withコロナ時代の“福岡の未来”に何が必要か

福岡テンジン大学学長であり、WeLove天神協議会に長年参画してきた岩永氏の、withコロナ時代の福岡の未来に対する緊急提言です。

もはやビフォーコロナの時代が懐かしい


すっかり人気がなくなってしまった警固公園

2020年2月20日に、福岡市で九州初の感染者が判明して3カ月が経とうとしている。今年の正月、この1年が人類にとって歴史的な1年になるとは誰が予想しただろうか。確実に私たちは、その頃に描いた未来予想図の上に立っていない。福岡の都市としての魅力を高めてくれていた“交流”のある景色は、まちの至るところから消えた。もはやビフォーコロナ時代の風景が懐かしい。

多くの人がコロナ漬けとなっている中で、人々の行動が変容し、習慣が変わり、意識が変わる。今回は、WeLove天神協議会に長年参画してきた視点に、学びで「人とまちを繋ぐ」活動をしてきた福岡テンジン大学の視点を交えて、現時点でのwithコロナ時代の「福岡の未来」について考えてみたい。


講演時の様子

付加価値という価値に改めて気づいた

飲食店のテイクアウトが当たり前になった。自宅の近くにトンカツ専門店がある。テイクアウトのトンカツ弁当を買ってみた。すぐ近くにスーパーがある。お惣菜コーナーにトンカツがあったので買ってみた。専門店のトンカツと、スーパーのお惣菜のトンカツと、(弁当に入っていた他の食品を除いたとしても)値段が倍ほども違う2つのトンカツを、自宅という空間で食べてみる。果たして、専門店の味は2倍美味しいのだろうか?


実際に食べ比べしてみた。確かに味は違う。しかし、やはり何かが足りないのだ

飲食店で食べる食事は確かに美味しい、高級な飲食店ほど美味しく感じる。それは、その店がこだわった食材を仕入れ、腕のある料理人がつくり、彩られた空間とおもてなしというサービス、これらが総合されて美味しく感じることができる。そして「誰と一緒に行くか」で、食事という体験がさらに価値を高めてくれる。飲食店はその「誰」を用意したわけではないにも関わらず、「こんな人と共に行きたい」と思える体験がそこにはある。

外食ができない状況になって得た最大の気づきは、自宅やオンラインで得られる体験と違い、わざわざ足を運ぶことで体験できる食事やサービスが持っていた「付加価値」の正体についてだ。デザインされた空間に、作り込まれた食事と、情報が蓄積されたコミュニケーションに宿っている「コンテクスト」が、自分というリアルな身体と繋がる体験となることで、初めて「付加価値」を感じることができる。飲食店はまさにこの「体験」を提供していたのだ。

コロナがもたらした「分断」

世界各国が国境の扉を閉じた。都市からは活況が消えた。企業のオフィスや会議室から人の声が消え、飲食店から笑い声が消えた。今この瞬間、新しい人と人の繋がりはどうやって作れば良いのか、子どもたちはどうやって社会性を身に付けたら良いのか、誰しもが「当たり前」と思っていた常識が土台から崩された。


天神の待ち合わせのシンボルともいえるソラリアステージのビジョン前。見事に人がいない…

このウイルスは、人類がこれまで築いてきた文明の根幹である「社会性」を攻撃してきた。あらゆるところで「分断」が起きてしまった。

ここ福岡のまちは、2000年以上も「交流」によって栄え、より「交流」が促進される空気を、都市のDNAという形で世代を越えて蓄積してきた。その「交流」が積極的にできなくなった今、福岡というまちにとって史上最大の危機なのかもしれない。
(詳しくは時代の最先端が入ってくる都市に根付く“DNA”とは?をご一読頂きたい)

「#おもちかえりなさい」というクリエイティブ


天神の街ネタが数多く掲載されている天神サイトの天神のおすすめテイクアウト! #おもちかえりなさい で投稿しよう!にて情報解禁された

7都府県に緊急事態宣言が出る前、4月1日にTwitter上に突如現れた「 #おもちかえりなさい 」。そのハッシュタグとともに、SNS上に飲食店の情報やテイクアウトの食事の写真などを投稿する人が増え、飲食店自身も投稿するようになっていき、今では他県にまで広がりムーブメントとなった。


LOVE FMのプロデューサー下田浩之さん

これを発案したのは、天神に拠点を置くLOVE FMのプロデューサー下田浩之さんだ。飲食店の客足が減少する中で、各お店単位がテイクアウトの情報を発信することに限界を感じて「誰もがポジティブに参加できるものにしたかった」と企画したという。

下田さんは「使いやすいハッシュタグにすることで、1つ1つの発信が連鎖し、繋がっていくことでムーブメントになれば」と語った。たった1日でアイデアを形にし、デジタル空間を使ってリアルな飲食店と消費者を結び、結んだ線を可視化していくことでムーブメントにした下田さんの「クリエイティブ」は見事である。

この取り組みは、世界的な感染拡大が起きる中で、国連が3月31日に世界中のクリエイターに促進した6つのアクションのうちの1つである「やさしさの伝染(Kindness contagion)」をまさに生み出した。コロナがもたらす「分断」に、クリエイティブで「繋がり」を生み出したのだ。

福岡の都心をアップデートするのに必要なものは何か


緊急事態宣言後の平日正午ごろの天神地下街。アブローダー氏のコロナショックから考える、福岡のリモートワーク。でも言及されていた通り、天神地下街もこの通り…

2013年に東京オリンピックの開催が決定し、これに向けて日本は多くの計画と準備をしてきた。これほど壮大なプロジェクトが延期になった。ここ福岡のまちで、すでに動き出した天神ビッグバンや博多コネクティッドは、その計画を支えていた前提が変わってしまう可能性すらある。

刻一刻と状況が変わり、少し先の未来も不確実で、問題は非常に複雑であり、実態は不透明だ。これら4つの状態を英単語で表す「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」を略して、「VUCAの時代」という言葉が近年登場したが、コロナによって一気に加速してしまった。

今の状況が天神や博多の都心部に突き付けているのは、今後も新たな感染症リスクに備えて「密」を避け、それでも「交流」をなるべく絶やさずに経済活動を促進し、「人と人を繋げる」場が生み出せるかどうか、都市空間の「付加価値」を問われることだ。

これまで都心部でメリットを享受してきた企業や行政機能は、都心に集約する必要性が薄れてしまう。その中で、これからの福岡のまちの“あり方”は議論の必要があると思っているが、キーワードはやはり「繋がり」だろう。

コロナがもたらした「分断」に福岡のまちが対抗するには、2000年以上培ってきた「交流」の文化と、新しいものを受け入れる「気質」、そして人々の「福岡のまちへの愛」が必要だ。まさにこれらのコンテクストが、福岡のまちの中で「人と何かが繋がる」という体験そのものに「付加価値」を与えてきてくれた。

「分断」に立ち向かうための、福岡のまちが持つこれら三種の神器を、未来に向けて最大化できるかが、これからも福岡の都市構想になるのではないだろうか。

withコロナ時代の福岡へのワンピース

2019年に発刊された山口周 氏の著書「ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」の視点でこれまでの都市を眺めると、規律的で上意下達が得意な、計画的で責任感の強い「20世紀的優秀な人材」の活躍の場が多かった。

ところが、このウイルスの出現によってVUCA時代は一気に前倒しされた。VUCA時代における優秀さの定義は、問題を発見し、現象に意味を与え、多様な人々とのネットワークやシェアのスキルを活かし、構想を提示できること変化スピードの速い状況に応じて、適応していくための学習力が鍵を握っていること、だ。

福岡という都市のDNAには、なぜか「このまちに来た人を好きにさせる」力がある(福岡人が「福岡っていいところやろ?」と言ってしまう深い理由!?参照)。この力が存在する限り、多様な人々が繋がることで起きる「対話」が、デジタルや科学によって可視化することも可能になる。可視化されることで多くの人と共有することができ、全体の「学習力」を底上げすることにも繋がる。

これらの新しい優秀さを兼ね備えた人材とともに、多様な人々をファシリテートして「対話」を生み出し、「学び合い」を起こせる人材が、福岡が持続可能なまちであるために一層望まれるのではないだろうか。

 

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福岡テンジン大学 学長
岩永 真一
福岡市で生まれ育った生粋の福岡人。就職氷河期世代で内定ゼロで社会に出るも、天神でゴミ拾いをするNPOグリーンバードに出会い参加し、街をつくる人たちと出会い人生が変わる。2010年に福岡市と共働で「学びで人と街をつなぐ大学」の福岡テンジン大学を立ち上げ学長を務める。

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