スマホで「電子南京錠」。KEYesの新しい仕組みとは?

紀元前、旧ローマ時代には利用されていたと伝わる南京錠と、最新情報技術を連動させた「スマート南京錠」を福岡市のスタートアップ企業が開発しました。利便性に加え、鍵束を持つ必要がない非接触グッズとして新型コロナ対策としても注目を集めそうです。

電子南京錠とは

はじめに、電子南京錠、もしくは「スマートロック」とは、スマートフォンなどを用いて鍵の開閉・管理を行えるシステムのことである。
BluetoothやWi-Fi通信を使ったものがあり、日本では2015年に相次いで発売され、その年は「スマートロック元年」と言われた。

スマホで解錠、履歴も確認でき、防犯対策上も有効

今回紹介するスマート南京錠を開発したスタートアップ企業は、KEYes(キーズ)株式会社。近距離無線通信「Bluetooth」を内蔵している点に特徴がある。

取材に訪れ、スマート南京錠を手に取ってみた。一見すると普通の南京錠とさほど変わらないが、違いは鍵穴がないことと、中央部分にボタンがある。

施錠は従来通りだが、解錠する際は錠に付いているボタンを押してスマホに電波を発信スマホのアプリで信号を送り返して解錠する仕組みだ。試しにスマホの「解錠する」部分をタッチすると簡単に鍵が開いた。


独自開発のアプリを入れたスマートホンで、南京錠を解錠。時間、場所の履歴も残る

大きな利点は3つ。第一は、1台のスマホで複数の錠に対応できるため、いくつもの鍵を持つ必要がない。スマホがマスターキーの役割を果たす。

第二は、設定しだいで1個の錠を複数台のスマホでも解錠できる。合鍵が何台もあるイメージだ。

第三は、鍵の管理者を設定していれば、だれがどこで、いつ開錠したか履歴を残して管理者が確認できる。マップで履歴を示すことも可能で、防犯管理上のメリットが大きい。

自分のスマホを、南京錠の鍵にできないか、という素朴な相談から始まった

鍵を問い合わせる時間と労力の無駄をなくしたい」。同社の最高経営責任者(CEO)の栗山真也氏(46)が開発したきっかけは、5年ほど前、不動産業に関わる仕事を始めたころの素朴な疑問と不満だった。


長い歴史のある南京錠だが、その在り方に疑問を感じ、改善に取り組んだ栗山氏

顧客をアパートやマンションの物件に案内した際、部屋にかけられた南京錠の鍵が見当たらなかったり、事前に確認していたダイヤル式の鍵の暗証番号が違ったりといったトラブルが頻繁に起きた。

そのつどオーナーや不動産管理会社に問い合わせる。手間はかかるし、案内した顧客にとってみれば「せっかく物件を見に来たのにどれだけ待たせるんだ。鍵の管理もできてないのか」と心証は悪くなる。

多くの不動産業者が経験しているケースに違いない。ここで「鍵なんてこんなものだから仕方がない」と疑問も持たずに無駄な労力と時間を繰り返すか。それとも「誰もが持っている自分のスマホを、南京錠の鍵にできないか」と新たな一歩を踏み出すか。

栗山氏はIT技術には詳しくない。そこで相談したのが、現在取締役を務める藤懸英昭氏だった。九州大学などで無線通信を研究し関連のシステム構築のIT企業を立ち上げていた藤懸氏とは、福岡市の起業支援施設でコーヒー片手に気軽に雑談できる仲だった。日ごろの人脈が生きた。

藤懸氏からの返事は、即答だった。「できるよ」

西部ガスが「現場の負担軽減と鍵紛失のリスクが減り、履歴も残る」と注目

スタートアップ企業は、資金が少ない。知恵をいかに絞るか、である。

検討を重ねた結果、コストを抑えるため鍵のひな型は既存製品とするが、野外での利用が多いことを想定して防塵(ぼうじん)で台風の風雨でも耐えられる強度とし、システムは企業のニーズに応えるオーダーメードを基本とした。

2018年末に試作品を完成した。翌年5月から拠点とする福岡市の企業支援施設「Fukuoka Growth Next」を中心に、福岡だけでなく東京などでもプレゼンを開始した。

商品のメリットをアピールしながら、人脈をつくり、提携企業を積極的に探った。スタートアップ企業には欠かせない取り組みである。

このような過程で関心を示した企業のひとつが、地場大手の西部ガスだった。

  各地のプレゼンテーションに参加。新たなパートナー、資本、そして“知恵”に出会うことができた

栗山氏

不動産業界にターゲットを絞っていたので、インフラ業界は意外だった

と当時を振り返る。だが、そこには大きな市場の可能性があった。

西部ガスでは、大型タンクを備えたガス供給所から住宅へ小口ガスを送る圧力調整器に至るまで数多くの施設に南京錠を使用しており、作業従事者が鍵束を持ち歩き定期的に巡回している。

スマート南京錠だとスマホ1台で数多くの南京錠が解錠でき、鍵束の中から合う鍵を探す手間も省ける。「現場の負担軽減鍵紛失のリスクが減り、履歴も残る」と注目した。

今年1月から約2カ月間、長崎県内の30カ所の同社施設で実証実験を行った。その結果、製品としてだけでなく事業としても有望だと判断し、キーズに資本参加することになった。

さらに、キーズは近くトヨタ自動車九州や不動産管理会社とも協力して実証実験をスタートさせる予定だ。

初入社のベンチャー企業は経営危機、財務担当として頭を下げて回る日々…多難な経験が今に生きる

これまで30回近くのプレゼンをこなし、注目を集め提携の話も少なからずあるが、事業展開は慎重だ。

栗山氏

これまで様々な経験をしてきましたから、スタートアップ企業でも地に足の着いた戦略が大切だと考えています

と振り返る。

防衛大学を中退し、現役学生より3年遅れで福岡市内の私立大学法学部に入学。ゼミで知り合った友人に誘われITのベンチャー企業に関わり、卒業と同時に入社した。電話回線を使って画像等を送信するという当時としては画期的な発想の企業だったが、まだ技術が追い付いていなかった。

億単位の出資があったものの、会社の経営は危うく、財務も担当していた栗山氏は出資金の減少が手に取るように分かった。出資者の不満は強く、頭を下げて回る日々が続いた。

その後、不動産開発や仲介、大手損害保険会社の代理店を経験して起業にたどり着く。決して順風満帆ではないが、結果として人間関係の大切さコンプライアンスの重要性などを学ぶことができたという。

栗山氏

新しい事業に挑戦することはやりがいがありますが、大風呂敷ではだめだと思います

スマート南京錠は直行直帰を可能とし、リモートワークしやすくする

現在、新型コロナウイルスが世界を覆い、生活・経済活動を脅かしている。いずれ、このウイルスが終息しても企業の衛生管理や働き方に変化を及ぼすことが予想される。

栗山氏

コロナのことは想定外でした。いま営業活動などに支障が出ているが、スマート南京錠は、コロナを含め衛生管理対策としても役に立つはず

と自信を示す。

不特定多数が接触する南京錠の鍵(束)を持ち運びする必要がなく、自分のスマホで解錠できるため非接触なのだ。


企業によっては数十個の鍵の束を従業員が持ち歩くことも少なくない。新型コロナウイする対策は企業にとっても大きな課題だ

同時にリモートワークとしてのメリットもある。

鍵は本社や事業所などで集中管理しているケースが少なくないため、作業員は自宅から所定の場所に鍵を取りに行き、作業を終えると返しに戻る必要がある。そのつど帳簿(ノート)に貸し出し時間等を記入したりする。

しかし、スマート南京錠だと直行直帰が可能となり効率化が図れる。管理部門ではだれが何時何分に鍵を開け作業をしたかという履歴が容易に分かる。

オプションとして設定すれば、解錠だけでなく施錠されているかどうかもチェックできるという。

顧客ニーズにきめ細かいサービスで、大企業ができない製品と価値を生み出す

現在、スマート南京錠は海外企業に生産を委託し、価格は1個当たり数千円程度。バッテリーはリチウム電池で1回の電池交換により、数千回の解錠が可能だが気象条件等で不確定な部分もある。

栗山氏

定額制の販売より、1カ月数百円のサブスクリプションサービス(サブスク)にして、1年間で新品と交換する。それによりデータを蓄積したい

との考えを示す。

街中や郊外を歩き注意して観察すると、南京錠は企業だけでなく国や地方自治体の事業所や倉庫、施設の門扉などに幅広く使われていることが分かる。種類も様々だ。

栗山氏

国、自治体や企業ごとにニーズが異なる。それに応じたサービスをきめ細かく提供し、大企業ができない製品と価値を生み出したい

安心、安全、そして、効率化につながる潜在需要は大きいはずだ。キーズのこれからの展開にも、注目していきたい。


キーズは、福岡市の企業支援施設「 Fukuoka Growth Next」を拠点とする

KEYes株式会社
■設立 2018年12月20日
■事業内容 スマート南京錠システムの開発
■所在地 福岡市中央区大名2丁目6番11号 Fukuoka Growth Next 307
■株主 株式会社DGベンチャーズ ABBALabスタートアップファンド投資事業有限責任組合 SGインキュベート第1号投資事業有限責任組合
https://www.keyes.info/








エンクレスト天神南PURE

都心の利便性と穏やかな街の空気を味わえる「エンクレスト天神南PURE」

Sponsored

成長都市福岡

投資を始めるなら、成長が止まらない街「福岡市」。投資初心者”必見”のマンガ&基礎満載テキストプレゼントはこちら

Sponsored

関連タグ:
#スタートアップ
この記事をシェア
facebook
twitter
LINE
ジャーナリスト
池田泰博
1960年、小郡市生まれ。早大卒。NHK、リクルート、西日本新聞社、自治体副町長を経て、現在はフリージャーナリスト。ライフワークは民族・宗教問題。大学1年時にシベリア鉄道で旧ソ連を横断して以来、訪れた国や地域は90以上。

フクリパデザイン1

フクリパデザイン2

フクリパデザイン3

フクリパデザイン4

TOP