古代エジプト時代から続くファッションの技法「プリーツ」
そもそもプリーツとは何かご存じですか。プリーツは、英語で「ひだ」「折り目」を意味する「pleat」の複数形で、連続したひだを指します。では、プリーツはいつ頃からあるのでしょうか。
尾﨑:私の名刺に「プリーツは古代からの贈りもの」と書いているように、今から3000年ほど前の古代エジプト時代にはすでにありました。当時の壁画にプリーツの腰巻をした人が描かれているんですよ。
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プリーツには、腰に巻いて広がった方が使いやすいという機能性と、贅沢品の生地をふんだんに使うことで権力を象徴するという2つの意味がありました。時は流れて現在、私たちが近代プリーツと呼んでいるのは、戦後に日本に入ってきたもので、ポリエステルに熱をかけて形を記憶しています。女子学生の制服のスカートにもウールですがプリーツが使われていますね。
創業42年、プリーツを生かして美しさを創造
オザキプリーツが福岡市で創業したのは、今から42年前、1979年のこと。淳さんの父・尾﨑義行さんが創業者であり、75歳になった今も社長として第一線で働かれています。
尾﨑
それからはプリーツ一筋で、多様な種類を手がけています。私たちは加工業者でありながら、単にお客様に言われてプリーツを加工するのではなく、自分たちでプリーツの洋服を作り、アパレル会社に提案して一緒に開発するスタイルが特徴です。父は創業時から加工技術はもとより、ゼロから創造することに重きを置いていました。
なるほど、尾﨑さんの名刺には、「女性の美を創造する永遠のテーマ」という文字も並んでいます。
尾﨑
取締役専務兼営業部長の尾﨑淳さん
そんな企画力を誇るオザキプリーツには、国内外のさまざまな有名ブランドから声がかかります。
尾﨑
企画はもちろん、技術力を高めることにも力を入れてきました。父は長年、天然素材の綿にプリーツをかけたいと願い、研究を重ねて、2011年ついに綿100%のデニム生地にプリーツを施し、洗ってもプリーツがキレイなままという技術「MAX PLEATS」で特許を取ることができました。これは世界唯一の技術です。ほかに「Pli ORIORE」と名付けた特許もあります。
最近のプリーツブームで愛用者のすそ野が広がった
今まで深く考えたことのなかったプリーツの世界に、どんどん興味が湧いてきました。では、素朴な疑問をぶつけてみましょう。
ーまず日本のプリーツ業界は、どんな状況なのでしょうか。
尾﨑
数え切れないほどのプリーツのサンプルが並ぶ
ー最近はプリーツブームが続いているように感じます。
尾﨑
ー中国をはじめ海外製の洋服が増えています。日本製と中国製のプリーツに違いはあるのでしょうか。
尾﨑
ープリーツの良し悪しには、どんな基準があるのでしょう。プリーツを長く保てるかどうか、などでしょうか。
尾﨑
オザキプリーツを認知してもらうために、クラウドファンディングに挑戦
コロナ禍でファッション業界が低迷する中、オザキプリーツは2021年の夏、新たな一歩を踏み出しました。オリジナルのアイテムで、Makuakeのクラウドファンディングに挑戦したのです。岩田屋の定番コレクションに出したオリジナルのスカートが1週間で1,000万円売れた実績があり、近年は楽天モールでの販売もスタート。さらにクラファンをしようと思ったのは、未来への布石だと言います。
尾﨑
アパレルは"6割売れればOK"といわれる世界。サステナブルな取り組みの大切さ
商品として出したのは、きれいなプリーツが長く続く、毎日着たい「くつろぎデニム」。美しくゆったりしたシルエットで、ビジネスでも自宅でもシーンを問わずに幅広く使えて、自宅で洗えることもポイントでした。
2021年6月9日に販売を始めると、公開からわずか30分で目標金額の50万円を達成。最終日の7月9日、目標達成率783%の約390万円、181人の応援購入で幕を閉じました。
尾﨑
購入者は関東在住の30~50代がメインで、女性7割に男性が3割。うちをご存じなかった方ばかりだと思います。さらに、クラファンをきっかけに新たな仕事の相談をいただいたり、面白い展開につながりました。
予想以上の手応えを得られた一方で、苦労もあったようです。
尾﨑
昨今では、服の回収を行い、回収した服を新たな素材にリサイクルする取り組みや、廃棄予定だった洋服に新たな価値をプラスする“アップサイクル”などの取り組みを行っているアパレルメーカーなどもちらほら。私自身も、量産した洋服が廃棄されてしまうことに大きな問題意識を持っていますが、量産工場として無駄といわれる大量生産によって生産効率が良くなり工場が潤うという側面もあります。その我々が受注生産で必要な分だけ洋服をつくるという点はとても意義を持った取り組みだったと思っています。一つひとつの工程をいつも以上に丁寧にして作り上げるのは大変な反面、スタッフにとって、とてもいい機会になりました。
九州で唯一のプリーツ会社となったオザキプリーツの生き残り戦略
そして、クラファン第2弾として、2022年1月8日(予定)から本格的な5ポケットのデニムジーンズにプリーツを施した商品の受付をスタートします。
尾﨑
クラファンはオザキプリーツにとって生き残り戦略のひとつであり、未来への大切な架け橋となっています。
尾﨑
ファッショナブルでユニークなプリーツ加工
一方で、クラファンで自社ブランドを知ってもらい、他にはない、うちならではの商品を生み出して、自社のサイトで販売していこうと計画しています。メーカーとしていいものを作り、それがほしいと言ってくださるお客様に直接提供する。過度な価格競争にさらされず、妥協することなく、いいものを作ることにこだわりたい。数年先ではなく、数十年先の未来を見据えて、SDGsやサステナブルを意識しながら、私たちは自分たちが理想とするメーカーの姿を目指していきます。
普段何気なく着ていたプリーツに、こんな世界が広がっていたなんて!尾﨑さんのお話も、見せていただいたプリーツづくりの現場も、新鮮な発見だらけでとてもワクワクしました。日本のアパレル業界は、作る人と買う人の間にたくさんの手が介在して、ともすれば無駄が生まれがちです。磨き上げてきた企画力と技術力をもとに、「いいものを作って、ほしい人に直接届ける」という本来あるべき姿にチャレンジする尾﨑さんの横顔は、頼もしく楽しげで、未来への希望に満ちていました。