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イノベーションをもたらすヒントを得よう|横井軍平・牧野武文(2015)『横井軍平ゲーム館 「世界の任天堂」を築いた発想力』ちくま文庫

ビジネス系書籍をアカデミズムの世界から紹介してくださるのは、福岡大学・商学部の飛田努准教授です。アントレプレナーシップを重視したプログラムなどで起業家精神を養う研究、講義を大切にされています。毎年更新されるゼミ生への課題図書リストを参考に、ビジネスマンに今読んで欲しい一冊を紹介していただきます。

 今回は,伝説的なゲーム開発者の1人である横井軍平さんへのインタビューをまとめた『横井軍平ゲーム館「世界の任天堂」を築いた発想力』をご紹介します。
 
 この本は,もともと1997年に発売されました。しかし,著者の1人である横井軍平氏が直後に交通事故で亡くなったこともあり,程なく絶版になってしまいます。某ネット通販サイトでは80,000円で取り引きされるほどの貴重書となっていましたが,2010年に改定復刊,2015年に文庫本として出版され,手に取りやすい本になりました。
 

『横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力 』詳細はこちら

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 1960年代半ばに大学を卒業して任天堂に入社した横井氏は,当時中小企業であった同社でゲーム開発の任を受けます。男の子の遊びと言えば野球だった時代に,室内で遊べるピッチングマシン「ウルトラマシン」や,西部劇にあやかって光線銃を使ったゲーム機器を開発したりと,玩具業界におけるスマッシュヒットを生み出してきました
 
 そして,1980年には「ゲーム&ウォッチ」の開発・発売に至ります。「ゲーム&ウォッチ」は新幹線で暇そうにしているサラリーマンが電卓で遊んでいるのを見て着想したそうです。しかし,まだ車内でゲームを出して遊ぶのは恥ずかしい時代でしたから,「どうしたら,人目につかずにさりげなく遊べるか」を考え,親指で操作できる横型の筐体とし,押すだけで遊べるものに。その後,操作性を高めるために十字ボタンを開発し,多くのユーザーが楽しむものになっていきました。
 
このあと,横井氏は「ゲームボーイ」の開発にも携わり,現在のゲーム機器の基本形態を創り上げていったイノベーターとも言える方です。新たな価値を生み出すには,人の動きを観察しながら,技術をどのように用いれば人を楽しませることができるか,それをいくら(金額)で作ることができるかといった条件を組み合わせる。まさに,ビジネスを,ゲーム機器を通じてイノーベーションをどう起こしてきたのかを氏の言葉と生み出した製品で振り返るのがこの本の魅力です。
 
 横井氏は貴重な言葉を残してくれています。
 
 1つめは「すべて自分でやろうとしてはいけない。専門家にまかせることを考えよう」(p.199)です。開発のキーマンは何でも自分でやろうとしてしまう。技術者は細く深く技術を磨こうとしてしまう。だから,氏はプロデューサーになれと説きます。プロデューサーとして専門家の協力を得ながらモノづくりを進める。そのプロデューサーに必要なのは,「専門知識ではなく,ものの根本の理屈」(p.201)であり,小学校の理科,自然科学といった知識があれば十分なのだと言います。理屈がわかるからこそ応用が効くのだとも。
 
 2つめは「ユーザーは何を『求めていない』か」(p.206)を考えようと。技術者はより良いものを作ろうとさまざまな機能を足してしまう。その結果,どんなに品質や機能が優れていても価格を見て顧客が離れてしまうことがある。ユーザーの声を何でも聞きすぎてもいけないし,技術を欲張ってもいけない。だから,「『ユーザーはこう言っているけど,本当のニーズはこうなんだ』ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要」(p.208)と訴えます。
 
 最後は,「枯れた技術の水平思考」(p.211)です。氏はすごい商品は必要ないのだと説き,技術者を戒めるように「技術に惚れ込んではいけない」(p.209)とも言います。最先端の技術も時が経てば枯れてくる。その時が狙い目なのだと。垂直に深く考えることも重要だけれども,今ある技術を水平に展開したらどのように使うことができるか。この考え方は現在のゲーム機器にも反映され,任天堂の開発のあり方を支えるものになっていると言えるかもしれません。この言葉は氏が遺した代表的な言葉です。
 
 現在,ビジネスの世界でも「デザイン」の重要性が語られ,さまざまな用法で用いられるようになっています。横井氏の遺したゲーム機器には今で言う製品やユーザー体験(UX:User Experience)のデザインが反映され,日々顧客に向き合うわたしたちにも多くの学びを与えてくれます。顧客を大切にするとはいかなることか。開発者とはいかにあるべきか。世の中が複雑で,さまざまな人の思惑で入り乱れている,それがSNSなどで可視化されやすい時代であるからこそ,「もっと単純明快,シンプルに考えなさい」,「学びを続けて,得た知見をビジネスで活かそう」と問いかけているかのようです。
 
新たな価値を生み出す「イノベーションのヒント」は日々のわたしたちの生活の中にいくらでもある。難しく考えないでよく観察しよう。
 
 この本はそんなことを気づかせてくれます。新規事業担当者のみならず,どのような立場の人が読んでも学びが多い1冊です。ぜひご一読ください。

飛田先生のご著書『経営管理システムをデザインする』はこちら

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福岡大学商学部 准教授
飛田 努
福岡大学商学部で研究,教育に勤しむ。研究分野は中小企業における経営管理システムをどうデザインするか。経営者,ベンチャーキャピタリストと出会う中でアントレプレナーシップ教育の重要性に気づく。「ビジネスは社会課題の解決」をテーマとして学生による模擬店を活用した擬似会社の経営,スタートアップ企業との協同,地域課題の解決に向けた実践的な学びの場を創り出している。 著書に『経営管理システムをデザインする』中央経済社がある。

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