福岡発メンズブランド「FUJITO」が、世界で支持される理由とは⁉

国内はもとよりNY、ロンドン、パリなど世界のセレクトショップで販売されているメンズブランド「FUJITO」。一見、ごく普通のどこにでもありそうなジーンズ、ワークシャツが、おしゃれなニューヨーカーやロンドナーらに支持されるのは何故なのだろう。この答えを求めて、福岡市・警固の直営店「DIRECTORS」にデザイナー兼オーナーの藤戸剛氏を訪ねました。

「フジト?何者だ!」福岡の無名ブランドが業界を騒然とさせた“事件”

 
世界のメンズファッション界でも一目置かれるイタリア。
そのファッションを支えるのが、丹精込めた手縫いの技を誇るサルトリア(仕立屋)の存在だ。
 
2008年、イタリア・フィレンツェを代表するサルトリア「リベラーノ&リベラーノ」の名を冠したジーンズ〈Liverano&Liverano×FUJITO Jeans〉が発表された。
 

革パッチに「LIVERANO&LIVERANO」の名が記されたフジトのジーンズ。世界最高峰とも称されるサルトリアとの提携は現在も続いている

「FUJITO、フジト?……日本のブランドらしいが、聞いたことないぞ。どこのどいつだ?」。業界は騒然となった。
 
それが、藤戸剛さん。世界最高峰とも称される伝説の職人アントニオ・リベラーノ氏が提携した相手は、「売れず」「食えず」に少し前まで弁当配達のバイトでしのいでいた福岡の無名のデザイナーだった。
 

スケボーでファッションに目覚め、服を買いに福岡へ通い続けて

 
藤戸さんは1975年、長崎県佐世保市生まれ。
米海軍が駐留し、外国人バーが多数軒を並べる基地の街で育った。
 

気持ちいい服、着込んでいるうちに良くなる服を追求する藤戸さん。40代半ば、大人の男の横顔に「ケミカルウォッシュのジーンズの膝を自分で破って履いていた」という小学生の頃の面影が浮かんでくる

叔母が米兵と結婚してアメリカに移住。
さらに叔母が1人、叔父が1人……母のきょうだいが3人、渡米。
夏休みには、ロサンゼルスやサンディエゴから、いとこたちが遊びに来る。藤戸さん自身も小学4年の夏休みにロス五輪へ。
 
物心つく前からアメリカ文化に浸っていた藤戸さんがファッションに目覚めたきっかけもまた、アメリカ由来のスケートボードだった。
 
藤戸さん

スケートボードって僕らの中ではスポーツじゃなくて、ちょっと不良っぽい遊び、ストリートカルチャー。ファッションとか音楽のおもしろさを初めて教えてくれたのがスケボーだったんです。


 
こうしてファッションに出合った藤戸さんは、高校生になると「服を買うため」小遣いを貯めて毎月のように高速バスで福岡へ通い続けた。
 
藤戸さん

古着も新品もアメカジも裏原もインポートも……今泉、警固、長浜公園と、自分の感覚にあう店を探して回るのが楽しくて。


 
九州産業大学経営学部に進学したのも「福岡に出てきたかったから」。古着屋でのバイトに明け暮れ、先輩から誘われて在学中に衣類の卸会社を立ち上げるも短期間で失敗。セレクトショップの店長、大手ジーンズメーカーの福岡店長を経て28歳で独立、〈FUJITO〉ブランドを立ち上げた。
 
しかし、それは「販売の仕事に飽き足らず、自らデザイン、制作したくて」あるいは「いつかはオリジナルブランドを」といった夢へ向けたストーリーではなかった。
 
藤戸さん

勤めていたジーンズメーカーが福岡から撤退。アパレルから離れる気はないし、もともと組織には向いていない。なら独立するしかない、と。


 

独立したものの売れず……どん底の中でフィレンツェへ

 
独立前からアトリエを借りて、シルクスクリーンでTシャツの製作などを始めてはいた。
 
藤戸さん

販売も買い付けも楽しい自分で作るのも楽しい。スケボーと一緒で、ただただ楽しくて。「カッコイイねー」って言われるとうれしくて友達のためにも作って。


 
だが、現実は「楽しい」だけでは済まなかった。
まず、パタンナーや縫製工場の人たちと、うまく意思の疎通が図れない。デザインや縫製を学んだことがないため、自分のイメージを伝える「スキル」がなかったのだ。
「売れる売れない」以前に思い通りの服を作ることができないことに愕然とした。
 
何とか「スキル」を身に付けながら借金を重ね、もがいているさなか、フィレンツェから電話が入った。「あのリベラーノ氏が、おまえのジーンズに興味を示してくれたぞ!」。
知己のバイヤーがイタリア出張時、たまたま藤戸さんのジーンズを着用。「それは、どこのジーンズだ?」と尋ねられたのだという。
 

染色前のヌメ革のパッチは日焼けしないよう購入時、その場で縫い付ける。使っているうちに色が変化。ジーンズの風合いと共に“育てる”感覚で楽しめる

しかし、当時の藤戸さんは、伝説の仕立て職人を知らなかった。
ただ、自分の服に目を止めてもらえたことがうれしくて、「次の出張につれていってください!」と懇願。ジーンズを抱えて現れた藤戸さんを、リベラーノ氏は「ホントに来たのか?行動力のあるヤツだ」と笑いながら迎えてくれた。
 
藤戸さん

怖い物知らずで。知らないからこそ行けたんですよね(笑)


 
「こういうデザインはできるか?」とその場で課題を出され、岡山の工場に依頼してサンプルを作って再訪。2年がかりで完成したのが〈Liverano&Liverano×FUJITO Jeans〉。
 
これをきっかけに〈FUJITO〉ブランドは、一気に全国にその名を知られることとなったのだ。
 

「ぱっと見、普通で地味」 そんな実用服が世界で支持されるのには理由があった

 
クラシカルなスーツで知られるリベラーノ氏に見いだされた〈FUJITO〉。と聞くと、〈FUJITO〉の服は、ちょっとハードルが高そうな気もしてくるが、そんなことはない。
藤戸さんが提案するのは、シンプルな普段着だ。
 
藤戸さん

たとえばパリコレのオートクチュールはファンタジー。僕が目指しているのは、その逆。現実の世界で使えるリアルクローズです。


 
遊びでも使え、仕事でも着こなせる。着心地がよく、シルエットがステキで、ちょっとだけ気分が上がる、楽しめる普段着。一見、地味で普通なのに海外の展示会で注目されるのはなぜか?
藤戸さんは、1枚のシャツを例に説明してくれた。
 

これ以上は針が入らない限界まで入れた細かいステッチがミソ。
着古して洗ううちに、古着の魅力とされる糸の縮みによる凸凹「パッカリング」が生じてくる。
 
藤戸さん

シャツ好きのバイヤーなら違いが一目で分かる。そんなディティールの積み重ね。技術を詰め込めばいいというわけではなく、出し方、さじ加減がカギ


 
それこそ、教えられ、専門知識をたたき込まれても身に付けられるものではない。幼い頃からアメリカ文化に浸り福岡の街で洋服屋を巡り古着の魅力に浸る中で磨き抜かれた藤戸さんならではのセンスなのだろう。
 

オンラインが主流になるアフターコロナ時代だからこそ、フィジカルな出会いの場を大切にしたい

 
2016年から本格的に海外進出。
毎年、1月と6月にパリとNYの展示会で新作発表を続け、取扱店は国内40店、欧米アジア20店にまで広がっている。
 
しかし、コロナのために今年6月に予定していた展示会はオンラインに。
 
藤戸さん

これまで場所を借りて、出張費を使って、カートにサンプル積み込んで回ってきたんですけどね。


 
もちろん、オンラインとリアルの違いは大きい。生地に触れ、試着して着心地を確かめる。思わぬ出会い、その場ならではのセレンディピティ(思わぬ幸運な巡り会い)もあるだろう。

そもそも、リベラーノ氏が〈FUJITO〉のジーンズを目にし、藤戸さんがフィレンツェを訪れなければ、今の〈FUJITO〉はあり得ただろうか?
 

藤戸さん

だからこそ、フィジカルな場所の出会いを特別なものにすることを意識しないと。オンラインでできることと同じことをやっていても意味がない。


 
藤戸さんは今、東日本大震災による〈変化〉を改めて想い起こす。
 
東京から地方へ。人の流れが変わり、福岡が注目された。ならば「情報発信の場も地方で」と東京からの移住者を含めた有志5人で、九州を拠点とするクリエイターの合同展示会〈thought〉を企画した。
 

少し若い層を意識した「FUJITOSKATEBOARDING」ブランドでは福岡の画家・八頭司昂氏とのコラボレーションも。独特なタッチで描かれた嵯峨ぎく(左)やユリが目をひく

「東京のプレス力のある展示会に出すことでブランドとしての価値が認められる」という業界の常識に一石を投じた企画は大成功。東京、大阪からの出展依頼も相次いでいる。
 
だが、今年3月、長崎・波佐見に60ブランドが集結する予定だった8回目の〈thought〉は、中止せざるを得なかった。
 
藤戸さん

アフターコロナ時代の戦略がどうあるべきか。答えは誰も持っていない。自分たちのやっていることを再度確認して、変わらなくていいところをグッと強化していかなければ。


 
ピンチをチャンスに変えてきた藤戸さんならば、今回のコロナ危機をバネに、きっと新たな展開を見せてくれることだろう。力強い言葉に、そう確信させられた。
 

海外展示会に赴いた際には現地で自らサンプルを着用してカタログ用に撮影。2019年6月、FUJITOの服はパリの街に自然に溶け込んでいた(photo : Koji Maeda)  

FUJITO(株式会社ウィステリア)
https://shop.gofujito.com/
■創業 2002年5月(設立 2008年8月)
■所在地 〒810-0023福岡市中央区警固3-4-3 東ビル1F
■TEL 092-751-5511 FAX 092-751-5521
 

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フリーランスライター
永島 順子
福岡市生まれ。地方紙の報道部記者として取材活動を続けた後、独立。全国紙、経済誌・専門誌などの取材・執筆に携わる。2012年から7年間、新聞社グループ企業のデジタル編集部でニュース配信・ニュースサイトのデスク業務を担当。著書に『佐賀の注目21社 志ある誠実な経営力で地元を守り立てる』(ダイヤモンド社・2017年)

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