日本全国にある海水浴場は2021年時点で1,011カ所、福岡県は21ヵ所
夏と言えば、海━━━。
1980年代、海水浴は国民的なレジャーであり、全国各地の海水浴場は、文字通り〝芋の子を洗う〟という賑わいをみせていた。
21世紀を迎えた昨今、かつて人々を夢中にさせた海水浴場は現状、どのような状況なのだろうか?
社会科の教科書・地図帳の出版社である帝国書院が、自社Webサイト上に開設する『何でも日本一』によると、2021年時点における日本の海水浴場の数は、1,011カ所となっている。
都道府県別でみると、新潟県と千葉県の59カ所がトップだ。
続いて56カ所の長崎県、静岡県、福井県の3県が追う展開だった。
なお、21カ所の海水浴場を持つ福岡県は、第21位にランクインしている。
ちなみに海と面していない奈良県、岐阜県、長野県、山梨県、埼玉県、群馬県、栃木県の7県に海水浴場は存在しない。
一方、日本生産性本部発行『レジャー白書』によると、国内における海水浴客数のピークは、1985年の3790万人だった。
その後、2017年には660万人となっており、2割以下まで減少している。
減少した背景としては、レジャーの多様化や海外旅行の普及、マラソンやジョギングなどの個人スポーツ人気、さらに美白志向なども要因として挙げられる。
世界最古の海水浴場はどこ?
『世界最古の海水浴場 大野海岸』(画像提供:とこなめ観光協会)
日本には、〝世界最古〟をうたう海水浴場がある。
愛知県常滑市公式観光サイト『常滑とこなめ観光ナビ』では、『世界最古の海水浴場 大野海岸』を紹介している。
同サイトの説明文によると、「鎌倉時代初期に訪れた鴨長明が《生魚の御あへもきよし酒もよし大野のゆあみ日数かさねむ》(新鮮な魚料理もおいしいし、お酒もおいしい。大野の潮湯治に来てついつい長期間滞在してしまった)と詠んだことでも知られています」とのことだった。
古来、人類は海辺や川辺、湖畔などにおいて水浴びや水遊びなどに興じてきた。
そして、療養施設や付帯設備などを設けた〝近代的〟な海水浴場が登場したのは、産業革命が起きたイギリスだった。
1740年にイングランド東部の北海沿岸にあるスカーバラに療養を目的とした海水浴場が開設された。
その後、イギリス国内やベルギー、オランダ、ドイツなどヨーロッパ各地で海水浴場が、相次いで誕生した。
日本における海水浴を記した最古の記録は、フランスの法律家ジョルジュ・ブスケが著した『日本見聞記I』にあり、1872年8月に「カタシエ(片瀬)で夕食前に海水浴をする」とのことだった。
その後、医師のエルヴィン・フォン・ベルツやヘボン式ローマ字で著名な眼科医のジェームス・カーティス・ヘボン、医師だった後藤新平、軍医総監の松本良順などの医療関係者らが関与しながら、1880年前後から日本各地で海水浴場が誕生した。
世界の水中アクティビティ市場は18.8兆円、日本は0.4兆円
海水浴をはじめとした海浜レジャーは今日、一体どれくらいの市場規模があるのだろうか?
国土交通省観光庁観光資源課がまとめて2019年3月に発表した『ビーチの観光資源としての活性化に向けたナレッジ集-参考資料-』によると、2016年における世界の水中アクティビティ市場は、1,723憶8500万ドル(同年平均108.79円/ドルで18兆7554億円)だった。
同報告書では、水中アクティビティとしては、ボートサファリやキャニオニング、カヤック、スキューバダイビング、シュノーケリング、サーフィン、ラフティングなどを対象とする。
一方、日本の水中アクティビティ市場は、41億1300万ドル(同、4,475億円)だった。
同報告書では、「『海水浴』の参加人口の減少が著しく、直近10年間で約3分の1に減少している」と記す。
事実、2008年当時で1890万人だった海水浴客は、10年後の2017年には660万人まで落ち込んでいた。
国土交通省観光庁観光資源課『ビーチの観光資源としての活性化に向けたナレッジ集-参考資料-』(2019年3月発表)
福岡市は水質の良い海水浴場の数で日本の大都市でNo.1
出典)Fukuoka Facts(画像提供:福岡市)
第1位:福岡市12カ所、第2位:横浜市10カ所、第3位:北九州市8カ所、第4位:神戸市5カ所、第5位:新潟市4カ所……。
公開データを基に福岡市の魅力を紹介するWebサイト『Fukuoka Facts』によると、日本の21大都市における30km都市圏のうち、水質の良い海水浴場の数でトップは、福岡市だった。
福岡市には、先述の海水浴場に加えて福岡市海浜公園があり、マリナタウン海浜公園~シーサイドももち海浜公園(百道浜地区)~同(地行浜地区)の3地区で構成されている。
このうち、百道浜地区の東側エリアについては、ライフセーバーの常駐する期間(7月初旬~9月初旬)は、遊泳可能となっている。
福岡市公式シティガイド『YOKA NAVI』では、「福岡で気軽に楽しむ海水浴!市内から車&電車で1時間以内のおすすめビーチ」という記事を掲載しており、下記の5海水浴場を紹介する。
◎ 思い立ったらすぐ行けるビーチ シーサイドももち海浜公園
◎ 海へのドライブに最適! 志賀島海水浴場
◎ 透明度抜群の穴場ビーチ 白石浜海水浴場
◎ 絵になる美しさ! 新宮海水浴場
◎ 移り住みたくなる美しさ! 芥屋海水浴場 ※巻末に参照サイトを掲載
福岡市で初の海水浴場は1918年に西新で開設
画像提供:福岡市
福岡市において初めて海水浴場が登場したのは、1918年のことだった。
当時は、同年11月に休戦が成立まで第一次世界大戦時下だった。
さらにスペイン風邪と呼ばれていたインフルエンザが世界的に猛威を振るっていた時代でもあった。
福岡・博多の文化や歴史、魅力などを福岡市役所Webサイト上においてコラム形式で紹介する『博多の豆知識』vol.15「福岡市最初の海水浴場って…」では、次のように紹介している。
「福岡日日新聞(西日本新聞の前身)によると、20世紀の初め、1918年である大正7年、福岡日日新聞が早良郡西新町(現在の早良区)に初めて海水浴場を主催したとあります。松原続きの浜にはテニスコート、相撲場、輪投げなどを設置し、沖にタライやイカダ、救護船まで浮かべています」
その後、戦時下の1944年3月、漫画家の長谷川町子が一家で福岡市百道(現福岡市早良区)へ疎開して来た。
そして、1946年4月、『夕刊フクニチ』から4コマ連載漫画の依頼が舞い込んできた。
その際に自宅近くの百道海岸を散歩していた長谷川町子は、『サザエさん』をはじめ海にちなんだ登場人物名や家族構成を思いついたという。
福岡市は海辺の魅力を『Fukuoka East&West Coast』で高める
北崎地区における無電柱化・美装化の完成写真(画像提供:福岡市)
定評がある食のおいしさをはじめ、コンパクトシティーとしての利便性や機能性に優れた都市機能があり、さらに教育・医療・文化面などの社会インフラにも恵まれた福岡市は、海や山などの豊かな自然が身近に楽しめる点でも魅力的な都市だ。
青く美しい海に囲まれて、金印や志賀海神社などの歴史資源を有する福岡市東部の志賀島エリア。
同じく美しい海岸線やフォトスポット、おしゃれなカフェなどが集まる福岡市西部の北崎エリア。
両エリアを対象に地域の観光振興や活性化を推進していく取り組みが、『Fukuoka East & West Coastプロジェクト』だ。
具体的には、無電柱化や歩道の美装化などによる快適に楽しめる道路整備や、地域と一体となっての立ち寄りスポットづくり、食・文化・アクティビティなどを観光資源として活用したモデルコースづくり、さらに観光マップや観光案内板などの制作にも取り組んでいる。
福岡市総務企画局企画調整部の木崎新治企画課長
Fukuoka East & West Coastプロジェクトを担当する福岡市総務企画局企画調整部の木崎新治企画課長は、次のように説明する。
木崎新治課長
福岡市内外から身近に海を楽しみ、海に癒される志賀島エリア、北崎エリアの魅力をさらに高めていくFukuoka East & West Coastプロジェクトを通じて、地域振興や観光振興に取り組んでいます。
これまでも農村や漁村の振興を図ってきた中、2020年から宿泊税がスタートしたことを契機に海辺を生かした新たな取り組みが始まりました。
現在、無電柱化や歩道の美装化などを手掛けており、地域住民や地域事業者らと一体になって取り組んでいくことの大切さを実感しています。
今後も地域と一緒になって、お立ち寄りスポットづくりをはじめ、食文化やエリアのアクティビティを活かしたモデルコースづくりにも取り組んでいます。
世界的潮流である、公園と海浜と一体開発の波に乗れるのか
アメリカ・ハワイやオーストラリア・ケアンズなどの海浜では、『ビーチパーク』と呼ばれるスポットが整備されて、いま注目を集める。
ビーチパークとは、文字通り公園と海浜を一体的に整備していくことだ。来場者らは、バーベキューやピクニック、ビーチスポーツ、マリンスポーツなど多様なレジャーを楽しむことができる。
日本国内においても海辺でバーベキューパーティーを開く習慣のある沖縄県では近年、県内のビーチの背後に芝生広場を設けてBBQスペースを設置したビーチパーク的な施設の整備を進めている。
海浜におけるレクリエーションの多様化が進む中、ビーチパークは、時代の〝申し子〟的な観もある。
一方、福岡市は、シーサイドももちでの埋立整備事業に伴って、人工海浜を中心に整備した福岡市海浜公園は、1989年12月に開園させた実績を持つ。
今後、海浜レジャーが多様化して、ビーチパークが注目を集めるという世界的な潮流の中、公園と海浜との一体開発のという新たな波に乗って、海浜レジャーの新たな提案が福岡・博多の地からなされていくのか。
今後について、大いに注目したいと思う。
参照サイト
夏といえば? 海!!-水質の良い海水浴場の数-(更新日2023年8月31日)
http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/number-of-beaches/
YOKA NAVI「福岡で気軽に楽しむ海水浴!市内から車&電車で1時間以内のおすすめビーチ」
https://yokanavi.com/feature/62341/
博多の豆知識 vol.15「福岡市最初の海水浴場って…」
https://www.city.fukuoka.lg.jp/promotion/mamechishiki/chishiki15.html
帝国書院『何でも日本一』
https://www.teikokushoin.co.jp/statistics/no1/detail/306/
湘南の情報発信基地『黒部五郎の部屋』(鵜沼を巡る千一話)第0115話 海水浴場事始め
https://kurobe56.net/ks/ks0115.htm
愛知県常滑市公式観光サイト『常滑とこなめ観光ナビ』世界最古の海水浴場 大野海岸
https://www.tokoname-kankou.net/spot/detail/23/
国土交通省観光庁観光資源課『ビーチの観光資源としての活性化に向けたナレッジ集-参考資料-』(2019 年3月)
https://www.mlit.go.jp/common/001279560.pdf
Fukuoka Facts「夏といえば? 海!!-水質の良い海水浴場の数-」
http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/number-of-beaches/
福岡市海浜公園『海っぴビーチ』〈マリナタウン海浜公園~シーサイドももち海浜公園ももち浜地区~同地行浜地区〉
https://www.marizon-kankyo.jp/