上野千鶴子 東大名誉教授 福岡来たる!お茶くみNO!世の中を変えた女性学

東京大学の入学式祝辞で一躍時の人となった上野千鶴子さん。日本を代表する女性学のパイオニアです。私、村山由香里が尊敬してやまない方で、15年ほど前にお会いして以来、働く女性の問題や男女共同参画、アラフォー世代のおひとりさまなど様々なことを語り合ってきました。女性活躍が主要政策となりながらも女性活躍後進国から抜け出せない”今”だからこそ、上野さんからの福岡女性に向けたメッセージ。ぜひ、読んでもらいたいです。

多くの女性が涙した、東京大学の祝辞がネットを席巻

―「がんばっても報われない社会」
―「社会には未だ歴然と女性差別がある」

そんな話で始まる上野千鶴子名誉教授の昨年の東大学入学式の祝辞は動画や文章がネットで拡散され、テレビの情報番組も取り上げて大きな話題となりました。

上野千鶴子さんは、東京大学名誉教授で日本における女性学、ジェンダー研究の第一人者。歯に衣着せぬ物言いで世の中と闘ってこられました。
 

(左) 上野千鶴子さん (右) 私、村山由香里

2月始め、私が主宰する「天神キャリア塾」で上野千鶴子さんをお招きしました。福岡の女性たちを魅了したお話を、前編:講演、後編:トークセッションに分けて2回に渡ってお伝えします。

「学問ではない」と理解されず、大学の外で生まれた女性学

講演タイトルは、「道なき道の歩き方〜女性学は何をめざすか?」。

「半世紀前、大学には女性学とかジェンダー研究なんて、影も形もありませんでした。学問の世界に、ウーマンリブが殴り込みかけたのが女性学でした」と映し出されたのは、ヘルメットを被ってゲバ棒を持った女性たちの写真。


佐伯洋子・三木草子・溝口明代編『資料日本ウーマンリブ史』全3巻(松花堂ウィメンズブックストア、1993-95年)より

バリケードの中でさえ男女差別が公然とまかり通る学生運動真っ只中の1970年10月21日、国際反戦デーで「おんな解放学生戦線」が女性だけのデモをした、これが日本のウーマンリブ(※)の誕生です。

※ ウーマンリブ=女性解放運動
 
1970年代後半には、日本女性学研究会など、民間の研究会が大学の外で生まれます。その学会誌「女性学年報」創刊号の編集長が若き研究者、上野さんです。


 1970年代から「女性学」を研究し続けている上野さん

「女性学の論文を書くとき生まれて初めて、自分が誰にも頼まれないけど言いたいことがあるという、熱情と怒りを感じました。女性学に出会ったとき何に感動したか。“あ、そっか、自分自身を自分の研究対象にしても良いのか”って」目からウロコの体験だったそう。


終始、上野さんのお話に興味津々の福岡女性たち

存在しないマーケットを作った、学問の世界のベンチャー 女性学

1970年代当時の日本では、まだ始まったばかりの女性学。上野さんはどのようにして研究を進めていったのでしょうか。

「“女には誰でも語るに値する経験がある”と考えました。女の人にあなたの経験は人に伝える価値のあることだよって言って、その人を主役にしてみんなに聞いてもらう場を作ってきました。

でも、それを載せてもらうところがどこにもないのよ。だから、自分たちで勝手に雑誌を作りました。まず情報発信の場を作りました。そして、読者を育て仲間を増やしていったのです。

考えてみたら今でいうベンチャーと同じことをやってきたんです。存在しないマーケットを作る、そしてそこに、情報という材を送り出すための送り手を作ってきた」。


当時、女性学が理解されなかった頃を懐かしく語る上野さん

福岡でフリーマガジンの黎明期に働く女性の「いま」を取材して伝える雑誌を作ってきた私は、不遜にも「似てる」と思ってしまいました。その頃、合流したかったな。
 
「誰もやってない学問だったから、何を研究しても第一人者になれる」と上野さん。
 
例えば
――生理ナプキンがなかった頃はどうしてたの?
――出産に男が立ち会わないのはなぜ?

女の家事・育児・介護や少女漫画やファッションも、なんでもジェンダー研究になり、マスターベーションを研究して博士号を取った院生もいるという。
 


真剣にメモを取る、福岡女性たち

「男の領域ではなく、男の目に入らず、男が学問の上で価値がないと思ってきた事柄の全てが研究対象になって、楽しくて楽しくてしようがなかったんです」。
 
さらに、上野さんは女性にとって価値ある学問、女性学を突き詰めていきます。

「学問は“そうだったのか!”ってスポーンと天井が抜ける感覚がある。これが研究者の一番の報酬なんです。自分が納得するための、死ぬまでの極道ですね。
 
世の中どんどん動いていってる、前例のないことやるのはリスクがある。リスクもあるけど本当に楽しいよね」。

少しずつ世の中を変えてきた先人たちのバトン

「たかがお茶くみと言うけれど、その昔“こんなこと、なんで私がやらないといけないんですか?”って言ってきた女性がいて。

それを言うことで波風立てて、嫌がらせをされて孤立させられ、ズタボロになって会社辞めていく…職場の女性たちがそういう闘いをやりながらやっとの思いでお茶くみはなくなったんですよね」。

セクハラもお茶くみも宴席のお酌も、先輩たちが一つずつ変えてきた。“感謝しろ”とは言わないけど、たまには思い出してほしい」と上野さん。


 
「あの時、私が味わったモヤモヤって一体何だったのか?そこにセクハラっていう名前が与えられるとストーンと腑に落ちる。

これを「経験の再定義」と言います。この「経験の再定義」が起きると、ああ、私は悪くなかったんだ。怒っていいんだと思えるんです。

「性的からかい」「いたずら」は、セクハラ。「痴話げんか」は、DV。「痴漢」は、犯罪。「つきまとい」は、ストーカー。

そういうことを一つひとつ地道に再定義してきたんです。そうやって#MeToo(※)も起きたし、少しずつ世の中変えてきたわけですね」と上野さん。

※ #MeToo=「私も」を意味する英語にハッシュタグ (#) を付したSNS用語。セクハラや性的暴行の被害を告発・撲滅する運動の際にSNSで使用されている

私、村山も、役所で臨時職員をした時、お茶くみ体験に腹わたが煮えくり返るような気持ちになったり、会社経営していた頃、社員にセクハラ発言した中小企業経営者に抗議文書を書いて持って行ったり。

宴会で下ネタばかり言う男性経営者に「あなたはみんなを楽しませようとしているのかもしれないけど、女性は不快だ」と翌日わざわざ電話したり、言わずにいられないタイプでした。


 お茶くみの話をすると…
上野さん「あなた、周囲から浮いてたでしょ?」
村山 「えっ、別に。」
上野さん「鈍感力のおかげね (笑)。」
 
人になんと思われようが私はこう思う。周囲の声はあまり耳に入ってこないんです。

私は鈍感力でよかったかもしれませんが、上司とやりあったり、辞めざるを得なかったり、裁判をしたり、研究で新しい事実を発見したり、先人たちの様々な苦労があって“今の女性活躍の場”があるんですね。

それ、ちゃんと知っていたいですよね。そして、先人たちからのバトンをしっかり受け取り、若い人たちがより元気に活躍してほしいです。

上野千鶴子さんが福岡女性に伝えたい5つのこと

孤独にならないで仲間を増やしていくことで道は開ける
誰もやっていないことをするとその道の第一人者になれる              
前例のないことをやるのはリスクはあるけど楽しい
世の中は少しずつであるが変化している、声を上げよう
先人達から受け取ったバトンを、次の世代に手渡して
 

福岡女性の熱気で溢れる会場にて、上野さんを囲み撮影

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というわけで、次回は、福岡女性とのトークセッションの様子をお伝えします。次回公開のお知らせは、メルマガに登録していると通知が届きます!ぜひご登録を♪

【上野千鶴子さんプロフィール】
1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。京都大学大学院社会学博士課程修了。専門は女性学、ジェンダー研究。高齢者の介護とケアも研究テーマ。『上野千鶴子のサバイバル語録』『おひとりさまの老後』『女ぎらいニッポンのミソジニー』『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください』など、著書多数。
*上野千鶴子先生が理事長を務める「認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク」

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女性活躍ジャーナリスト
村山 由香里
働く女性を応援する情報誌「アヴァンティ」創業者として福岡の女性起業家の先駆者的な立場であると同時に、編集者・インタビュアーとしても豊富な経験を持つ。福岡県男女共同参画センター「あすばる」館長在職中は、女性起業家支援、企業における女性活躍に力を注ぎ、男女共同参画センターが経済界と連携する基礎をつくった。現在、フリーランスとして企業支援や自治体の女性活躍推進事業に携わるとともに、人と人がつながる場「天神キャリア塾」を主宰している。

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