天神ビッグバン×働き方に関するセミナーが開催された!
マスクもせず、友人とだべりながら自転車で天神コアへ向かった青春時代。スーツを着て、一人汗をかきながら渡辺通りを横断したサラリーマン時代。今、天神のまちはあの頃の延長線にあっただろう未来とは、明らかに違う未来になっている。
マスクをして、会話も挨拶すらもない天神を歩く人々。オフィスへ出勤する人も減ったのか、営業先への訪問もリモート化したのか、西鉄福岡天神駅にも地下鉄天神駅にも、スーツを着たサラリーマンは少ない。何より、天神のまちのいたるところが仮囲いだし、行列のある飲食店もない。天神には現在、活気がないように見える。
2021年2月現在、これから天神は未来をどう描いていけば良いのだろうか?緊急事態宣言が福岡県にも発令となる前日の1月15日、『天神ビッグバンから考えるニューノーマル~都市再開発で変わる「街」と「ワークスタイル」~』というセミナーが開催された。
場所は無重力空間のオンライン、参加者はパソコンやタブレットやスマホといったデバイスからアクセスして聞き耳を立てていたに違いない。主催はオフィス家具のメーカーであり、日本中でオフィスの働きやすい環境づくりを手掛けている株式会社オカムラ。
オカムラ社主催のオンラインセミナーの告知用画像
そんなオカムラ主催のオンラインセミナーに、九州大学大学院で都市デザインの専門家である黒瀬武史先生とともに、わたくし岩永が登壇させていただいたのだ。
天神ビッグバンで変わるのは建物だけじゃない!
セミナーはいったいどのような内容だったのか?都市再開発で変わる「街」と「ワークスタイル」が、どのような言葉で語られたのか?
そして天神の、まちの形を大きく変えていくイベントである「天神ビッグバン」にニューノーマルが掛け算され、「ワークスタイル」にまで広げられた内容のセミナーに、いったいどのような人が参加(聴講)したのだろうか?
「天神ビッグバン」をテーマにしたビジネスセミナーだけあって事前申込のあった約200名の業種・職種は、都市開発・デベロッパー系、福岡地場大手企業、設計事務所、そして「ワークスタイル」のテーマに関心があったと思われる多様な企業の総務・人事などの部署の方が参加されていたそうだ。
そのような方々のセミナー後のアンケートでは、このような声が上がっていた。
「天神がどう変わっていくか、どう変えていくべきか、どう使えるかというところがわかりやすく、また変わっていく天神に期待したいと思いました。」
「都市にどのような場所が求められているか、という考え方と大型再開発とを結び付けて議論されている点で非常に参考になりました。自社の事業とどのように結び付けられるかを考えながら拝聴しておりました。」
セミナーでは、オカムラ社が運営する「WALK MILL https://workmill.jp/ 」というメディアの編集長をしている山田雄介さんがモデレーターを務め、岩永と黒瀬先生が紡いでいく言葉を、グラフィックレコードで可視化していく手法も取り入れられた。
グラフィックレコード、通称グラレコとは、会議やトークセッションなどの場で、何が話されていたのかを、その場で構造化しながら1枚のイラストのように仕立てていく技法である。今回グラレコを福岡地場で活躍しているグラフィックレコーダーである德永美紗さんが担当した。
トークをもとに描かれたグラレコを紹介
セミナーではモデレーターを務める山田編集長が投げかける3つのテーマについてトークが繰り広げられた。
①まちの共用スペース(リビング)について
②都市の価値・意味とは?
③これからのまちのあり方を言葉で表現すると?
黒瀬先生によるスライドで、共用部の使い方・あり方が起点となった
これについて出てきたキーワードは
・街の共用部
・グレーゾーン
・溶ける
・ノイズ
そして最後に出来上がったグラレコがこちらである。
60分のトークをリアルタイムに德永美紗さんがグラレコして可視化
詳細のレポートはオカムラ社運営の福岡の共創空間TieのWEBサイトにあるレポート記事(後述)を読んでいただきたいが、ここからは当日セミナー内で話された内容をもとに、『天神ビッグバンから考えるニューノーマル~都市再開発で変わる「街」と「ワークスタイル」~』について、ふりかえりをしてより深めてみたことを記述してみたい。
天神ビッグバン×ニューノーマルとはどういうことなのか?
そもそもニューノーマルという言葉が登場した2020年、直訳すると「新しい常識」「新しい普通」。新しいということは、これまでの常識や普通がオールド化する、つまり古くて一般的ではなくなるということだ。
天神ビッグバンという福岡の都心部に掛け算される、ここで言うニューノーマルとは何なのか?まずはこれまでの天神ないし都心部における常識とは?普通とはなんだったのだろうか?
✔ 平日は毎朝、電車やバスに乗って定時出社する
✔ ミーティングは会議室で行われる
✔ 仕事中に部下や同僚に気軽に相談したり雑談したり
✔ 県外への出張へは交通費+日当が出たり
✔ ランチはオフィスから歩いていける飲食店に同僚と
✔ 新年会、忘年会、歓送迎会、職場での定期的な飲み会
✔ 休日のオフィスビルは閑散とし、商業施設や飲食店はいっぱいで
✔ 公園や公開空地ではイベントが開催されている
もちろん事象によってオールド化の進行のグラデーションはあれど、このコロナ禍によってもう元に戻らないものもあるのではないだろうか。そして、天神という「人が移動し、集まって、活動や交流が起こる」ことで、その都市としての価値を高めてきた場所に、そもそも人が前ほど集まらなくなっている。
そう、現在起きていることはオールド化しつつあるこれらのノーマルが、「人が集まる」という多くのノーマルが寄って立つノーマルが倒れたことでドミノ倒しが起きている。
つまりニューノーマルとは、この「そもそも同じ時間、同じ場所(エリア)に人が集まる」という前提が崩れたということだ。そう考えると、日本はこれから確実に人口減少していくし、人口が増加している福岡市でも生産年齢人口は上げ止まり、減少する段階に入っている。
ということは、ここで言うニューノーマルは、新型コロナウイルスが来ようが来まいが、いずれ来た未来の常識だったわけだ。
その前提に立って、今回のオンラインセミナーで山田編集長が投げかけた3つのテーマをもう1度見てみよう。
①まちの共用スペース(リビング)について
②都市の価値・意味とは?
③これからのまちのあり方を言葉で表現すると?
天神というまちが持つ価値を再定義しよう
この「人が集まる」というノーマルが崩れ、明らかに変化が進みそうなことがある。それは「平日は毎朝、同じ時間にオフィスに出勤する」や、「会議室に集まってミーティングする」といった行動だ。
政府も企業のDX化(DX:デジタルトランスフォーメーション)に本腰を入れ始めており、ミーティングはおろか、営業活動でさえオンライン化している企業もある。
ここにもう1つのニューノーマルが加わるとすると、それは「働き方」だろう。政府がDX化とともに近年推進が始まっている「副業・兼業」も波がじわじわと大きくなっている。
リモート化が進めば進むほど、これまで「オフィスの人員許容量」や「場所・アクセス」で制限されていた雇用できる人数に悩まなくて良くなるし、福岡に限らず九州中・日本中からプロフェッショナルをプロジェクト単位で参画してもらうことが可能になる。
そんな世界では、わざわざオフィスに、わざわざ天神に、集まる意味や価値とは?
そうなると、天神ビッグバンという多くの人が集う場が再構築していく中で、天神というまちやそこに構えるであろうオフィスは、「どのように集まってもらうか」「どのような人に集まってもらうか」、そして「どのように交わらせるか」が鍵となる。
この「どのような」をどう定義するかに、天神にオフィスを構える企業としての思想や文化が現れ、天神という“いち地域”にオフィスを構えたい、店舗を構えたいと思う企業や個人の集合体が、これからの天神の風土をつくっていくことになるだろう。
改めて、黒瀬先生と山田編集長と話した60分をふりかえると、私はこう考える。
天神や博多を含む、博多湾を囲んだ福岡というまちは古来より人が行き交い、多くの神事や祭りが行われた「開かれた」土地柄だ。
天神ビッグバンで新たに建つ建物が「開かれた」ビルになっているかどうか、セキュリティの課題はあれど、そのビルやビルとビルの間にある名もなき空間で、どれだけ「異分野のことに出会えるか」「新たな刺激を常にもたらしてくれるか」が、人がわざわざオフィスに通い、天神へ通う最大の意味になっていくと思っている。
セミナーの最後に山田編集長が黒瀬先生と私に振った「③これからのまちのあり方を言葉で表現すると?」への回答。
「これからのまちのあり方を言葉で表現すると?」の問いに答える2人
黒瀬先生は「混」。
そして私は「促」。
未来の天神のまちが、ハード×ソフトでこれらを実装できるまちへアップデートできるか、それはきっと私たちの行動にかかっている。福岡のあらゆるものの関係性を繋げるハブとなってきた天神というまちを、つくっていくのは誰でもない、私たちなのだから。
あなたは天神で、そして福岡で、誰と、どんな繋がりを生み出したいと思いますか?
<参考サイト>
天神ビッグバンから考えるニューノーマル~都市再開発で変わる「街」と「ワークスタイル」~開催レポート