「福岡新風景:経営者と語る福岡の魅力」第2回は,東京に本社を置き,東京証券取引所グロース市場に上場しているスローガン株式会社(以下,スローガン社と表記)の取締役副社長,北川裕憲(きたがわ・ひろのり)さんにお話を伺いました。
北川さんは岐阜県出身,東京の大学在学中から公認会計士を目指しながら,企業における会計実務を学ぶ機会として同社でインターンをされていました。その後,試験に合格し,監査法人に勤務。再び,スローガン社に入社されて今に至ります。
北川さんと私の出会いはひょんなことからでした。2021年に私が著書を執筆し,それを読んでくださった当時ベンチャーキャピタルのCFOを務めておられた方から,いくつかのスタートアップ企業で管理会計システムの構築を課題に感じておられるところがあるので話を聞いてみませんかとお誘いを受けたこと。その中の1社にスローガン社があり,北川さんをご紹介頂きました。その後も研究,調査にご協力を頂くようになりました。
その際,私は頻繁に福岡で暮らすことの良さを語っていたようです。食事や自然,アクティビティが近いこと,交通が至便であること。そんなことを滔々と話をしていたら,半年ほど前,北川さんが福岡に移住されてきました。
そこで,今回は北川さんのお仕事と福岡での暮らし,スタートアップ企業の採用支援と学生育成を通じて見える福岡のポテンシャルについて伺いました。ぜひご一読ください。
スローガン社の事業内容とスタートアップ企業の新卒採用から見える景色
飛田 まず,スローガン社の事業内容をお聞かせください。
北川 スローガンの創業は2005年。日本における成長産業,成長企業に対してポテンシャルのある若い人材を繋いでいくというような仕事を主にしています。新卒採用が主で,大学生向けにセミナーやイベント,キャリア面談を通じて,その人の可能性が引き出されるようなキャリア構築と,これからの新産業,成長産業にとって必要な若い人材を企業に繋ぎ合わせていくというところに挑戦しています。新卒以外にも長期インターン,第2新卒,中途採用も周辺領域として展開していたり,社会人向けにビジネスメディアを通じてスタートアップやベンチャーの魅力をしっかり世の中に伝えていくというような事業も周辺で展開しています。
飛田ゼミでも講演してもらいました
飛田 主に東京周辺のスタートアップ企業が顧客になるかと思いますが,この数年での動きの変化を感じることはありますか?
北川 そうですね。数年単位ですと,そこまで大きくはある変化していないかなと。それでもここ10年ぐらいでじわりと変わってきているかなっていう気はします。まず,10年以上前であればスタートアップがベンチャーっていう言葉が新卒学生には結構距離が遠いようなところから、今では普通に学生が新卒での就職活動や、世の中のメディアもスタートアップという言葉が使われるっていうことだけでも大きく変化しているっていうのはあるなと思います。関連して、業界としてはスタートアップ,ベンチャー向けの新卒採用サービスの事業者も結構増えてきてはいるかなと思います。この界隈の新卒就職活動に対する企業側の人材ニーズが上がっていることに加えて,そこに向けた学生の認知向上みたいなところはだいぶ進んできているかなっていうふうには思っています。
飛田 スタートアップ企業が新卒採用をするモチベーションってどんなところなのですか?一般的に想起される企業との違いとかありますか?
北川 新卒に対して求めている人材像って抽象的にはそこまで大きく変わらないと思うんですけれども,誰にも基本的にはポテンシャルがあるってことを期待しているとは思います。ただし,そうした人材に対して企業が環境を用意できているかと言われれば,企業によってかなり大きく異なるところはあるかもしれません。特に,スタートアップ企業、ベンチャーとかでよくフィットするなっていうのでいくと、主体性であったりとか、成長意欲みたいなところをしっかり持たれている学生さんにとっては非常にそういった意欲を大いに発揮できる機会環境なのかなと思っていまして。
わたしたちがお客様としている企業さんの多くは,組織構造上の階層が比較的大きくないところであったりとか、裁量権みたいなところで本人が動く自由度だったり、意思決定のスピードが速いという特徴があります。個人もそうですが,企業自身が成長していくので、そこにやっぱり新しいポジションであったり,役割,機会がどんどん増えていきます。ですから,スタートアップ企業には成長意欲とか、自分でいろいろ積極的にやりたい,行動したいっていう学生さんにとっては非常にいい環境なのかなとは思います。一方で,少し成熟してきた産業だったり,企業だったりすると,そういった意思決定が結構緩やかだったり、もう既に組織構造もできあがっている中で、新しいポジションだったり,役割が生まれづらかったり、世代交代がしづらいっていうところから、スピード感とか見える時間軸は異なる環境なのかなとは感じます。
飛田 そうした中で,学生のポテンシャルをどうやって評価するのですか?
北川 ポテンシャルとか,能力とか相性を面接のプロセスで見極めるのは,めちゃくちゃ難しいなっていうのが大前提にはあります。その中で,直近のスローガン社での採用などで感じたことですと、自己開示がしっかりとできたり、内省がちゃんとできる素養が備わっている人というのは、ポテンシャルあるなって感じます。
具体的には、就活のときって、自己分析するじゃないですか?何か自分の長所だとか、短所とか、真面目とか、リーダーシップがあるとか、何かそういうところの表面的な長所短所ではなく,自分が今どういう思考特性があったりとか、長所にしてもなぜそういう長所が形成されているのかっていうところも含めて、1つ1つの行動やフィードバックに対して自分を省みたり,自分はこうなんじゃないかとか、そういう実行体制ができるっていうところと、それに対して自己変容を自分の中でも促していけるっていうところがすごくポテンシャルが感じるなって感じます。
そうすれば,難しい課題や苦手なことも含めて相手に開示したり、伝えられますし,素直に自己開示できるとそこに第三者からフィードバックがもらえて、より成長していく機会になるなって思います。一方で,ぐっと殻に閉じこもってしまうと、そこに対して誰からもやっぱりフィードバックがもらえなかったり、成長機会を失うことになる気がするので、何かひとつ、自己開示ができたりとか、自分で内省ができたりとかっていうところは、すごくポテンシャルを感じます。
福岡に住み始めて感じる東京との違い
飛田 福岡に移住してきてどれくらいになりましたか?
北川 本格的に住み始めたのが9月くらいかな。なので,7ヶ月くらい経ちました。
飛田 率直に言ってどうですか?
北川 最高の一言に尽きますかね。不満がないというか、むしろ良いことだらけで、まだまだちょっと福岡楽しみきれてないって感じています。東京にいた時は,週末といっても家にいるか,近所でちょっとご飯食べに行くか。それよりも大体家で仕事していたりとか、何か本読んでいたり、自分のことやっていることが結構多かったです。福岡来て,最近だとカキ小屋にハマってますね(笑)
飛田 普段はご自宅でリモートワークなんですか?
北川 そうですね、基本的にずっと自宅で働いて。
飛田 東京には週とか,月とか,どれくらいの頻度で行かれているんですか?
北川 月に1回、大体2、3泊ぐらいですね。多くても。
飛田 こちらに住まわれて,仕事上で何か違いや困っていることを感じたりされますか?
北川 日常的な仕事をしていて感じることはそんなにないのですが、勉強会とか,横の繋がりとか、何らかイベントやったりとか、特に役員向けのものは東京に集中しているというのはあるかもしれません。
特に有能なタレントが東京にいるので、福岡であんまり勉強会がそういう形で開催されるっていうことが少ないとは感じます。なので,東京で勉強会に参加したりするときは「福岡で開催しましょう」とお声がけをしたりもします。
飛田 福岡とか、札幌とかだと,ビジネスと別のところで東京の方に来ていただく強力なコンテンツがあるのでいいですよね。
福岡,九州での事業展開を見据えて
飛田 一方で,スローガン社として福岡,九州,地方で事業を展開していくという点について課題はありますか?
北川 九州に限らず,地方で展開されている企業に関わっているケースが多くないというのはあります。地域での人材に関する課題感であったりとか、採用方法だったりとかあるはずですが、そこまで自分たちも深く理解できていないと感じます。地域の構造としても,その地域で「強い」企業さんもいらっしゃるなっていうのもあります。
また,大学で関東圏にいるような学生でも将来は地元に戻りたいという人もいっぱいいるとは感じますが,その地域のスタートアップ企業やベンチャーという点では状況は良くなっているけど認知度が高くない。スローガン社としてはちゃんと伝えていく活動がまだまだ足りてはいないなっていう気はしています。
飛田 まだまだ新卒採用のフェーズにいけていない,技術を持っている,キャリアを持っている人を優先せざるを得ないというのもありますね。
北川 そうですね。そこも全然フェーズとしてはあるなと思いますし、ずっと多分、九州とか福岡とかで、経営されて上場している企業さんであれば,地元の繋がりとか、学生さんのネットワーキングがある中で,実はまだ支援会社のサポートを必要としてないとかはあるでしょうね。ネットワークが形成されていることは良いことですが、(学生の就職,起業の採用)支援のポイントだったり,フェーズっていうのは、何かありそうだなとは感じています。
飛田 他にポテンシャルあるなぁって感じることはありますか?
北川 結構インバウンドが多いというか,特にコロナが明けてからすごく多いなっていうのは感じています。さらに海外に限らず、国内の旅行者も結構多いので,観光がスペシャルな産業としてはあるかなと。
あとは,自分が住んでいて住みやすいというのもありますが、地方の拠点だったり企業が拠点出す先であったりとか。それこそ支店を構えるっていうとき、あとはちょっとオフサイトとかの会場をやったりとか,ビジネスとして福岡をひとつの重要拠点にするみたいなところもなんかまだまだあるなと。まちを歩いても結構エンジニアさんの支援多いなっていう。スローガンとしてはエンジニアやデザイナーのようなクリエイティブ人材のマーケットを開拓しきれていないので、そこは何かできると面白そうだなと考えています。
飛田 そこにまた大学との関係を交えて頂けるとありがたいです。
北川 そうですね。学生さんとこちらに来て直接お話する機会が何度かあったんですけど、「知らない」っていうケースだったり,そもそも情報に触れる機会がなかったりとか,触れる機会があっても結構遅かったりっていう。理系の学生さんとも話しているときにも「いやそんな機会があるんだったら」とか言われるのですが,結構誤解していたり,知らない、認知できてないということもあるんですよね。
飛田 どうしても東京,関東,関西にいれば,たくさん人もいるので情報が早く入るし,企業もたくさんあるからですね。しかも,その中で競争しているので、優秀な学生さんを企業は早く採用したい。その流れに乗っていこうと思ったら,九州にいるとどうしてもワンテンポ遅れるし,物理的な距離もあるので、なかなか出て行きづらいということもあります。でも,オンラインだから情報の速度が合ったり、アンテナが高くなれば、学生はチャンスをつかめる機会が増えますよね。
最後に
飛田 最後に一言何かありますか?
北川 当初ハードル高そうな移住と思ってたんすけど、意外と移ってみるとそんなことはないって思いました。仕事も何とかむしろ良くなるっていう。東京にいた時のようにパッと人に会うことができずに,わざわざスケジュール調整しなければいけないというのはありますが,そんなものもあまりあるメリットかなんか福岡以上にはあったなと。
経営者としては,自分自身のパフォーマンスの出る環境を備えていくのはすごく大事だなとは思う中で,福岡はすごく良いんじゃないかなと感じます。あと、最近,特に福岡に住んでいて企業や学生の声を聞く機会が少し増えている中で、みなさんの期待に応えたりとか、可能性がより広がるような活動っていうのはトライしたいですね。自分自身も楽しみですし、より街が元気になったり、経済が元気だったりとか、いろいろな人やモノを繋げていけるような取り組みっていうのをチャレンジして福岡と一緒に何かコラボレーションしていけるとすごくいいなと思います。
若いポテンシャルのある人材を応援したいっていう気持ちもありますし,スタートアップ企業やベンチャーに限らず、成長企業を応援したいっていう気持ちもありますので,会社としても、私個人としても、福岡のためにできることをしたいなというふうな気持ちです。
飛田 そうですね。ぜひ何か面白いこと,楽しいことを進めていきましょう。今日はお忙しい中,ありがとうございました!
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いかがでしたか?福岡に移住して半年と少し。業種の特徴や基本リモートワークで仕事が進むとは言え,上場企業経営者が福岡に移住してQOL(Quality of Life;生活の質)を上げながら,仕事もプライベートも充実した時間を過ごしておられる様子をお感じ頂けたでしょうか。
福岡は「スタートアップ都市宣言」をしてから10年と少し,もともと福岡で長年事業を営んできた企業と合わせて多くのスタートアップ企業が生まれ,日本国内でも有数の活気がある都市として注目されています。と同時に,事業が大きくなっていけば「ヒト」をどのように採用するか,どこにどんな人材を必要としているのか,経営課題も大きく変化していきます。福岡は京都と並ぶ「学生の街」でもあり,彼・彼女たちは言うまでもなくポテンシャルを兼ね備えた人材です。スタートアップ企業に人材を育てて送り出すスローガン社が持つ企業能力を福岡でも活かしてくださることを期待しています。
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飛田先生が毎回ゲストをお迎えして福岡の魅力を探るこの企画が、Podcastになりました!
ぜひ、こちらもご視聴ください。
福岡新風景:経営者と語る福岡の魅力#001 スローガン株式会社 北川裕憲さん