「天神ビッグバン」って、何?①

「天神ビッグバン」で、福岡市・天神を一変させる計画について解説。

九州最大の繁華街、福岡市・天神地区で、商業施設の閉店ラッシュが始まっています。そして、数年後には、これまでなかった高さ100m級のビルが登場します。これを可能にした福岡市の再開発促進事業「天神ビッグバン」計画は、私たちの目の前に一体、どのようなまちを出現させるのか。シリーズで探ります。

[天神ビッグバンとは?】

アジアの拠点都市としての役割・機能を高め、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト。
天神駅(天神交差点)を中心に、半径500m圏内を対象としたエリアで行われている再開発である。2015年に発足したプロジェクトで、2024年までに30棟の民間ビルの建て替えを目標に掲げている。

飲食店の閉店でランチの行き先に困るサラリーマンやOL、その一方で再出店をあきらめる経営者たち

福岡ビル、天神コア、天神ビブレ、メディアモール天神(MMT)、イムズ…。このところ、天神地区でビルの建て替えや商業施設閉店のニュースが相次いでいる。

それに伴う飲食店の閉店も50店舗以上に上り、サラリーマンやOLの間では、ランチの行き先に困るという声が漏れてくる。そして、テナントの経営者たちからはいったん閉鎖後の再出店をあきらめるという声も上がっている。

老朽化したビルの建て替えに伴うものであるが、ここにきて急に動き出した背景には、福岡市の再開発促進事業「天神ビッグバン」計画がある。

天神の多くのビルは建て替えの更新期にあった。しかし、容積率の規定がこれを阻んでいた

天神地区を再開発して、アジアで最も創造的なビジネス街を目指す動きは早くからあったが、都心部再開発のネックの1つがビルの容積率であった。1973年の都市計画法改正で、福岡市の場合、都心部における容積率は400~800%に指定された。

それ以前に完成し更新期を迎えたビルは、規定自体がなかったため指定容積率を超えるものが多数あり、既存の10階建てのビルが8階までしか認められないといったことがあった。

賃貸ビルは、駐車場や駐輪場の付設義務、パソコン機器などの普及で1階あたりの階高も高くなっており、5割り増しぐらいの容積率が認められないと建て替えに踏み切れないという指摘もあった。

交通渋滞など都市の弊害や来街者の減少なども見受けられ、危機感を抱いた天神明治通り地区の地権者11者は2008年6月、「天神明治通り街づくり協議会」(MDC)を立ち上げ、福岡市に対して機能更新における計画を提案した。

対象エリアは、東は那珂川畔から西は天神西通りまでの約700mの区間南北は明治通りを中心にそれぞれ概ね1街区(約80m)の幅を持つ約17haのエリアであった。

同地区には、約100棟のビルが立ち並ぶが、約半数が築40年を超えて更新期にあたり、大きな転換期を迎えていたのである。

■天神明治通り地区対象エリア


(天神明治通り街づくり協議会HPより) 

容積率の特例制度と公開空地などの割り増しを含めると、600%の緩和が可能となった

福岡市は2008年8月、「福岡市都心部機能更新誘導方策」を策定し、容積率超過建築物の円滑な建て替え促進を始めた。この方策は既存の税制・融資・助成等の活用を図る施策でもあった。

新たに導入された「まちづくり取組み評価」では、「九州・アジア」「環境」「魅力」「安全安心」「共働」の5つのテーマを評価項目に設定し、貢献度に応じて最大400%の容積率を緩和できる画期的な試みであった。

容積率800%の土地なら400%上乗せし、さらに公開空地による割増を加えると最大1400%まで可能になった。

また、2012年1月、福岡市は「特定都市再生緊急整備地域」(特定整備地域)に選定された。その内容は、重点的に市街地を整備して都市の国際競争力の強化を図る地域のことである。

これによって、官民協議会による計画作成、財政支援、手続きのワンストップ化、都市計画決定の迅速化が可能となった。

高層ビルの建設を制限していた航空法の高さ制限が、「国家戦略特区」の特例で緩和された

2014年3月、国の経済活性化のために地域限定で新たな規制・制度改革の提案が可能となる国家戦略特区として、福岡市はグローバル創業・雇用創出特区」に指定された。

政令指定都市の中で最も高い開業率・人口増加率・若者率などを背景に、起業・新規事業に最適な都市として「グローバル・スタートアップ国家戦略特区」を提案していた。

福岡は、空港が近いため航空法の高さ制限があり、空港の利便性と引き換えに、都心部の高層ビル建設が大きく制限されている。

福岡市は「特区」による規制緩和の一環として、航空法による建物の高さ制限のエリア単位での特例承認を提案。

2014年11月、天神明治通り地区で認められる高さが示された。同地区では福岡市役所本庁舎の屋上に設置された避雷針の高さである地上高76.1mが最高点であった。

これを目安に街区内の建物は約67m(地上15階)から76.1m(地上17階)の高さまで建てられるようになり、既存のビルに比べて最大で約10m高、階層で2階分の上積みが可能となった。

2017年7月、航空法による高さ制限は再緩和され、旧大名小跡地は約76m(地上17階)から約115m(地上26階)に、福岡市は天神交差点付近ではさらに高い建物が建てられるように求め、同年9月に明治通り地区西側で同じく約76mから約115mに、東側でも約76mから最大約100m(地上22階)まで緩和された。

■国家戦略特区による高さ制限緩和特例の経過 

国家戦略特区指定をきっかけに始まった「天神ビッグバン」に期待される効果とは?

国家戦略特区指定をきっかけに、2015年2月、福岡市はアジアの拠点都市としての役割・機能を高め、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト「天神ビッグバン」に取り組むと発表した。

容積率緩和を独自政策として実施、都市機能の大幅な向上と増床を図るとともに、雇用創出に対する立地交付金制度の活用や創業支援、本社機能誘致などハード・ソフト両面からの施策を組み合わせて推進する方針であった。

対象エリアは天神交差点から半径約500m天神明治通り地区を含む約80haで、2024年12月末日までに竣工予定のビルが対象であった。魅了あるデザイン性に優れたビルには既存の容積率特例制度に加えてさらに最大50%拡大される。

これにより向こう10年間で30棟の民間ビルの建て替えを誘導し、その延床面積は約1.7倍(44万4000㎡→75万7000㎡)、雇用者数は約2.4倍(3万9900人→9万7100人)、建て替え完了後から新たに毎年約8500億円の経済波及効果を見込んだ。

第1号として2017年1月には、天神ビジネスセンタープロジェクトが始動した。

「天神ビッグバン」の主なプロジェクトは下図表の11項目であるが、これによって付加価値の高いビルへの建て替えなどがスピード感をもって進み、ビジネスやショッピング・憩いをはじめ、人・モノ・コトが交流する新たな空間を生みだそうとしている。

しかも、航空法の高さ制限で高さ100m級の高層ビル建設はムリだと言われていた天神地区に、100mを超えるビルもお目見えする。既存のビルの高さの2倍程度のビルが立ち並ぶと、天神の風景はまさに様変わりする。

■天神ビッグバンの主なプロジェクト 


(福岡市HP「2024天神未来創造天神ビッグバン」より)

航空法高さ制限 エリア単位での特例承認(天神明治通り地区 約17ha、旧大名小学校跡地 約1.3ha)
官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」、スタートアップカフェ
天神1丁目南ブロック(地区整備計画策定、地下通路整備)
天神地下街仮設車路の有効活用(天神ふれあい通り駐輪場・地下通路)
旧大名小学校跡地まちづくり
水上公園
地下鉄七隈線延伸事業
交通混雑の低減に向けた駐車場の隔地化・集約化
都心循環BRTの形成
天神ビッグバンの奥座敷(西中洲)の魅力づくりに向けた道路整備と景観誘導
春吉橋賑わい空間の創出

■「天神ビックバン」の数値目標

>>次回「天神ビッグバン」って、何?②

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経済ジャーナリスト
神崎 公一郎
1952年、長崎県生まれ。早大卒。地方紙記者、月刊経済情報誌「エコノス」の編集長を経て、㈱プロジェクト福岡を設立、代表を務める。 現在、日本マーケティング協会九州支部の機関紙、西日本シティ銀行の広報誌の執筆・編集や地元企業の社史執筆に従事する。まちづくり、コンベンションに関心が深い。

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