」とは異なるからこそ、できている施策もあると思います。
下西
梶
こうしたカヤックでの知見を活かして、他の地域でもその「何か」を、せっかくなら蚊帳の外から見るより中に入って一緒に何かやりたいと思っていて、「まちのコイン」もそのためのきっかけの1つと考えています。
簡単ではないけれど、どこかにその糸口はあるはずで、それを見つけていくのも広報の醍醐味ですよね。
規格外野菜や賞味期限の近い食品をまちのコインと交換できる「まちのもったいないマーケット」(鎌倉市)。食品ロス削減などに繋がっている。
広報からポスト資本主義的な価値を見せていこう
下西
そういうところから、ポスト資本主義的な広報というのは始まっていくのではと今日お話していて改めて思いました。
梶
最後に、カヤックでは一緒にこうした広報活動を推進していきたい方を募集していますので、興味がある方はぜひ弊社ホームページをご覧いただければと思います。
出来上がったサービスを世の中に広める仕事が「広報」の仕事だと思われがちですが、カヤック・梶さんは、伝えるだけでなく、ユーザーやステークホルダーの声にヒントを得た事業推進のつなぎ役としても広報の立場を活かしていました。
事業を回しながらブラッシュアップしていくスタイルが増えている中で、検証や効果をしっかりと把握するためにも、広報の存在は絶大です。
そう考えると、同じ広報の立場にあっても「私の会社は社会資本に価値なんか置いてないもんな」と思ってしまうところ、自分の立ち位置を通じて「ユーザーの体験」を次のPDCAに反映する機能は十分担えるわけです。
こうやって、これからも、コテンとコテンクルーと、フクリパ読者の「体験」「声」をもとに、より多くの方に「読んでよかった」と思ってもらえる記事をお届けしていけたらいいなと思う編集部でした。
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