ハイタイドストアとは
福岡市の中心部・天神から南へほぼ1キロ。
おしゃれなカフェや隠れ家的なスポットが点在する落ち着いた住宅街、中央区白金地区の一角にハイタイドの本社とフラッグショップ「ハイタイドストア」はある。
本社ビル1階のハイタイドストア。「世代を超え、ジャンルを超えて、人々が集う自由な文具屋」がコンセプトだ
ショップには、ノートやペンにクリップ、ポーチ、マグカップ、収納グッズなどなどカラフルな文具・雑貨が並ぶ。
ワークショップスペースでノートや手帳をカスタマイズする常連客もいれば、テラスでドリンクやサンドイッチを片手に談笑する学生の姿も。
文具・雑貨を「自分を表現するファッションの一部」として発信し続けてきたハイタイドらしさが、随所に感じられる空間である。
オンにもオフにも楽しめる、カラフルなカジュアル手帳で新市場を開拓する
「HIGHTIDE/ハイタイド」とは「満ち潮」の意。
25年前、海を愛し、モノを愛した先代社長が「精神的に満たされるモノづくりを届けたい」という思いを込めて命名したという。
最初に取り組んだのは、手帳の企画・卸販売。平成不況で、社員に配る「年玉手帳」を廃止する企業が増え始めた頃のことだった。
手帳といえば黒、濃紺、濃緑、えんじ色。仕様もほとんど代わり映えしない時代にカラフルなカジュアル手帳を提案した。
それから四半世紀、手帳は大きく様変わりした。デジタル社会が進む今なお年間1億冊、440億円もの市場規模を誇り、色もサイズもデザインも多種多様な手帳が文具売り場を彩るのは年末の風物詩。
ハイタイドは、手帳の新しいマーケットの“開拓者”だったのかもしれない。
「1本のボールペン」から紡ぎ出されたブランドストーリー
手帳に始まったハイタイドだが、ブランド展開のきっかけはアメリカ製の「1本のボールペン」との出合いだった。
流線型のフォルムが美しく、ノスタルジックなムードを醸し出すシンプルなノック式ボールペン。
そこから架空のペンの会社「pen company」、略して「penco」という名前が生まれ、ストーリーが紡ぎ出されていった。
古き良きアメリカの香漂う「penco」シリーズ。ハイタイドを代表するブランドだ
ペンの次はノート、クレヨン、バインダー……「penco」の名で、70年代のアメリカ映画に出て来そうな文具を次々と発表し、ちょっと懐かしいアナログ感覚の「ダウンタウンのブックストアで探し出したステーショナリー」というブランドイメージを築き上げた。
「penco」だけではない。
ドイツ語で「そばに」という意味の「nähe(ネーエ)」は、決して高価ではなく「いつも身近なモノを提案したい」という思いを込めたブランド。
https://www.instagram.com/p/B02qS5ihXce/?igshid=1nfa93fc6it4w
ペンケースやポーチ、トラベルパッキングバッグなど、オフィスでもオフタイムでも「身近に」使える収納・整理グッズがそろっている。
一方、昭和を思い起こさせるのが「ニューレトロ」。道具箱や上履き入れ、巾着袋といった懐かしい道具と、そのレトロな色合いやモチーフを日常小物に落とし込み、現代によみがえらせた素朴で温かいシリーズ。
https://www.instagram.com/p/CMiuRnYhqk5/?igshid=19qbvglas8opi
さらに、昨年秋に発表された新ブランド「fur.(ファー)」は、ドイツ語で「~の為(ため)の」の意でシーズンごとにテーマを設定。第1弾は「持ち運ぶ為のもの」をテーマに、ロウ引きの帆布に国産革をあしらったシンプルなポーチが注目されている。
https://www.instagram.com/p/B4Tqy6Ah4pS/?igshid=18x31q3fmtsjl
多数のブランドを展開するハイタイドだが、共通するのは「決して奇をてらわない」スタンダードなデザイン。だけれど「あるようで、ない」意匠。愛好者たちは、ここに「ハイタイド独自の世界観」「モノの背景」を見る。
さらに、豊富なカラーバリエーションが使う人の心をくすぐり、気軽に求めやすい価格帯で20代から30代の男女に圧倒的な支持を得ている。
直営店を戦略的に展開するなど、積極的に新しいチャレンジを
転機は5年前に訪れた。創業社長が57歳で引退を決断。
企画畑の人間だけに時代の変化に敏感で「自分の感覚とこれからの若者が求めるモノとに大きな乖離が生じかねない」ことを危惧、今後のハイタイドの成長・存続のために「次世代へバトンタッチすべき」と判断したのだという。
縁あって経営を引き継ぐこととなった竹野潤介氏は、長年培われてきた価値観を守りつつ、ハイタイドの展開する商品やその世界観が「エンドユーザーに触れる仕掛けづくり」を重視。
他ブランドとのコラボレーションや企画への参画、ECサイトの展開を強化、それまで腰を据えて取り組んでこなかった直営店を戦略的に展開するなど、新しいチャレンジを積極的に行ってきた。
また「文具・雑貨もファッションの一部」と、アパレルショッピングサイト「ZOZOTOWN」に出店。
冒頭に紹介したフラッグショップのほか、九州大学跡地の再開発ビル「六本松421」にも直営店をオープンさせ、福岡空港で半年近く続けた期間限定ショップも話題を呼んだ。
「モノの力に国境はない」事業承継を機に海外戦略を本格化した
併せて海外戦略も本格化。
すでに代理店を通じて各国への輸出販売に乗り出してはいたが、代理店と協働しながら海外の展示会において積極的に「penco」をはじめとしたブランドを展開、ヨーロッパやアジアからアメリカ、中東など徐々に販路を広げていった。
ついには現地法人を設立し、2018年7月、米国ロサンゼルスの商業施設「ROW DTLA(ロー・ディーティーエルエー)」内に初の海外直営店「HIGHTIDE STORE DTLA」をオープンさせた。
「ROW DTLA」はアパレルに雑貨、レストランやカフェなど100を超えるテナントのほかエクササイズ施設やアパレルブランド、IT・クリエイティブ系オフィスなどが多数入居する広大な再開発地。
「日本のショップを誘致したい」との施設側の要望を受け、コーディネーターの日本人がいくつか上げた候補の中からハイタイドが選ばれ、声がかかったのだという。
竹野氏
ハイタイドブランドを発信する場としての魅力と、まだマーケットとして開拓しきれていないアメリカからのお話だったこともあり、せっかくのチャンスと思い切って決断しました。
「日本の文化・モノ」の発信拠点、ショールームと位置づけ、自社製品を軸にしながら日本の他社製品も取り扱い、ギャラリースペースでは作品展やイベントも開催している。遠方から訪れる人も多く評判も上々。
竹野氏
ロサンゼルスを拠点に、海外戦略はさらに加速しそうである。
「HIGHTIDE STORE DTLA」は日本の文化・モノの魅力を伝えるスポットとして注目されている
企画・開発の拠点はあくまで福岡。「ここから発信し続けます」
「独特の色遣いから輸入品と勘違いしていた」「センスのいい雑貨屋にしかない人気ブランドだから、東京のメーカーだと思っていた」といった声もしばしば耳にする。
多くの人から愛され、海外にも展開する人気ブランドが、なぜ地方都市・福岡に本社を置き続けるのだろうか。
竹野氏はきっばりと言う。
竹野氏
営業拠点は東京にも必要ですが、モノづくりのエンジンである企画・開発部門、本社機能を福岡から移すことはありません。
「情報ツールが進化し、世界の距離がグッと縮まった現在、移転する意味がない」とも。
とはいえ、東京の方が動きは早い。消費者の声もダイレクトに入ってくる。「入るのはいいけれど、入りすぎるのは時にマイナスにもなりかねません」
流されずに、自分たちのペースを守り、自分たちのすべきことと向き合うのにちょうどよい規模の都市。大阪で生まれ育った竹野氏には、福岡がそう感じられるというのだ。
竹野氏
福岡を拠点に、海外戦略を加速させる竹野潤介社長
株式会社ハイタイド
http://hightide.co.jp/
■設立 1994年6月
■事業内容 ステーショナリー・インテリア雑貨の企画、卸し、販売、オンラインショップの運営
■所在地 〒810-0012 福岡市中央区白金1-8-28 [MAP]
■TEL 092-533-3335 FAX 092-533-3338