凛と張り詰めた静寂を破る、午前4時59分的エモーション!私的ナンバーワンの「山笠映画」。 福岡映画 #03「網走番外地 悪への挑戦(1967)」

今年、戦後初の開催延期が発表された博多祇園山笠。せめて読者のみなさんに映画のなかで山笠を、と考えたとき、僕が知るかぎり最高の「山笠映画」は、本作を置いてほかにありませんでした。毎月、配信やソフト(DVD/Blu-ray)で楽しめる映画作品から、福岡が登場する映画を紹介していく「福岡映画」。第3回目は「網走番外地 悪への挑戦」です。

山笠の何がそれほど人々を魅了するのか

2020年4月20日、博多祇園山笠の開催見送りが正式に決定」。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、戦後初となる開催延期宣言が発表されたこの日は、多くの福岡人にとって歴史的1日として記憶されたに違いありません。

博多祇園山笠の何がそれほど人を熱狂させるのか?その理由は人それぞれだと思いますが、福岡生まれ福岡育ち37年目の筆者としては、祭のクライマックスにあたる「追い山」前夜から町全体を包む緊張と高揚が織りなす異様な静けさ、そしていよいよ山が舁き出される午前4時59分その瞬間の爆発的エモーションに、毎年沸き立つものを感じるのです。


©田中紀彦

沸点ギリギリまで高まった感情が、凛と張り詰めた静寂をついに破る、その瞬間。

劇中に山笠が登場する映画は数あれど、今回紹介する作品ほどにこの山笠的瞬間の爆発力をおさめた映画を、僕は知りません。

作品紹介の前に、ホントにスゴい「網走番外地」シリーズについて

「網走番外地 悪への挑戦」
1967年/90分
監督・脚本 石井輝男
出演 高倉健、嵐寛寿郎、谷隼人、田中邦衛、田崎潤、真理明美、川津祐介、波島進、由利徹、三原葉子、小林稔侍、石橋蓮司、前田吟

今回紹介する映画は1967年に「網走番外地」シリーズ第9作として劇場公開された作品ですが、詳しい内容に入る前に、まずはこの「網走番外地」という日本映画史に残る大ヒットシリーズについて紹介していきます。

当時「二本立て興行」が一般的だった映画量産体制下の邦画界で、貪欲にヒット作を求め続けた東映は1963年に「任侠映画」という人気ジャンルを“開発”します。

「網走番外地」もその流れのなかで生まれたシリーズで、第1作の公開は1965年。同社の任侠映画で人気が上がっていた高倉健(福岡県のご出身です)を主役に据え、大雪原のアクション脱獄ドラマとして公開したところ、これが予想外の大ヒット。即座に続編企画が立ち上がり、1作目の公開からわずか3ヶ月後に(3ヶ月後!)、「続 網走番外地」が公開されています。

以降「網走番外地」は東映の看板シリーズのひとつとなり、1965年から67年までの3年間のうちに10作(3年で10作…!!)、その後も制作体制を変更して8作、計18作品のシリーズとなりました。


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本シリーズがどれくらい人気だったのかは当時の興行収入ランキングを見れば明らかで、1965年と66年の年間邦画興収ランキングTOP10のうち、1965年には2、4、6位、1966年は1、3、9位とそれぞれ2年連続で「網走番外地」シリーズ3作品をランクインさせるという大快挙!破竹の勢いを得た国民的シリーズでした。

シリーズは初作で登場した登場人物たちを定番キャストとして、おおまかなキャラクター設定だけ引継ぎながらゆるく連続しつつも、基本は1作ごとで異なる世界観の単独話として完結していくもので(これ、言ってみればアメコミ映画の「マルチバース」的な拡張世界観と通じますが)、たとえばシリーズ5作目「〜荒野の対決」では健さん演じる橘真一が馬に跨がり雪原を駆ける西部劇となっており、脇の定番キャストもそれぞれ微妙に名前を変えて登場したりします。

今回ご紹介する「〜悪への挑戦」もシリーズ9作目だからといって「それまでのシリーズ8作品をおさらいしなきゃ…」とマジメをこじらせる必要はまったくナシ。まさしく気軽なプログラムピクチャーとして、軽やかに再生ボタンを押してお楽しみいただきたい一本です。

追い山が発動する午前4時59分的エモーション

ずいぶん前置きが長くなってしまいました。これより本作「網走番外地 悪への挑戦」のご紹介です。

網走刑務所を出所して、福岡に降り立った橘真一(高倉健)は、おじさんと慕う寅吉(嵐寛寿郎)の働く愛宕神社横の不良少年保護施設を手伝うことに。 

兄貴分として少年たちと友情を深めていく橘は、なかでもかつての自分とそっくりな生い立ちをもつ武(谷隼人)を見過ごせず、義兄弟の契りを交わし、ともにカタギを目指すことを誓います。

しかし地元の暴力団・門馬組は少年たちを次々と悪事に巻き込んでは使い捨て、ついには施設で働く春子(真理明美)にまで手が及び--。


劇中では愛宕神社がとても重要な舞台。ここに健さん来たんだな…と思うと、感慨深い。

シリーズ9作目ともあって観客の心を鷲掴みにする娯楽的“鉄板”展開は完璧に確立されており、90分の短尺のなかで見所シーンのつるべ打ち、観客の感情曲線をぶんぶん振り回しながら一気呵成にクライマックスまでなだれ込んでいきます。

登場する人物は誰もが過去に犯した罪と哀しさを引き受けた日陰者で、からこそ互いに向ける眼差しは厳しく優しい。軽口をはさみながらも相手と真剣に向き合い、面倒見の良い兄貴分を引き受けていく健さん演じる橘真一というキャラクターの包容力が本作の精神を支えています。

出来ることならワンシーンごとに取り上げて味わい尽くしたいほどとにかく最高な本作ですが、当コラムで紹介すべきはやはり、クライマックス。

施設の少年少女たちがひとりまたひとりと門馬組の手にかけられた無念を胸に、橘はついに長ドス一本握り締め、山笠の駆けめぐる博多の街の真ッ只中でひとり門馬組へと討ち入ります。

取り囲む門馬組、睨み合う橘。山笠の男衆たちが張り上げるオイサの掛け声が街を埋め尽くし、決壊寸前まで張り詰めた緊張がついに破られる、その一閃。

街を駆け巡る山笠の光景と、門馬組に斬り込む橘の姿を交互にカットバックさせながら、祭の熱狂をビートに代えて怒涛のエモーションがみるみる爆発していく--!

ここ、ここです。追い山が発動する午前4時59分、あの凛と張り詰めた緊張が破られる爆発的エモーションは、ひとりの男の敵討ちのドラマに形を変え、確かに映画に刻み込まれたのでした。最早このクライマックスを見届けていただくためだけでも、あなたの人生の90分を本作に預ける価値は十分にあると断言できます。まして、街を駆け抜ける山笠を見られない2020年の夏ならば、なおさらのこと。

最後に、本作には福岡の風景がたくさん登場するのも嬉しいところ。冒頭から築港本町の博多ポートタワーが登場したかと思えば、そこから中洲のクラブ街愛宕神社の境内、「博多湾干拓作業現場」として登場するのは現・愛宕浜付近人形小路大濠公園、そしてクライマックスには櫛田神社御供所の街並みを駆け抜ける山笠まで映り込む、福岡人としても腹いっぱいな「福岡映画」ぶりです。


当時の中洲付近の風景と見比べながら見るのも一興。

見終えた後にはセリフの真似なんかも交えながらみんなでワイワイやりたくなるような、アツく燃える至上の娯楽作品です。この夏、どうか皆さんにご覧いただきたい。
そして街で筆者を見つけた際にはぜひとも捕まえていただきこの映画の山笠的エモーションについて、目いっぱい語り合いましょう!

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映画ライター
三好剛平
1983年福岡生まれの文化ホリック社会人。三声舎 代表。企業や自治体の事業・広報にまつわる企画ディレクションをはじめ、映画や美術など文化系プロジェクトの企画運営を多数手がける。LOVEFMラジオ「明治産業presents: Our Culture, Our View」製作企画・出演。その他メディア出演や司会、コラム執筆も。

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