バリカタってまずいの? 人気ラーメン店主が語る「硬麺の科学」

福岡をこよなく愛するライター大塚たくまが、福岡で起きていることを徹底深掘りしていきます。今回のテーマは、福岡のラーメンでおなじみの「バリカタ麺は美味しい?まずい?」。ラーメン好きの方もそうでない方も必見です。

こんにちは。ライターの大塚たくまです。

豚骨ラーメンを食べるとき、みなさんは麺の硬さを何と言って注文しますか?カタ?バリカタ?それともヤワ?ちなみにぼくは「ふつう」派です。

先日、こんなツイートを見かけました。


https://twitter.com/DevchanRamen/status/1514443067197386761

「バリカタやカタが美味い」が錯覚……?

あんなに注文する人がいるのに、そんなことがあるのでしょうか。博多ラーメンでぶちゃん高田馬場本店の甲斐さんに詳しくお話をうかがってみましょう。

本当に硬麺の「特性」を知った上での「好き」?


▲博多ラーメンでぶちゃん店主 甲斐さん

大塚

「バリカタやカタが美味いのは錯覚」とは、なかなか攻めた発言だと思いますが……。

甲斐さん

大前提として「他人の好みに口出しをしているわけではない」ということは強調させてください。ぼくが言いたいのは「本当に硬麺の特性を理解したうえで好きなのか?」ということなんです。


大塚

ちなみに甲斐さんは、やっぱりご自分で硬麺を注文することはないんですか?

甲斐さん

いいえ、食感が好きで、よくバリカタを頼みますよ。


大塚

頼むんかい!

甲斐さん

ただ「美味しい」と思ったことはありません。


大塚

……は? 怖い怖い。どういうこと?あまのじゃく……?

甲斐さん

いえいえ!!「好き」と「美味しい」は別なんですよ。美味しいか美味しくないかは、好みで片付けられるほど定性的で感覚的な話ではないので。


大塚

おお、なるほど。そんなこと、考えたこともありませんでした。

甲斐さん

まずは、エビデンスに基づき、素材のベストを生かすことが重要です。その上で、やっと好きか好きでないか、個々で判断できるようになります。


大塚

甲斐さんは、そういったエビデンスを含めても「美味しい」と思ったことはない、バリカタがお好きなんですね。

甲斐さん

あくまで福岡のラーメンならではの、唯一無二の食感を求めてバリカタを頼んでいます。バリカタが楽しいのは、博多ラーメン独特のものなんです。話すと長くなりますが……。


大塚

面白くなってきました。めちゃくちゃ興味あります。硬麺の特性を教えてください。

■硬麺の特性① 伸びやすい



大塚

硬麺の特性として、まず挙げられることは何ですか。

甲斐さん

「伸びやすい」ことですね。


大塚

イメージでは、硬麺のほうが伸びにくいですよね。

甲斐さん

それは、です。当店の茹で時間は、バリカタが10秒でカタが20秒なんですけど、その状態だと生煮え。生煮えの状態だと、麺の中に水分が入る余白がまだ残ってるんですよ。


大塚

なるほど。だから、スープの水分を麺が吸って、伸びやすいんですね。

甲斐さん

当店の場合、10秒で茹でたバリカタの麺は30秒で伸びます。


大塚

え、たった30秒?厨房でスープに入れてから、30秒ってことですか?

甲斐さん

そうです。盛り付け時間が10秒だったとしても、提供に2~3秒はかかりますよね。つまり、お客さんがバリカタを伸びない状態で食べられる時間は、15秒しかないんです。


大塚

そんな無茶な……。でも、ごまや胡椒を振ったり、写真を撮ったりすることもありますよね。そんなことしてたら、簡単に15秒なんて経っちゃいますよね。

甲斐さん

そうなんですよ。だから、伸びない状態でバリカタを口に含めている人って、ぼくの体感では10%いないですね。


大塚

みんなちょっと伸びた麺を食べているということか……。

甲斐さん

「伸びてもいいんだ、ちょっと伸びて『かた』の硬さになるのを計算済みだから」とおっしゃる方もいるんですけど、それは違うんです。


大塚

「伸びる」のと「茹でる」のは違う、ということですよね。

甲斐さん

そうです。麺は100度に沸騰したきれいなお湯でないと、茹で上がりません。


大塚

そうか。スープなんて、水と比べたら不純物もあるし、温度も全然100度に達していませんもんね。

甲斐さん

だから「バリカタ」が「カタ」になることはありません。茹でずに水分を吸い、弾力を失うだけです。


▲「でぶちゃん」ではメニュー表に明記されている

大塚

この「硬麺の方が伸びにくい」という誤解は根強いですよね。

甲斐さん

誤解されているケースが、まだまだ圧倒的に多いですね。じつは恥ずかしい話、一部のラーメン店主さんでも「硬麺の方が伸びにくい」と誤解されているケースがあるんです。


大塚

ちなみに「ふつう」にすると、麺はどれくらい伸びずに持つんですか。

甲斐さん

当店の場合は「基本」と呼びますが、10秒で茹でた「バリカタ」が30秒で伸びるのに対し、30秒茹でた「基本」は2分は伸びません。


大塚

わ、20秒しか違わないのに、かなり違いますね。ちゃんと茹で上がることの重要性がわかります。

甲斐さん

伸びにくさは全然違いますよ。

■硬麺の特性② コシがない



大塚

硬麺の特性として、他に考えられることは何でしょうか。

甲斐さん

「コシがない」ことですね。


大塚

そうなんですね。「硬麺のコシが好き」と思っている方も多いと思いますが……。

甲斐さん

コシって、茹で上がった時に生まれる弾力からくる噛み応えのことなんですよ。硬麺は茹で上がっていないので、半生で麺の芯が残っているだけです。


大塚

硬麺の硬さと、コシは違うわけですね。

甲斐さん

小麦粉は一定時間加熱し続けることで、「糊化」が起きます。小麦粉の中のデンプンが、水と一緒に加熱されることで糊状になることなんですけど。「アルファー化」ともいいます。アルファー化されないと、コシはできないんです。


大塚

茹で上がった麺ならではの「旨み」もありますよね。

甲斐さん

そうですね。アルファ化するタイミングで、グルタミン酸(旨み成分アミノ酸の一種)が生成されます。それが、科学的にも人が美味しいと思える状態に変化する理由ですね。

■硬麺の特性③ 雑味がある


甲斐さん

もう一つ重要なのが、硬麺には雑味があってラーメンの風味を落としてしまうことです。


大塚

雑味!?  そんな特性まであるんですか。

甲斐さん

中華麺を作る時って、麺に「かん水」というアルカリ塩水溶液を入れるんです。ラーメンの生麺を嗅ぐと、少し酸っぱい匂いがしますよね?


大塚

たしかに。独特の匂いがしますね。

甲斐さん

あれが、かん水の匂いなんです。かん水は茹でている間に、茹でているお湯の中に抜けていきます。だから、かん水の匂いは茹で上がった麺からはほとんどしないんですよ。


大塚

茹でると同時に、麺からかん水による雑味を抜く作業もしているわけですね。

甲斐さん

そうです。硬麺は、その「抜き」の作業が甘いので、麺にかん水の匂いが残っています。丹精込めてつくったスープの中にも、かん水が溶け出してしまうわけです。


大塚

それはちょっと、美味しくなさそうですね……。

甲斐さん

ぼくもかん水が溶け出たスープというのは美味しくないと思います。作り手としては、あまり食べて欲しくないラーメンになってしまうんです。

■硬麺の特性④ スープが絡みにくい


甲斐さん

あと、硬麺はスープが絡みにくいという特性もありますね。


大塚

どうして硬麺はスープが絡みにくいんですか?

甲斐さん

硬麺って、麺がゴワゴワしているんで、茹で上がった麺の形がきれいなストレートじゃないんですよ。グニャグニャした麺になっている。


大塚

あー。たしかに、そんなイメージありますね。

甲斐さん

それに比べて、茹で上がった麺はきれいなストレートになるんです。麺がストレートだと、麺と麺の間で毛細管現象※が起こり、表面張力でスープが麺と一緒にくっついてきてくれるんですよ。

※毛細管現象……細い管状物体(毛細管)の内側の液体が、外部からエネルギーを与えられることなく管の中を移動する物理現象である。毛管現象とも呼ばれる。(Wikipediaより引用)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%9B%E7%B4%B0%E7%AE%A1%E7%8F%BE%E8%B1%A1

大塚

硬麺はグニャグニャしているので、箸で麺を持ち上げた時に隙間が空いてしまって、スープが一緒についてきにくいんですね。

甲斐さん

麺をすすった時の美味しさは茹で上がった麺の方が美味しいはずです。れんげがなくても、麺がスープを持ってきてくれますから。

ここまで言う甲斐さんが硬麺大好きな理由は「食感」


大塚

これまでの硬麺の特性をまとめると、こうなりますね。



大塚

それで、まだ問題が残っているんですよ。ここまで硬麺のデメリットを挙げまくった甲斐さんご自身が「硬麺大好き」ってことです。

甲斐さん

好きですね〜。バリカタをよく頼みます。「好き」と「美味しい」は別ですから。


大塚

意味わかんない……。やっと硬麺が美味しくない理由に納得できたところだったのに。なんで、伸びやすくて、コシがなくて、雑味があって、スープが絡みにくい麺が好きなんですか?

甲斐さん

細麺の豚骨ラーメンでしか味わえない、唯一無二の食感が好きなんです。



大塚

でも、食感は「伸びやすい」わけだから、劣るんでしょう?

甲斐さん

だから、伸びる前に食べるんですよ。バリカタを頼む時は必ず「替玉」のタイミングです。最初に頼むと提供の時間で伸びちゃうでしょう。バリカタの唯一無二の食感を楽しみやすいのは替玉。


大塚

あ、そうか。替玉にすればいいんですね。

甲斐さん

かん水がスープに溶け出す前に、一気に素早く食べ切る。


大塚

でも、麺にはまだかん水の成分が残ってて、雑味があるでしょう?

甲斐さん

だから、じっくり味わわないようにするのも重要です。勢いよく、一気に食べる。すると、唯一無二の食感が楽しめます。この楽しみ方ができるのは、福岡ならではの、低加水の細麺のラーメンだけなんですよ。


大塚

確認ですけど、美味しいと思ったことはないんですよね。

甲斐さん

一度もないです。美味しくはない。バリカタに関しては「食事の楽しみ」のひとつですね。



大塚

ちなみに、硬麺に向いている麺ってあるんですか?

甲斐さん

細ければ細いほど、硬麺に向いています。


大塚

なるほど〜! わかってきました。では、甲斐さんは、普段どんな注文方法なんですか?

甲斐さん

最初の注文時は「ふつう」「基本」の硬さを注文して、食事として美味しいラーメンを味わいます。その後、替玉で「カタ」「バリカタ」を頼んで、素早く一気に食べて食感を楽しんでいますね。


大塚

「普通→バリカタ」と注文するわけか。マジでこれは試してみたい。

甲斐さん

個人的には「このお客さん、わかってるなぁ〜!」と嬉しくなる注文方法です。それぞれの麺の良さを活かせるので、ぜひ試してみてほしいですね。


大塚

よし、やってみます。貴重なお話をありがとうございました。

食べ慣れたラーメン店で「普通バリカタチャレンジ」

さて、家族でよく行くラーメン屋さんにやってきました。今日は甲斐さんからうかがった話をもとに、ラーメンを注文してみます。

今回の注文計画は以下の通りです。

まずは通常注文した「バリカタ」を焦らずに食べてみたときの食感を体感。

その後、替玉で「ふつう」の食感を思い出し、通常注文の「バリカタ」と比較します。最後に、甲斐さん直伝の「バリカタ即食べ法」を実践するという計画です。

まずはバリカタを注文。

提供されてからごまを振って、胡椒を振って。インスタ用に写真を撮って……。

麺を持ち上げると、確かにグニャグニャした麺と麺の間に隙間が。こんなことは気にしたことがありませんでした。

食べてみると、確かに表面はフニャッとしているけど、中央に芯があります。そして、かん水の酸っぱい匂いも残っていました。そうそう、これがバリカタ。

言語化したことはありませんでしたが、ぼくはこれがあまり好きじゃなくて、ふつう派だったんです。

その後、替玉で「ふつう」を注文。

ふつうの麺は、まっすぐにスープと一緒に持ち上がってくれました。確かに。これは全然違う。

食べてみると、びっくり。歯ごたえの強さは、バリカタと全然大差ないじゃないですか。ふつう麺でも、バリカタの麺と同じくらいの嚙み応えを持っています。ただ、歯ごたえの種類が違う。

バリカタは「ザクザク」した感じの歯ごたえですが、ふつう麺は「プチンプチン」と弾けるような歯応えです。スープもよく絡むし、麺全体に一体感があります。もっちりとしていてコシがありました。

「やっぱりふつう麺が美味しいなぁ」

そう思いましたが、今日は違います。もう一丁、替玉の「バリカタ」をいっちゃいましょう。

店員さんが丼に「バリカタ」を投入した瞬間……

一気にすする!!

なんだこれは!!!!

伸びていない「バリカタ」を初めて食べたのかもしれません。たしかに、これはすごい体験。ザクリザクリという圧倒的に強い歯ごたえ。一気にすすることで強引にスープを絡ませます。

味わうと雑味を感じてしまうので、味わう前にスープと一緒に一気に食べ切る。こんな楽しみ方ができるのは、福岡のラーメンならではだったんですね。

これまで、個人的に好みじゃなかった「バリカタ」の楽しみ方が知れてよかったです。これからは「普通→バリカタ」でラーメンをもっと楽しんでみよう。

ぜひあなたも、馴染みのラーメン店で試してみてください。面白いですよ〜!

<取材協力>
博多ラーメン でぶちゃん
■住所: 東京都新宿区高田馬場2丁目13−6
■公式サイト: https://barichan.shopinfo.jp/

その他、ラーメン記事もあわせてご覧ください!
>>ラーメンインスタグラマー「ラーメン女」の博多とんこつラーメン記事

>>俳画イラストでおなじみ「山田全自動」の福岡ラーメンあるある記事

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ライター・編集者
大塚たくま
福岡をこよなく愛する編集者。みんなが知っているようで深くは知らないことを徹底深堀して「実はここが面白い!」を見つけることを得意とする。グルメ・旅行の他、自身でスポンサーになるほどのアビスパ福岡サポーター。

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