孫正義氏や堀江貴文氏といった突出した経済人も通った、久留米大学附設高校
福岡県南部の中心都市・久留米市で1928年(昭和3)に設立された旧制・九州医学専門学校が学制改革による新学制の下で新制・久留米大学となった同じ年の1950年、久留米大学附設高校は、私立男子校として開校。
1969年からは、中高一貫となった(現在は男女共学)。
多くの医師を輩出している一方で、孫正義氏や堀江貴文氏といった突出した経済人が通っていたことでも知られる。
東京大学の進学実績も、九州からは鹿児島のラ・サール高とともに上位にランクインする。
「附設出身者が優秀とみられているのは、後輩たちのおかげですよ」と語るのは、2014年から3年間、同窓会の福岡支部長を務めた松雪恵津男さん。中高一貫に移行する直前、高校のみの最後の期である22回生(1974年卒)である。
同窓会の福岡支部長を務めた松雪恵津男さん
松雪さん
その後、彼ら23回生が卒業する1975年に、東大に30人が合格して、週刊誌などで一躍校名が広がったと記憶しています。
実際、東大合格者数を出身高校別で特集した週刊誌報道によると、久留米大学附設高は前年まで一桁だった東大合格者数が1975年に一気に30人になっている。その後、1990年代は30人から40人、近年は50人という年もある。
OBは、地場企業の社長やベンチャー創業者、有名進学塾の代表、国会議員など多種多彩
久留米大学附設高OBで福岡経済界の若手経営者の一人が、地場大手物流会社・福岡運輸で社長を務める富永泰輔さん(41回生・1993年卒)。
東大経済学部を卒業後、祖母の富永シヅ氏が1943年に創業し、日本で初めて冷凍輸送車を走らせたことでも知られる福岡運輸に入社した。
社長就任は2012年である。
そんな富永さんが福岡経済界で交流のある一人が、2年後輩(43回生・1995年卒)の柳瀬隆志さん。
柳瀬さんも東大経済学部に進み、2000年に三井物産に入社。大手の外食チェーンやコンビニに向けた食材輸入の仕事に携わった。
2008年に地元福岡で有名なホームセンター「グッデイ」を運営する実家の嘉穂無線(現㈱グッデイ)に入社。2016年から社長を務めている。
柳瀬さんを取材させていただいた『データ分析システムもDIY?DXで増収増益を続ける「グッデイ」の取組み!』の記事はこちら
冨永さんや柳瀬さんと比較的近い世代(アラフィフからアラフォー)には、柳瀬さんも通った進学塾・英進館を運営する英進館ホールディングス社長の筒井俊英さんや、柳瀬さんの同級生で福岡発、東証マザーズ上場のバイオベンチャー・ヘリオスの代表執行役社長CEOの鍵本忠尚さんがいる。
このほか、孫正義氏の弟で実業家の孫泰蔵さんや、学問の神様の菅原道真を祀る太宰府天満宮宮司の西高辻信宏さん、スマホゲームアプリ開発のグッドラックスリー代表取締役CEOの井上和久さんらも近い世代である。
政治家では、参議院議員の大家敏志さん、衆院議員の古賀篤さん、太宰府市長の楠田大蔵さんらも同世代のOBである。
ずば抜けた人材の宝庫に囲まれての学園生活。その中で育まれた苦労と経験が、実業でも活かされる
前記の福岡運輸社長の富永泰輔さんは、在校時は中学時代からテニスクラブに所属。
現在はグループ10社、従業員約1,200人を率いる企業経営者だが、当時はクラス内でも「リーダーシップなんか全く取ろうと思わなかったです」と笑う。
グループ10社、従業員約1,200人を率いる福岡運輸社長の富永泰輔さん
富永さん
行き帰りだと1時間。
同じメンバーでしゃべったりゲームをしたりしていました。
いずれにしても大事な6年間を過ごしました。
また、グッデイ社長の柳瀬隆志さんは、国語が得意で、中学校の卒論では、内村鑑三の視点から新渡戸稲造の生涯をまとめた小説を書いて、コンクールで入選したことがある。
グッデイ社長の柳瀬隆志さん
柳瀬さん
それに比べれば、私の入選なんてまるで普通(笑)。
周りにずば抜けた人たちがたくさんいたので、『自分はできない人間だなあ』と常に思っていました。
「ただ、そういったことが今の仕事にも生きています」と柳瀬さんは続ける。
柳瀬さん
苦労して理解する分、自分の中で咀嚼して考える。
そうすると人にわかりやすく説明できるようになる。
分からない人の気持ちも理解できるし、自分が分かった時の感動を含めて伝えられる。
会社で、社員に教えるという場面もありますが、伝える力という意味では、役に立っていると思います。
入学者には医者の子弟だけでなく、実家が会社経営の子弟も増える
この世代を激励するのが、松雪さんだ。富永さんは、「松雪さんの附設愛がすごい」という。
松雪さんは東大法学部から日本開発銀行(現日本政策投資銀行)を経て、2009年に地場のディベロッパー・福岡地所に入社。
現在は、福岡都市圏はじめ九州に不動産物件を約30件保有する国内唯一の地域特化型リート(不動産投資信託)である福岡リート投資法人の資産運用会社・福岡リアルティの代表取締役を務める。
松雪さん
帰福後は、職場がある複合施設「キャナルシティ博多」にちなんで、“キャナル附設会”を立ち上げ、後輩OBたちと交流を深めた。
松雪さんは、後輩たちに次のようにエールを送る。
松雪さん
一方で、40代くらいの皆さんは、実家が会社経営をされているといった人が増えている気がします。
福岡という街は活気があり、若い人が多い都市。後輩の皆さんにはぜひ、地元福岡、九州を盛り上げて欲しいですね。
「個性的なことをした人を褒める」。そんな校風に注目が集まる
育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、著書の中で、名門校と呼ばれる学校の共通特徴として、自由、ノブレス・オブリージュ(注1)、反骨精神の3つをキーワードに挙げる。
注1:身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。
では久留米大学附設高はどうかというと、富永さん、柳瀬さん、そして松雪さんも、校風は「自由だった」と口を揃える。
柳瀬さん
『ほかの人がやっているからこうやれ』なんていうことはなくて、個性的なことをした人を褒める、そんな感じでした。
結果、個性的な人が多いのだと思います。
数学者で元久留米大学附設中・高校長の吉川敦氏は、在職中の2015年度の入学式で、世界中の同世代と一緒になって立派な仕事をすることが大切、としたうえで、その際には、「自由で柔軟な姿勢を養わなければなりません。
自分を信じる力、自由にものを見る力、そういったものを基礎にして筋道立てて、素直に、自由に、ものを考える力、そして、自由に行動する力、こういう力が絶対に欠かせません」と述べている。
こういった自主性を重んじ、「個性的なことをした人を褒める」という校風が、孫氏や堀江氏を生む土台になったのかもしれない。
そして、この二人に負けない“個性的な”附設OBの経済人たちが福岡でも活躍しているわけで、彼らがこれからの福岡の街をどのような姿にしていくのか、注目したい。
<参考文献>
おおたとしまさ『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新書)
吉川敦『〈進学校〉校長の愉しみ 久留米大学附設での9年』(石風社)