資金調達だけじゃない、クラウドファンディング

生産者と消費者を“背景”で繋ぐ。原料にフォーカスしたモノづくりへのチャレンジ

2019年、久川誠太朗さんが27歳の時に福岡市で立ち上げた会社『株式会社フリップザミント』。これまでにも「原料にフォーカスしたものづくり」に取り組んできた同社ですが、2020年の冬、新たにハイテク撥水ニットの商品化に向け、クラウドファンディングに挑戦しました。ものづくりの背景を知ってもらい、生産現場と消費現場を近づけたい。そんな思いで商品開発を手掛ける久川さんに、お話を伺いました。

天然素材と最新技術がコラボした「ハイテク撥水ニット」

モノが手元に届くまでに関わる多くの人やエピソード。普段は見ることがない「背景」を知って、商品選びのきっかけとしてもらいたいと、フリップザミントが取り組むプロジェクトが「HiKEI(ハイケイ)」です

そして、そのプロジェクトの一環として誕生したのが、オーガニックコットン100%の「ハイテク撥水ニット」。天然素材と最新技術のコラボレーションで生まれた、高機能ニットです。

『HiKEI公式オンラインショップはこちら

天然素材なのに高機能、環境にも優しい一着

ハイテク撥水ニットは、東京都墨田区にある老舗糸屋のマルヤス毛糸株式会社が開発した撥水糸を使用。そのため天然素材ながら撥水効果は抜群で、普段使いだけでなくアウトドアシーンにも使える一着に仕上がっています。

久川さん

今回のハイテク撥水ニット以前に、丈夫さを売りにした高級オーガニックコットンTシャツを作ったことがあるんです。こちらもクラウドファンディングで資金を募集し、およそ130人の方から支援をいただけました。

そして次は何を作ろうとなった時に、オーガニックコットンだけではなく…プラスαの価値を付けたいと思ったんです。

ニット製品の製造工場に相談したところ、ご紹介いただいたのが『マルヤス毛糸』さんでした。そこで出会ったのは“天然由来の成分”によって撥水加工がほどこされた糸。

撥水加工の糸自体は、他社でも製造されていますが、フッ素化学物による撥水コーティングが一般的。環境への負担が低い天然由来のコーティングというのに惹かれ「この糸を使ってニットをつくってみたい」と思いました

水を弾くのはもちろん、コーヒーやジュースなどもさっとふけばシミになることはありません。また家庭で洗濯ができ、しかも乾燥が早いという特徴があります。天然素材ならではの肌触りで、動物繊維でチクチクしてしまう敏感肌の方にもおすすめです。

クラウドファンディングで大切なのは、相性が良いプラットフォーム選び

フリップザミントとしては、クラウドファンディングによる2度目の資金調達。支援金額の目標は30万円でしたが、最終的には、22人から40万円以上の支援金が集まりました。機能性は抜群であるものの、生産数も多くないことからニットセーターにしてはやや高額で、当初は不安もあったといいますが、前回から続いて支援してくれた人もいたそうです。

久川さん

クラウドファンディングのメリットはたくさんあります。はじめは、ブランドのファンを作っていきたいとの思いで挑戦しましたが、今回は販売手法のひとつとしてチャレンジした部分があります

また1度目のクラウドファンディングで実績ができたことは、今回の商品づくりにおいて工場との契約がうまくいったり、ブランドを多くのメディアで取り上げてもらえたりと多くのメリットがありました

とはいえ、一口にクラウドファンディングといっても、私たちが利用した「CAMPFIRE」のほか「Makuake」「GREEN FUNDING」などさまざまなプラットフォームがあります。

それぞれにブランドイメージがあり、「社会課題の解決に興味がある人」「これまでにないガジェットを手に入れたい人」など支援者サイドのタイプも異なります。だからこそ、自分たちのプロジェクトと相性が良いプラットフォームを選ぶことは、非常に大切だなと感じました

資金が集まらなくても失敗ではないから、あきらめないで

2度の資金調達はいずれも目標金額を大きく上回る結果をだしているフリップザミントですが、一方で「資金が集まらないから失敗」ではない、と久川さんは話します。

久川さん

クラウドファンディングって、お祭りみたいな感じなんです。たくさんの人が集まっている場所に、自分たちの商品を出店して発信していく。

でも立ち止まって見てもらったり、話題にしてもらったりするためには、まるでビラ配りのようにオフラインで地道に宣伝していく必要があります。出したからといって、必ずしもお金が集まる、魔法の道具ではないんですよね。

自分たちの思いを伝えることは大事です。でも、相手にとってのメリットもしっかり伝える必要があります。それを手にすることによって、人生がどう豊かになるのか、どんな価値が生まれるのか。

相手のことを考えないといけない。クラウドファンディングで資金調達がうまくいっても、いかなくても、そんな風に相手のことを考えて頑張れる人は、最終的にはきっと成功すると思います。資金がうまく集まらなかったからといって、プロジェクトそのものをあきらめる必要はありませんから。

「栽培現場」を感じられる場所を目指して、コットン栽培に挑戦

クラウドファンディングでの支援者の多さからも、関心の高さがうかがえる「HiKEI」プロジェクト。消費者が少しでも生産現場を知ることができる場づくりをしたいと、自社でコットンを栽培にもチャレンジしています。

久川さん

生産現場をもっと知ってもらいたいとの思いで始まったのが「HiKEI」プロジェクトです。生産者や生産現場を知って商品を選ぶことは、食べ物であればすでに浸透しているのですが、それ以外だとまだまだ

敢えて食品以外で、と考えた時に、もっとも見えにくいアパレル分野に挑戦してみようと思ったんです。洋服であれば、そもそもの原料はコットン。

今回のニットが作られたコットンは、ウズベキスタンの農園で栽培されています。残念ながら僕自身もまだ訪問できていないのですし、実際に消費者の方が足を運んでみるというのは難しい場所。そこで少しでも現場を知ることができればとの思いではじめたのが、コットン栽培です

実際、コットンを育てるだけであれば、僕たちでもなんとかなりました。でも、産業ベースで大量生産を考えると、とにかく人件費がかかって日本国内では商売として成り立たせるのは非常に難しいということをやってみてつくづく実感しましたね。消費者やアパレル関係者の皆さんには、少しでも現場を知ってもらうために気軽に訪問してもらいたいです。

 
背景を知ることで興味・関心を持つきっかけを作りたい

商品の「源流」に触れる取り組みに力を入れたいと話す久川さん。今後はどのような展開を考えられているのでしょうか。

久川さん

今後はもっとたくさんの人に向けて生産現場を伝えながら、商品購入のきっかけを作って行けたらと思っています

クラウドファンディングで挑戦した2つの商品は、やや高額で敷居が高いイメージ。よほどファッションに興味がある人以外は、生産現場を知る以前に手に取る人が限られる商品だったと思います。そこで新たに開発したのが、3000円ほどで買えるルームフレグランスです。

日向のクスノキや阿蘇のスギなど、九州の間伐材から抽出した精油で作られています。九州産の木材を生かしたフレグランスを通して、間伐材とは何か、その役割や目的をお伝えできたらうれしいです。
 
さらにハーブ農家と新しいフレグランス商品づくりもはじまっています。感染症が落ち着いたら、実際に農家や林業の現場を訪れて、現場の現状を直接教えてもらったり、精油抽出体験をしたりできる体験ツアーを組みたいと考えているんです。

消費者の皆さんに、関心や興味を持ってもらえるきっかけを作っていける存在になっていき、さらに農家さんの支援にも繋がればうれしいですね

2021年4月、大丸福岡天神店エルガーラ・パサージュ広場で開催される「福岡オーガニックマルシェ」をはじめ、春からは多くのイベント出店も控えているフリップザミント。何気なく手にしている商品に隠された物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。知らなくてもいいけれど、知ってみるとひとつひとつが魅力的になり、ときめきを感じるものになる。モノに秘められた“背景”は、より人生や暮らしをより豊かにしてくれるエッセンスになるかもしれません。

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紙とWEBの編集ライター
戸田 千文
愛媛県出身。広島、東京生活を経て、転勤族の夫とともに2018年夏に福岡暮らしをスタートした。情報誌やレシピ本、WEBコンテンツの企画・制作を通して出会うローカルのおいしいモノ・楽しいコトが大好き。

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