下味付きのミールキットを開発。産地から食卓へ手軽に安く
ベンナーズ代表の井口剛志さん(25)は、起業後の2年間を振り返り、手応えを語る。
井口さん
ベンナーズ代表の井口剛志さん
事業の柱の一つに「うみ(海)」と「のうち(農地)」の生産物を直接「おうち(消費者)」に届ける「うみのうち事業」がある。
家庭向けの商品「ミールキット」は、捕れた魚を鮮度が落ちないその日のうちに、食べやすい大きさにカットして、こだわりの調味料を加えて真空パックする。1パックは2人分で、そのまま食べてもよい生食用、焼いたり煮たりひと手間加える加熱用があり、レシピも同梱している。
井口さん
ひと手間かけて揚げてもよし、そのまま食べることができる「ミールキット」
ブリのごま付け丼セット
好評だったクラウドファンディングを経て、現在、加工工場を整備し本格稼働に向けて準備中だ。1パック450円程度を予定している。
また、「特盛鮮魚パック」という商品は、複数種類の魚をそのままの形で届け、さばき方や調理方法などの説明書を付けている。4㎏5,000円で飲食店を中心に喜ばれているという。
盛りだくさんの「特盛鮮魚パック」
規格外の魚を捨てずに活用。もったいない魚が多すぎる
「ミールキット」「特盛新鮮パック」とも市価の半額から4分の1程度の安さだが、理由がある。規格外の魚類を盛り込んでいるからだ。
規格外というのは形が不ぞろいだったり、同じ種類でも取れすぎたり少なかったりして市場ルートから外れたもの。近海で捕れる魚は約3,800種類とされるが、消費者の目に触れるのは約20種類にすぎない。
井口さん
市場で流通しないなら、食べやすくして漁業者と消費者を直接結べばいいと考えました。無駄もなくなりますしね。
ハンマーヘッドシャーク。「から揚げにしたら超美味だ」と井口さんもお薦め
出しゃばり過ぎない下味と鮮度、安全性を飲食業のプロが支援
井口さんが自信を持つ「味付け」を支えるのが22年間、飲食業を続けてきた株式会社パノラマ(福岡市中央区)の斉藤裕輔社長(45)だ。
株式会社パノラマの斉藤裕輔社長
斎藤社長
「ミールキット」でこだわったのが、そのまま刺身でもうまいが、揚げ物や焼き物もできる下味を付けることだ。
斎藤社長
同時に安全と鮮度を両立させるため瞬間冷凍にこだわった。
「特盛鮮魚パック」に付ける説明書も斉藤さんのオリジナルだ。斎藤社長は、若きスタートアップ起業者をこう評価する。
斎藤社長
斎藤社長手づくりのタイ料理
高校を中退し、渡米。大手商社の内定を断り、自ら会社を設立する
井口さんは柔らかい口調ながら、非常に論理的だ。無駄のない説得力のある数字がよどみない。
井口さん
福岡市内の中高一貫校に通っていた高校1年のとき、米国に留学していた同世代と接する機会があり、堂々と自らの考えを発信する姿勢に刺激を受けた。両親を説得し、奨学金などを利用して米国で高校に編入、ボストン大学へと進学する。
井口さん
漁業者、漁協、仲卸、市場、量販店の大手バイヤーなど複雑に絡み合う国内水産業。「結果、漁業者だけでなく消費者も利益を損ねている。この漁業問題を解決したい」と一念発起して、内定していた大手総合商社を断り起業することにした。
(注1) プラットフォーム戦略とは、関係する組織を同じ場所(プラットフォーム)に乗せて効率的なシステムを構築すること。
井口さんは新事業としてスマホなどのITを使い漁業者、メーカー、卸売市場、外食産業、量販店などの情報とニーズをつなぐ仕組みを立ち上げている。
起業はまずやってみる。失敗は恥でなく経験。人との出会いが可能性を広げる
自らを強力なリーダーシップ型ではなく、オーケストラの指揮者のような調和・調整型だと分析する井口さん。起業のポイントをたずねると即座に、こうきっぱりと。
井口さん
(米国で学んだことのひとつに)失敗は恥ではなく、経験だという気風がありました。まさにアメリカンドリームです。
まず、自分の構想を他人に相談して、知恵を膨らませる。アイディアを盗まれるなんて心配しては前に進めません。
「ミールキット」開発で連携した斉藤氏はその典型だ。
井口さん
若者にとって大きな壁ともいえる資金面については、こうアドバイスする。
井口さん
輸出も視野、漁業者の収入を増やし漁業復活。絶対にあきらめない
「日本の食と漁業を守る」――ベンナーズが掲げるビジョンだ。大げさにも映るが、井口さんの危機感は強い。
日本の漁業者数は1990年40万人だったが、2019年には15万人まで減少。平均年齢は約60歳で平均年収は200万円前後だ。
井口さん
世界を見渡すと、漁業は不人気かといえばけっしてそうではない。
井口さん
筆者はリーマンショック(2008年)以降、国家が破綻したとされるアイスランドに5回訪れているが、民間銀行が破綻し国全体が混迷する中で、漁業の安定感は群を抜いていた。漁業者は誇りを持ち、多額の税金を納める国の基幹産業だ。
日本と同じように海と生きてきたアイスランドの人たち
井口さん
社名のベンナーズは、エジプト神話に登場する不死の霊鳥(ベンヌ)に由来する。最後まであきらめないという強い決意を込めている。
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株式会社ベンナーズ
本社/ 福岡市中央区大名2丁目6番11号203号室
Tel:092-692-2033 (卸売部門)
Tel:092-985-8804 (システム部門)
事業内容/水産物流プラットフォーム関連事業
冷凍水産物及び加工品卸販売事業
会社設立/2018年4月
Email:info@benners.co.jp