『食べる経済学』下川哲(著)
スーパーで買い物をする際も産地を気にしますか?
私はスーパーはもちろん、旅先などでは地産地消を意識して、できるだけ地のものを買おうと心がけています。できるだけなので、必ず!というわけではないですが。
その地のもの、旬のものなど、地域に根付いた文化が香るものにはなんとなく惹きつけられますし、美味しさをより感じられる気がします。
そんな思いがある人はぼちぼちいると思いますが、一日の中で食べるものが、世界各地のどこから来ているものか、自分の食べているものと地域・世界をつなげて考えることは少ないものです。
この本「食べる経済学」の書き出しはこのように始まります。
「私は昨日、日本全国15都道府県と海外8カ国からの食材を食べました。」
そして、
「私達の普段の食事は、日本中および世界中の多くの生産地に支えられて成り立っていることを知って欲しかったからです。」と書かれています。
牛丼1人前を例えとして考えます。
牛丼1人前には「牛肉100g、タマネギ70g、米250g、醤油10cc、砂糖小さじ1」
牛を育てる部分まで含めると「トウモロコシ1.1kg、水506L、1㎡以上耕地」が必要とのこと。
生産時に必要なものを含めて考えると思った以上の材料が牛丼1人前にも含まれているのです。
ふーんと思っちゃいますが、これは1人の1食分ですので、世界79億人が3食×365日と考えるとものすごい量になります。
このように身近なレベルへ落とし込みながら、食料にまつわる社会問題を語ります。
食料を「食べる」と「作る」にわけながら、大きく3つの点から語っています。
・自然の摂理による問題
・市場の限界による問題
・人間の認知バイアスによる問題
豊富な事例紹介もあり、感覚ではなく、エビデンスをベースに進行していきます。
食料にまつわる問題であればこうやって解決したらいいんじゃない?と素人の私が思いついたりするわけですが、それがすでに実験的に検証されており、それによる効果とその限界まで議論されているあたりに、人類が食糧問題についてどれだけ取り組んでいるのか、研究や実験など多くの方の取り組みがあるのか、を知ることで人類すごい!と感動があります。
加えて、本書自体のつくりもすばらしい。
<本書の構造>
現代の社会が「食べる」の視点でどう作られているのか
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「食べる」にまつわる社会問題がどうなっているのか
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その問題を解決するためにどんな取組が行われているか
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さらに未来を考える
食糧問題を身近に感じさせるために日常の食卓をイメージさせる導入部分からはじまり、現在の社会がどのような形で作れてきて、そこにおいてどのような問題が生じているのか、それが発生する理由、課題を前述の3つの視点で書き出し、その課題について将来的にどのような改善可能性があるのかを描いてあります。
さらに、最後には未来について、バランスよく実現可能な形でのアイデアが語られます。
ロジカルにものごとを説明する際のサンプルとして、この必要な情報を網羅しつつ、贅肉がなく語っているつくりはとても勉強にりますので、書き方の参考書としてもおすすめです。
大和書房創業60周年・学びの杜プロジェクト「未来のわたしにタネをまこう」シリーズ第1弾!とのことでこのあとも同様な形でシリーズ化されていくとすると、一冊ごとに深い学びに出会えそうでワクワクしてきます。
前回ご紹介した、原書房さんの「地図とデータで見るハンドブック」シリーズにつづきこれからも読んで学んで行きたい本となりました。
戦争がおこったり、感染症が流行したりと世の中には問題が常に発生していますが、人類はこれまでにもこれからも発生し続ける問題と向かい合い、よい方向に向かうための努力をし続けていることを知れると人類への希望と尊敬の念を覚え、気持ちが軽くなります。
本って、著者の方の学びのエッセンスを共有できる素晴らしいものだと改めて感動させてくれます。
すばらしい。
>>合わせて読みたい:身の回りと世界は思ったよりも違うもの|ジル・ピゾン『地図とデータで見る人口の世界ハンドブック』
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会社経営のプログラミング言語「会計」を物語で学ぼう|加藤弘之『ストーリーで分かる会計マインド入門』幻冬舎
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食や農の現状を伝えたい。「冷凍スムージー」を通して考える少し先の未来
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食べる経済学
下川哲 (著)
出版社 : 大和書房 (2021/11/22)
本の長さ : 266ページ
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