福岡市藤崎の人気店「捏(つくね)製作所」が昼酒にシフトする理由

2015年8月、京都から福岡市早良区藤崎に移転オープンした「捏製作所(つくねせいさくしょ)」が、2020年8月に業態を変更するとの速報が!しかも編集部に取材のオファーを頂きました。どこよりも早く、どこよりも正確に、捏製作所のオーナー・菅原ご夫妻の想いを聞いてきました。


旬を感じることのできる「つくね5種盛り合わせ」(850円)。この日はしそとみょうが、ゴーヤとかつお醤油、焼きトマトといりこ、とうもろこしとXO醤、海老と新たまねぎの5種。食材の組み合わせも絶妙!

2008年、京都で創業した『捏製作所』。ご主人の菅原淳思さん、奥様の慶さんともに福岡出身だったことから、いずれは福岡に戻ろうと考えていたそうで、2015年8月、京都の店を譲り、福岡・藤崎に店を構えた。季節の食材で作られる“蒸した”つくねは、これまでになかった味わいが評判となり、瞬く間に人気店の仲間入りを果たす。そんな彼らから、2020年8月に業態を変えるというニュースが届いた。どのような想いでその決断に至ったのか、話を聞くべく店を訪ねた。

「実は、つくねが好きなワケではなかったんです(笑)」


北九州市出身の店主・菅原淳思さん。大学を卒業後はベンチャー企業に就職し、その後、飲食の道へと進んだ。

地元・北九州の高校を卒業後、京都の大学へ進学。卒業後はベンチャー企業に就職したという店主・菅原淳思さん。いずれ自身で起業することを考えていたため、経営的なことを学びたかったというのがその理由だ。その後、京都の焼鳥店で働き飲食の道へ。29歳のときに『京都捏製作所(つくねせいさくしょ)』をオープンさせた。

「京都の焼鳥店は、カットされた鶏を石の上で焼くスタイルでしたので、自分自身に特別なスキルが身についたワケではありませんでした。私は飲みに行くことが好きで、焼鳥店などもよく利用していましたが、つくねを注文することはあまりなかったんですよね。ただ、働いていたお店ではコースの中につくねがあって、竹筒からヘラを使ってつくねを焼く瞬間、お客様のテンションが上がる姿を見ていました。お子様も年配の方も好きなメニューですし、独立するにあたって、何か特化したものをと考えたときに“つくね”にしようと思いついたんです」。

と、淳思さんは当時を振り返る。また、ご自身もお酒を飲むことが大好き。お酒を飲む人は旬のものが好きという実体験もあり、つくねは旬を表現しやすいとも考えたという。とはいえ、京都の店をオープンしたとき、つくねは2種類しかなく、それも“蒸し”ではなく“焼き”だったとか。3、4年経った頃には20種類ほどに増えていたが、意外なことに“蒸し”は1つしかなかったという。京都の『捏製作所』は夕方6時から朝5時まで営業しており、一晩で6回転するほどの人気店に! けれど、いずれは福岡出身の奥様と福岡に戻ることを考えていたため、7年後の2015年8月、京都の店を後進に譲り、福岡・藤崎に店を構えた。

福岡のお店は、“蒸し”に特化しようと考えていました。藤崎にしたのは、帰省したときに福岡市内を自転車で回ってみて、藤崎に来たときにこの街がいいなと直感的に感じたからです。中央区は全く考えていませんでしたね。というのも、街の中心部にしてしまうと、いろんなお客様が来られることになります。うちを目指して来てくださったお客様がゆっくりと飲めるお店にしたかったというのが大きな理由ですね。また、私たちは純米熱燗の魅力を伝えたいという想いがあったのですが、中央区には既に同じ想いを持たれた先輩方のお店もいくつかありました。文化を広げるという意味でも、中央区以外がいいと考えていました」。

2015年8月のオープン時より、開店は16時。福岡にしては少し早めだ。訊けば、淳思さん自身、いちばん飲みたい時間が16時台だったという。また、京都時代は朝5時まで営業していたが、新たに店をオープンするにあたって生活習慣を変えようという想いもあった。

「14時オープンでもよかったんですが、福岡の人たちはあまり早い時間から飲むイメージがなくて。ひとまず16時オープンにしてみたら、その時間から本気で飲まれる方がたくさん来てくださいましたね。また、県外から来られるお客様も多く、これは後から気づいたことなのですが、うちの最寄りの駅が地下鉄空港線の藤崎駅で、博多駅や福岡空港までのアクセスがとても良いんです。その日の夜の新幹線や飛行機で戻られる県外のお客様も、16時だったらお越しいただけるんですよ」。

そんな『捏製作所』が福岡に店を構え5年が経とうとしていた頃、福岡の街にも新型コロナウイルスの影響が少しずつ出始めていた。

「いつの間にか、自分たちで自分たちの楽しみを奪っていたことに気づきました」


時間を忘れてゆっくり過ごすことのできるゆとりのある空間。カウンターもあり一人客も気軽に利用できる。

ここ数ヶ月、飲食店を取材してきて見えてきたのは、新型コロナウイルスの影響は4月に入ってから一気にで始めたということ。飲食店経営者たちは「志村けんさんが亡くなられた後、一気にお客様が減った」と口を揃えた。ここ『捏製作所』も同様に、4月に入ってから一気に客足が途絶えたという。

「一気にお客様が減って、コレはヤバイなと4月7日からの休業を決め、4月8日からテイクアウトのみの営業に切り替えました。普段、お店でご提供させていただいているメニューは、やっぱりお店で食べていただくからこそ美味しいもの。それをそのままテイクアウトにすることはしたくなくて。そんなときに『スーパーではパスタやパスタソースが売り切れている』というニュースを見たんですよね。時間はあるはずなのに、時短、時短ってなっていることに違和感を覚えました。だったら、誰かと一緒に楽しんでもらえるメニューをテイクアウトにしたらいいなと思って、お鍋をメインに据えたんです。家族がいる方は、みんなでつくねを丸めたり、食卓を囲んだりしてもらえるといいなって思いました」。

テイクアウトのみの営業を約1ヶ月続け、5月9日よりイートイン営業を再開。7月いっぱいは並行してテイクアウトも行なっている。

このテイクアウトのみの営業をしたことで、菅原さん夫妻は、これまであることを諦めていたことに気づいた。

「コロナ前は23時に店を閉めて片付けなどをして、お店を出るのは午前1時前後でした。その時間で営業しているのはチェーン店くらいで、帰ってからご飯を作る気力もないですし、ゆっくりお酒を楽しむ気分にもなれませんでした。けれど、テイクアウトのみの営業だった時期は、最終受け取りを20時にしていたので、予約状況によって19時とかに終わることもできたんです。帰宅してご飯を作ってお酒を飲んで……。なんていい生活なんだろうって思いましたね。日本酒やワインを飲みながら営業再開後の試作をしたりして、とても楽しく幸せな時間でした。そして、僕らは食べたり飲んだりすることが好きでこの商売をしているのに、いつの間にか自分たちでその楽しみを奪ってしまってたことに気づきました。約1ヶ月、この生活をしてみて、もしかしてこれからもできる方法があるんじゃないかなと考え始めたんです」。

「本質的に求めていることを取捨選択できるようになりました」


つくねを作り続けて12年。菅原さんは食材を仕入れながら組み合わせを考えており、つくねを作る前には味のゴールが見えているという。

緊急事態宣言の解除後、福岡の街にも徐々に人が戻ってきた。しかしながら、かつてのように深夜まで飲み歩く人はまだ少なく感じる。

「今後のことを考えてみても、以前のようなお酒の飲み方をされるお客様は少なくなるでしょうし、いいタイミングだと思いました。早い時間から堂々とお酒が飲めるお店って、福岡にはまだ少ないですし」。

実はこれまでも、何度か時間帯を早めたいと考えたことがあったそう。けれど、自分たちで「無理」と決めつけていたという。

「仕込みもあるし、そんな早くから開けることができないと思っていたんですけど、勝手に思っていただけでした。また、この期間を経て、自分たちで取捨選択ができるようになったことは大きいですね。たとえば、うちの人気メニューで『里芋のポテトサラダ』というのがあるんですが、お客様が求めてくださるので一年中メニューに入れていたんです。けれど、里芋にも旬があって、自分たちは『ちゃんと美味しい時期のものだけを食べてもらいたいな』と思いながら作っていたところがありました。作ることがストレスになっていたんですよね。ほんの小さなことですが、そういったストレスになっていたことをしない!と決められるようになったんです。

また、以前は売り上げのために席を埋めなくちゃと思っていたところがありました。集中する時間は同じなので、とにかく席を埋めないと売り上げが取れないと思い込んでいたんです。それも今回のことで、ほかの方法で売り上げを上げることができればいいんじゃないかと考えられるようになりました」。

そして、何よりも大きかったのは、自宅で食べたり飲んだりしながら、全国にいる飲食店仲間や蔵元さんや生産者さんとリモートでたくさんのことを話せたこと。菅原さん夫妻が懇意にしている人たちは、ここ数年、本質的な暮らしに向かおうとしている人が多く、そういった人たちの影響も大きかったという。

「つくねと純米燗酒、ワインはそのままに、自家製麺を加えた麺酒場に生まれ変わります」


季節限定の「汁なし坦々麺」(900円)。油を使用せず、練りごまと豆乳をベースにしている。

京都での7年間を第1章、福岡での5年間を第2章とするならば、8月1日からは『捏製作所』第3章の幕が上がる。営業時間は11時から19時30分。これまで同様にメインはつくねと純米燗酒とワインだが、新たに自家製麺を主軸に加えた麺酒場として生まれ変わるのだ。

「2年前から自家製麺をしていました。麺って、粉と水を合わせて捏ねるでしょう? “捏ねる”という意味で、つくねも麺も同じものだと思ってやってきていたんですよね。なので、自家製麺を主軸に加えるというのは自然な流れでした」。

営業時間を変えることで、勤務時間は以前よりも幾分か長くなる。菅原さんはもともと、どれだけ遅く寝たとしても朝5時には起きていたため、出勤時間が早くなることは全く問題ないという。むしろ、閉店時間が早くなることで、自宅でゆっくり過ごせる時間を持てることに、喜びを感じている。

「これからも長く店を続けるためには、身体も心も健やかでなければなりません。コロナ前の生活だと、長く続けることはできないと感じました。私はどれだけ遅く寝ても5時に起きていたものの、睡眠時間が短いとすっきり起きることはできていませんでした。就寝時間が早くなるだけでも健康的な生活になりますし、健全に運動や食事をできることがなによりも嬉しいですね。また、このスタイルが軌道に乗れば週休2日にしたいと考えています。時間ができれば、月に一度程度、お客様との交流を持つ場をつくりたいとも思っているんですよ。蔵元さんに来ていただいてお酒の会をするなど、私たちも一緒に楽しみたいですね」。

この決断は6月2日にInstagramで公開され、来店するお客様には直接報告をしているというが、「早い時間から飲めるから閉店時間を気にしなくていい!」という声も多く、皆、楽しみにしているという。


全粒粉を多めに使用。味と香りをしっかりと感じることのできる「つけ蕎麦」(860円)

「麺をすると話すと、ランチをするの?と聞かれたりもしますが、うちはあくまでも飲み屋としてやりたいと考えています。これまで通り、つくねと純米燗酒やワインを楽しんでいただきつつ、〆として美味しい麺をご提供したいですね。これまでも自家製麺を使ったメニューがありましたが、種類も増やしますし、季節限定のメニューなども提案していく予定です」。

新たなスタートを切る『捏製作所』。進化を続ける彼らのチャレンジに、期待が高まる。

■データ
捏製作所
福岡市早良区藤崎1-14-5
092-833-5666
土〜水曜11:00〜19:30(料理OS18:30)
金曜17:00〜22:00(料理OS21:00)
木曜定休、他不定休あり
https://www.instagram.com/tsukune_seisakusho/

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編集・ライター
寺脇 あゆ子
松山生まれ、福岡育ち。福岡・大阪の出版社を経て独立。福岡を拠点に全国誌、地元情報誌、webメディアなどで取材・執筆を行なう。美味しいものがある、面白い料理人がいると聞けば、日本全国どこへでもフットワークの軽さが自慢。無類のラグビー好きでW杯は2007年のフランス大会以降、4大会を現地で観戦している。

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