福岡発ブランド、世界を目指す!④

パンプスのパカパカを後付けストラップで解消。靴を愛する女性が発案したシューループ

「パンプスのかかとがパカパカ浮いて脱げてしまう」「スポスポ抜けそうで早歩きできない」。女性なら誰でも経験ありますよね。そんな悩みを解決するアイテムが注目されています。福岡のアトリエブランドRednu(レドゥー)の「シューループ」。どんなパンプスにも付けられる小さなシューズアクセサリーの効果とは?

「可愛いのに履けない…を解消」「スポスポせず最高」に数万人がリツイート

 
「強く推したいものなんですけど、これ、『シューループ』っていうの」「パンプス可愛いのに履けない…ってことが解消される最高の代物。ゴムみたいにズレてイライラ、スポスポしたりしなくて最高
 
2018年1月、ある女性のツイッターに7万8000もの「いいね」が寄せられ、リツイートは3万を超えた。
 
既に各地の大手百貨店が取り扱うようになってはいたものの「知る人ぞ知る」存在だった「シューループ」は、この“つぶやき”をきっかけに、その名が全国に知れ渡ることとなった。
 
「普通に購入されたお客さまのお一人だと思うんですが」と、企画・商品化した下平理恵さんも驚く反響。いかに多くの女性たちが、パンプスの「パカパカ」「スポスポ」に悩まされているかを実証する出来事だった。
 

ヒールに引っ掛けるだけで「パカパカ」問題を解消。1.5~9cmヒールのパンプスならば一つの「シューループ」で対応可能。色、デザインのバリエーションも豊富だ

脱げやすい、歩きにくい、疲れる、痛い。職場でハイヒールやパンプスが義務づけられることに抗議する運動が、「#MeToo」をもじって「靴」と「苦痛」を掛け合わせた「#KuToo(クートゥー)」という造語で大きく広がり2019年の流行語大賞に選ばれたのも、女性共通の悩みだったからだ。
 
そう、義務や強制はいや。好きなときに好きな服を着て、好きな靴を履きたい。プライベートな時間には、思いっきりおしゃれを!
 
だけど……ん? 歩き始めるとパカパカ、スポスポ。あー、電車に間に合わない! せっかくのデートも台無し。
 
理恵さん自身、そんな女性の一人だった。
 

熟練の職人技にさらに磨きをかける裕さんと温かくも切れ味の良いセンスでデザインを描く理恵さん。「靴を愛し、革を愛する2人の物語」が紡がれている

これを使うだけで……棚の奥に眠っていた〈歩きにくい靴〉がよみがえる

 
「靴を作りたい」一心で福岡から上京。理恵さんは浅草のシューズスクールを経て婦人靴メーカーに就職、埼玉工場でパタンナーとして働いていた。
 
靴作りはほとんど手仕事。5ミリピッチで緻密に作られる。「歩きやすく、女性の足を美しく見せるデザイン性の高い靴を」と、メーカーもデザイナーも日夜、研究している。
 
しかし「パカパカ」「スポスポ」問題は解決しない。
 
理恵さん

一人一人、かかとの形や甲の幅が異なり、左右でも違う。一つの木型ではどうしても補いきれないんです

 
靴にストラップを縫い付けたり、中敷きを入れたり。市販のシューズバンドも試してみたが、アームバンドと変わらないゴム製の輪では、いつの間にかずれてしまう。デザインもパッとしない。
 
きちんと支え、かつパンプスのフォルムを損なわず、より引き立たせる洗練したデザインのものがあれば……。理恵さんの脳裏に、革のシューズバンドがひらめいた。
 
強くしなやかな本革の特性を生かしながら芯材を入れて強度を高め、パンプスの平均的なトップラインやヒールの形状を考慮。試行錯誤しながら作り上げたシューズバンドは一見、華奢ながら足とパンプスをしっかりサポートする。「パカパカ」脱げて歩きづらかったパンプスが、ストレスなく長時間歩ける靴としてよみがえった。
 

デザイン豊富な「シューループ」をアクセントにすれば、デイリーのパンプスもパーティー用に変身する

後に「シューループ」と名付けられ、女性たちのハートをつかむ新商品の誕生だった。
 

「営業?ほとんどしてないです」。取扱店が増えたのは“足の専門家”のおかげ

 
結婚を機に退職、独立した理恵さんは、試作から1年後の2012年秋、国内最大のアパレル展示会に出展。注目はされたものの商談には結びつかなかった。ニーズがどれだけ見込めるか、新しい商品だけにバイヤーも判断に迷ったようだ。
 
翌2013年1月、松屋銀座のポップアップショップで2週間限定販売。最初はほとんど売れず「失敗か」とあきらめかけたところに1個、2個……。口コミでじわじわと広がり、気がつけば在庫がつきかけていた。
 
程なく、松屋銀座は常設ショップに。他にも次々と声がかかり、百貨店を中心に東京から大阪、福岡、東北と取扱店は全国に広がっていった。
 
理恵さん

実は、こちらから売り込んだことってほとんどないんです


 
評判を聞きつけたバイヤーたちのほか、業界で一目置かれるカリスマシューフィッターが推奨。「整形外科医から『パンプスを履くならシューループを使って』と言われた」「フットケアサロンで紹介された」といった声も相次いだ。
 
手作りのクラフトワークに追われる理恵さんに代わって、「足の健康」の専門家たちが“営業”してくれたわけだ。
 

S・M・L・LLの4サイズが基本だが要望があれば規格外にも対応。エレガントなデザインと機能性の両立がうれしい

「意匠権」を武器に東京から移転。理想のアトリエと出合えたのも福岡ならでは

 
理恵さんは2016年にUターン。同じ工場で縫製を担当していた夫の裕さんとともに福岡市城南区の住宅地に工房を構えた。
 

白をトーンにした明るく開放的なアトリエショップ。製作現場を見学できるのも楽しい

移転の理由は、工房が手狭になってきたこと。
 
叩いて、打って、穴を開けて。革の細工には音と振動がつきもの。隣に響かないよう独立した一軒家を探したが、東京近郊で条件に合う物件はまず見つからない。
 
マーケットは東京が中心。しかし、拠点を移すことに不安はまったくなかった。ネット環境がありさえすれば、取引先とのやりとりに困ることはない。東京­­-福岡間はLCCも充実しているので、打ち合わせなどのために毎月1回上京してもたいした出費にはならない。
 
何より、「シューループ」には大きな強みがあった。他にないオリジナル性に加えて、「商標」「意匠」とも特許庁に出願して登録済みだったことだ。
 

実際、商品発表から1年もたたないうちに模倣品が出回り始めた。出ると「意匠権侵害」の警告状を送り、廃棄処分を求める。その闘いの繰り返し。

理恵さん

相手は業界大手。もし意匠権を取っていなかったら、1~2年で消えていたかもしれません


 
理恵さんは一時期在籍した会社で、模倣が日常化する一方、「意匠権」が指摘されると一気に引き上げる流れを目にしていた。その経験から、発案と同時に「意匠権」「商標権」の出願に着手。結果、「どこにいても大丈夫」と、安心して創作・製造に打ち込める理想の環境を選び取ることができたわけだ。
 

「つらさ、悩ましさ」を逆転。靴への思いは国境を越えるか

 
靴の技法を応用して裕さんが手がけるオリジナルバッグのブランド名は「船底の湾曲部」の意のBILGE。2人のアトリエ名は「ritofactory」。イタリア語で「まっすぐ」を意味する「diritto(ディリット)」に由来、「まっすぐな工場で、まっすぐなものづくりをしたい」という思いを込めたネーミングだ。
 

2019年11月には、アトリエにショップを併設。「靴の繊細な技術を生かして革の新しい形を提案するライフスタイルショップ」をコンセプトに、ランプシェードやメガネホルダーなど一見、革製品とは思えない不思議な作品が並ぶ。
 

裕さん

靴は『革が化ける』と書くでしょう。今度は革を化けさせて、靴ではない何かを作ることに挑戦したいんです。地元のアパレルやインテリアのブランドとコラボレーションできたら、より面白いかもしれませんね


 

ピアスやリングなどの持ち運びに便利なアクセサリーポーチ。レザーなので傷が付くのも防げる


カラーバリエーション豊かなミニウォレット。必要なカードと小銭とお札を入れてポケットにすっぽり入る手のひらサイズ

ところで、「シューループ」のブランド名Rednuの意味は?
 
「フフッ」と理恵さんはいたずらっぽくほほ笑む。

理恵さん

英語のunderを逆にしたんです。パンプスを履くのは楽しいけれど、同時に痛かったり、つらかったり、悩ましい。そんな気持ちをアップさせたくて


 
その言葉に、米国の大ヒットドラマ「SEX AND THE CITY」の主人公、靴をこよなく愛するキャリーの名言を思い出した。「“シングル”という名の靴で歩き続けることは、ときにとてもつらいこと。だから、歩くだけでワクワクするような特別な靴が必要なの」
 
シングルでも、シングルじゃなくても、「歩くだけでワクワクする特別な靴」は必要だ。そして、つらさを解消し、「気持ちをアップさせてくれる」サポートも必要。パンプスを履く女性ならば、国境を越えて共通の思いだろう。「シューループ」がインバウンドの土産に人気なのも納得だ。
 
福岡の小さなアトリエブランドRednu。海外へ羽ばたく日も夢ではない。

 ◎Rednu
https://www.rednu.net/ 
◎ritofactory(リトファクトリー)
https://ritofactory.theshop.jp/
■創業 2012年4月
■所在地 〒814-0153福岡市城南区樋井川6-31-13
■TEL&FAX 092-287-8736
 

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フリーランスライター
永島 順子
福岡市生まれ。地方紙の報道部記者として取材活動を続けた後、独立。全国紙、経済誌・専門誌などの取材・執筆に携わる。2012年から7年間、新聞社グループ企業のデジタル編集部でニュース配信・ニュースサイトのデスク業務を担当。著書に『佐賀の注目21社 志ある誠実な経営力で地元を守り立てる』(ダイヤモンド社・2017年)

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